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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
216/320

216.最終防衛

 ついに死霊が入ってくる中で、役場の最終防衛ラインの戦い。

 元犯罪者たちは屈強だが、もう残りわずかで装備も時間もほとんどない。

 対する咲夜たちも武器らしい武器がないように見えますが……ゾンビには短期的には逆効果でも人間にはすごく効く簡単な武器があるのです。

 そして、開きかけのドアが罠になるのは、作者の家で時々トイレのドアでなります。皆さんの家にもある方がいるんじゃないでしょうか。無理に進もうとするとさらに挟まるヤツ。


 だが、勝ったと思っても油断すると……。


 玄関から入って少し進んだところで、元犯罪者たちは早くも立ち往生していた。

「ぎゃあああ痛いっ重いっ!早くどけてくれえ!!」

 元犯罪者のうちの一人が倒れ、情けない悲鳴を上げている。そいつの側にはたくさんの物が散らばり、大きな棚が倒れて足を挟んでいた。

 他の二人はそれをどかそうとしたが、その後ろや上からも長いすや机が重なって動かせない。

「くそっ……こいつは自然に落ちたんじゃねえぞ。

 あらかじめ仕掛けられてやがったんだ!」

 リーダーは、額の汗を拭って舌打ちした。

 ここが敵地だと頭では分かっていたが、相手は女子供ばかりだと思ってつい油断してしまったのか。

 早く安全な場所を確保しつつ人質を取らねばと、焦ったのもあるだろう。

 実際、自分たちには時間がない。死霊や田吾作がかけつけてくる前に人質を取るか中の奴らを殺さないと、生き残っても負けだ。

 この衝撃の事実を知っている者を、全員闇に葬らねば。

「……こんな所でもたついてられねえ、先に行くぞ!」

 リーダーともう一人は、動けない一人を置いて行ってしまった。足を挟まれた一人は驚いて二人を呼び止めようとしたが、もうどうにもならなかった。


 二人になった元犯罪者たちは、扉を見つけ次第破壊しながら奥へと進んでいく。

 自分たち以外生き残ってはならないのだから、一番奥の女子供が立てこもっている所以外の隠れ場所はいらない。

 そんなものがあったら、宗平たちが助かるだけだ。

 何なら、自分たちも死んだ方がいいのかもしれないとリーダーは思っていた。

 竜也と白川鉄鋼のために、今ここで起こっている事は誰にも知られてはならない。そのためなら、自分たちが死んでも仕方ないのかもしれない。

 リーダーは、それほどまでに竜也に忠実だった。

 そしてその絶対的な命令を死守すべく、二人は奥の細く薄暗い通路に向かった。


 しかし、そこに三人の子供が立ち塞がった。

「これ以上、あんたたちの好きにさせない!」

 ちらつく蛍光灯の光の下こちらをにらみつけてくる少女に、リーダーは見覚えがあった。社長の娘がはめられたと泣いていた、宗平の娘だ。

「へっ咲夜か、ちょうどいい。

 てめえらこそ、ここでお陀仏だ!」

 リーダーは舌なめずりして、ナイフを構えた。

 しかしそこに、玄関の方から耳をつんざくような悲鳴が聞こえてくる。リーダーはぎくりとして、後ろを振り返った。

 かすかだがゴトゴトと物を押しのけるような音と、こちらに近づいて来る数人分の足音。そして、わずかに流れてくる腐臭。

 ついに、死霊共が役場内に侵入してきたのだ。

 そしておそらく、宗平たちがこちらに向かってきている。

 今の絶叫は、玄関近くに置き去りにした仲間が食われてしまったのだろう。

「……お父さん!?」

 だが、今ので向こうの子供たちも動揺した。

 そのチャンスを逃さず、二人は子供たちに駆け寄る。ここでこいつらを人質にし、宗平たちに確実な死を……。

 しかし、そこで子供たちがスプレーを取り出した。

 さらに、それぞれライターやチャッカマンを構えて火をともす。

 次の瞬間、スプレーガスの火炎放射が二人を襲った。

「ひょげえええ!!?」

 いきなり顔面に炎を浴びて、二人は反射的に飛びのこうとする。しかしその時、二人の横にあった扉が開いて壁との間に二人を挟んだ。

 子供たちを囮にして、美香が隠れていたのだ。

 ドアと壁に挟まった二人が下がろうともがくほど、ドアは開く方に動いてさらに壁との間が狭まる。美香も、全力でドアを押さえている。

 おまけに火を浴びせられて、リーダーはともかくもう一人は反射的に下がろうとすることしかできない。

 侮っていた女子供たちに、二人は完全に動きを封じられた。


「よくやった、咲夜!」

 元犯罪者たちの後ろから、宗平の声が響く。咲夜たちが時間を稼いで動きを封じている間に、ついに宗平たちが追い付いて来たのだ。

「大人しくしろ、このっ!」

「グベッ!?」

 宗平と森川が、身動きのとれない二人の元犯罪者を後ろから力いっぱい殴りつける。程なくして二人は脱力し、美香がドアを離すとドサリと倒れた。

「よく頑張ったな、咲夜。さあ、バリケードの奥へ退避しよう」

「急げ、すぐ死霊が来るぞ!」

 咲夜と大樹はすぐに、両親と共にすぐ側にあるバリケードの内側に入る、浩太は宗平と森川に引きずられる父に呆れたような眼差しを向けたが、一緒に続いた。

 合流した田吾作と亮が最後に入ろうとして……ふと足を止める。

「待ってください、この二人……ここに置いておく気ですか?」

 亮が、険しい顔で宗平に声をかける。

 このまま放置すれば、この二人は死霊に食われてしまうだろう。許せないことをした奴らだが、人道上どうかというのだ。

「これだけ大人がいて武器を取り上げてしまえば、下手な事はできないでしょう。助けない意味はありません。

 それに、白川鉄鋼の悪事を暴く証人になります。

 さっきの人は助けられませんでしたが、この二人は……」

 そう言われて、宗平たちは顔を見合わせた。さっき動けない一人を見殺しにし、その悲鳴が頭の中にこびりついている。

 宗平たちの浮かない顔を見て、田吾作が言う。

「分かった、儂が一人連れて行くから残りは言い出しっぺのおまえが持ってこい。

 こういう時はな、言い出した奴が一番危険な役目を負うんじゃ」

「はい、ありがとうございます!」

 亮は喜んで、ぐったりしているリーダーの襟首を掴んだ。ここまでやって生かしてもらえるんだから、感謝していろいろしゃべれよと思いながら。

 そして引きずってバリケードに入ろうとしたところで……。

「ぐえっ……!?」

 いきなり膝裏に激痛を覚え、亮は後ろに倒れ込んでいた。

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