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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
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21.甘い工作

 学校が終わり、浩太の工作パートです。

 新しい女の子が出てきますが、彼女がどういう子かは次回詳しく語られます。


 誘いの言葉的にも味覚的にも甘い回です。北海道のお菓子って、物産展とかあるとつい買いたくなりますよね?特に例のバターサンドとか……。

 作戦は、別方面でも行われていた。

 学校から帰った後、ひな菊と彼女におべっかを使う取り巻きの子たちは、ひな菊の家に集まって多数決の作戦を練っていた。

 そこに、浩太が現れたのである。

 今まさに話題になっている白菊姫物語の作者ということで、ひな菊はすぐに浩太を迎え入れた。


 冷房の効いた広い部屋で、浩太は柔らかいソファーに座らせてもらっていた。

 いつもの根暗な顔のまま何も言わずにいると、果肉の入った濃厚なジュースが冷えたコップに入って出てくる。

 ひな菊の取り巻き立ちも、しきりにテーブルの上にある高そうなお菓子をすすめてくる。

 浩太は、自分が歓迎されている事をはっきりと感じていた。

 しばらくすると、ひな菊がニコニコしながら小さな袋を持ってきた。

「北海道のお菓子よ、さあさあ食べて!」

 浩太は心の中で苦笑しながら、包を開けてお菓子を頬張る。

 まろやかなバターの風味と洋酒のきいた香りが口いっぱいに広がり、浩太は図らずも顔をほころばせた。

 それを見ると、ひな菊はますます気をよくして浩太の側に座った。

 浩太はハスカップという聞いたこともない果物のジュースに口をつけると、一息ついてひな菊の方を見つめた。

「ふう~、美味しい。

 優しいねひな菊は、乱暴女の咲夜とは大違いだ!」

 それを聞くと、ひな菊は案の定目を輝かせた。

「でしょでしょ、あたしは仲間思いなのよ!

 あんたが仲間になってくれるなら、もっとおいしいチョコレートをあげるわよ」

 仲間にならない奴にはとことん底意地が悪いくせに……と浩太は心の中で軽蔑したが、顔には出さなかった。

 それよりも、今は工作の一環でこんなおいしいものが食べられるのだから、もらえるものはもらっておこうと気を取り直した。

「もちろん、味方するとも。

 僕はもう、咲夜のことなんか大嫌いだ!」

 ひな菊の希望に沿う答えを、浩太は一気に吐き出した。

「確かにあいつが一番たくさん調べてたけど、言い出しっぺなんだから当然だろ。僕や大樹は毎日遊ぶ暇もなく付き合わされて……えらいのはこっちだよ!

 そのうえ、あんな事言って自由研究の成果を自分のものにしようとしてさ。

 僕はせっかくこの物語を作ったんだから、みんなで素晴らしい劇を作ろうと思ったのに。それを咲夜の勝手にされるのはごめんだよ。

 僕はもう、咲夜を許さない!」

 浩太が珍しく怒りを露わにして言うと、ひな菊は手を叩いて喜んだ。

「うんうん、分かるわ~。

 人の気持ちが分からない女って、最低よね!」

 おまえがそれを言うかと浩太は心の中で毒づいたが、口には出さなかった。

 それに、ひな菊は確かに身勝手だが取り巻きにはそれなりに恩恵を与えている。

 ひな菊は、この村に大きな工場を持つ鉄工所、白川鉄工の社長の娘なのだ。

 だからひな菊に媚びを売れば、今日の自分のように豪華なもてなしを受けられる。高級で美味しいものを分けてもらえる。あげくの果てには、自分がひな菊にすり寄ることで、工場で働く親の出世をせがむ者までいる始末だ。

 つまり、魚心あれば水心だ。

 自分の勝手で嫌な思いをする人の気持ちは分からなくても、どうすれば味方を得られるかは分かっている。

 だからこんなに高飛車で傲慢でも、味方する者が多いのだ。

(だから、持てる者は憎らしい!!)

 浩太は心の中で、ひな菊をひどく憎んでいた。そして、必ずひな菊に一泡吹かせてやるとますます決意を固くした。

「ひな菊、僕は君に白菊姫をやってほしいと思ってる。

 君を姫姿で舞台に立たせるためなら、僕は助力を惜しまないよ!」

 これでとどめだとばかりに、浩太はひな菊に宣言した。


 一瞬、周りで見ていた取り巻き立ちがしーんと静かになった。そこからすごい勢いで、周りのテンションが上がっていくのが分かった。

 目の前のひな菊の顔が、これ以上ないくらいにやけていく。

「ぃぃいやったあーっ!!!」

 弾かれたように、ひな菊がとびついてくる。

「本当、いい子ねえあんたは!

 そう、姫にふさわしいのはあたしなのよ。あんな気取った頭でっかちの田舎娘じゃないわ。あんたはよく分かってる!」

 部屋にいた取り巻きたちも、口々にひな菊を誉め始めた。

 曰く、浩太は見る目がある、ひな菊さんこそ現代のお姫様です、等々。


 そんな取り巻きたちの中で、一人すまして笑っているだけの女の子がいた。

 きれいに切りそろえられた長い黒髪の、どこか古風な雰囲気のある一人の少女……浩太は静かに、そいつの言動に神経をとがらせた。

「ねえ聖子、あんたはどう思う?

 白菊姫のこととか、あんたは知ってるのよね?」

 ひな菊が、その少女に尋ねる。

 するとその少女……聖子は、一瞬驚いたように目を丸くし、すぐに慌てて笑顔を作って早口に答えた。

「え、ええ、素晴らしいアイデアだと思います。

 白菊姫がこの村の菊作りに与えた恩恵は周知のとおりですし……。

 それに、ごろもいいじゃありませんか。白川ひな菊を略すと白菊になりますし、きっとご縁があるのでしょう」

 聖子にそう言われると、ひな菊はますます狂喜した。

 きゃあきゃあと黄色い声ではしゃぐひな菊たちを前に、浩太はホッと胸を撫で下ろした。

(良かった。やっぱり聖子は、何も知らない!)

 作戦は成功した、これでひな菊は白菊姫の役に向かって突っ走るはずだ。

 そして風が涼しくなる頃には、泡を食ってその役を放り出そうとするだろう。

 浩太はお礼として生チョコレートをクーラーバッグにいっぱい詰めてもらい、勝利の笑みを浮かべてひな菊の豪邸を後にした。

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