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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
217/320

217.親子の情

 ゾンビやホラーものあるある、子供が一人ピンチになると救いたい親がパーティー全員を危機に陥れてしまう。

 しかも浩太と亮の親は、どっちの子供かで態度が露骨に……浩太と咲夜たちの追放シーンと比べてみよう!


 昨日屍記の前書きでニコ動の動画を宣伝したが、タイトルを間違えていた!「虞美人一輪」です!

 そういうことをするから自信作が埋もれてしまうんだ!

 もう自分でニコニ広告するしかないんだろうか……。

「な、んで……?」

 信じられない表情で、バリケード直前で膝をつく亮。その膝裏には、元犯罪者のリーダーが握るドライバーが深々と刺さっていた。

 もう片方の足に力を込めようとするも、さっき出会い頭に何かぶつけられたところが痛んで力が入らない。

 亮の自慢の足は、両方が無力化されていた。

「お、おまえ……よくも!!」

 亮の呻き声に我に返った父親が跳ね起きて怒鳴りつけるも、元犯罪者のリーダーは悪意の笑みで怒鳴り返す。

「そうだ、やれるモンならやってみろ!

 こっちに来て、こいつを取り返してみろ!」

 父親はふらつく足で飛びかかろうとするが、宗平と大樹の父に止められてしまう。

「やめろ、すぐ死霊が来るぞ!」

 亮とリーダーの後ろに伸びる廊下からは、既に不気味な唸り声が聞こえ始めている。いよいよ、死霊がここに迫っているのだ。

 不用意にバリケードから出れば、そのまま死霊に食われてしまう。

 しかし、だからといって見殺しにできる訳がない。

「じゃあどうするんだ!?

 だったら、あんたらが助けろ!うちの息子を殺すんじゃねえ!!」

 亮の父親は、押さえつけられたまま喚き散らす。このまま亮が死んだら、宗平たちが悪いと言わんばかりに。

 元々亮の提案でこうなったし、助けに行けば行った者が危ないのは分かっているのに。

 それでも目の前で大事な息子が死にそうになっては、冷静でいられない。


 しかし、そんな父を浩太は冷めた目で見ていた。

「ほらね、兄さんだとこれだよ……。

 神社で僕を差し出した時はあんなにあっさりしてたくせに。これだから、輝いている奴は憎らしい。

 そんなに兄さんを助けたいなら、まず父さんがあいつを引き受けろよ」

 その言葉には、父への恨みと兄だけは助かってほしいという願いがこもっていた。


 この思わぬ足止めに、宗平たちは慌てた。

 大人が何人も同時にかかれば、亮を助けるのは難しくない。しかしただでさえ狭い通路の出口にバリケードを組んだため、そんな場所の余裕はない。

 バリケードには、人一人通れる隙間しかないのだ。

 そのうえ無理をして元犯罪者のリーダーの後ろに回れば、そいつは後ろから来る死霊に真っ先に襲われてしまう。

 どうしても、亮を挟んで対峙するしかないのだ。

 田吾作が、とっさに銃を向けて脅しをかける。

「早う、亮を放さんか!でないと、撃つぞ!」

「フン、こいつに当たっていいならやってみな!」

 リーダーには、田吾作が撃てないと分かっている。

 だって、他でもない亮がリーダーの前で盾にされているのだ。これではリーダーの急所を狙えないし、亮に当たる危険もある。

 田吾作は、銃を構えたまま悔しそうに舌打ちするしかない。

「下手な抵抗を止めて、こっちに来るんだ!

 でないと、このままではおまえも死ぬんだぞ!?」

 森川が説得しようとするが、リーダーは頑として応じない。

「ハッ、それでもいいさ。

 社長とお嬢さんをそれで救えるなら、悔いはねえ!こんな俺を拾ってくれた家族思いの社長に報いられるなら、本望だ!」

 リーダーの顔には、竜也への感謝と忠誠が刻まれていた。

 リーダー自身の命の危機を前にしても、その忠誠は揺るがない。

「どうして!?あなたも悪いけど、あんな奴のために死ぬことないのに!!」

 咲夜が叫んでも、どうにもならない。

 白川鉄鋼の手下なんてどうせ利益で動く奴ばかりだと思っていたのに、ここまで中世の厚い奴がいるなんて。

 自分の命を惜しまない奴に人質を取られたら、他人の命を惜しむ者に勝ち目はない。

 宗平たちは今度こそ、亮を除いて全員の命を守るか危険を冒して亮を助けようとするのか、選択を迫られていた。


「何やってるの、早く亮を助けて!

 こんなに大人がいるんでしょ!?」

 後方から、亮の母親の金切り声が響く。どうやらあちらも亮の危機に気づき、母親が騒いで喚きたてているらしい。

 おかげで、美香はそちらを押さえるのにかかりきりになってしまっている。

 こちらも錯乱して暴れる父親を押さえつけるのに手を取られ、宗平と大樹の父は動けない。

 両親の命を守り他の今中にいる人を確実に助けようとしているのに、他ならぬ亮の両親はそんな皆を責めて罵る。

「止めるなら、さっさとおまえらが助けに行けよぉ!

 ここで亮が死んだら、おまえらを絶対に許さないからな!

 一生償わせてやるぞぉ!!」

「そうよ、あんたたちは自分の子が無事だから動かないでいられるのよ!私たちの子なんか、どうなってもいいんだわ!!

 村を守ってるのはそんな奴らだって、村中に言いふらしてやる!!」

 ありとあらゆる罵声と脅しと責任を求める言葉で、他の大人を死地に駆り出そうとする。

「父さん母さん、もうやめてくれ!

 俺が悪かったんだ、俺の責任だ!だからこれ以上、他の人を責めないでくれ!!」

 他ならぬ亮自身が懸命に呼びかけても、両親は全く耳を貸さず喚き続ける。亮がどんなに自分の不用心を悔いても、もう遅い。

 このまま、自分一人のせいで村の守り手は終わってしまうのかと、亮が絶望に折れかけた……その時だった。


「あーあ、兄さんは相変わらずだな」

 弟の浩太が、もみ合う大人たちの隙間を抜けてひらりとバリケードの向こうに出る。

「優しくて、正義面で、自信にあふれてて……父さんも母さんも大事で可愛くて助けたくてしょうがない。

 でも、だからこそ悪い奴にこんなにされちゃう」

 浩太は身軽に亮の体を乗りこえ、リーダーに恐ろしく冷たい目を向ける。

「だから、こんな時は僕が助けなきゃ。

 命懸けで悪を守るなら、無駄死にする覚悟ももちろんあるね?」

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