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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
204/320

204.力があれば

 母子と続いた災厄の終わりと、村人たちの次への不安。

 それを解決するために、軍人の喜兵衛は村に強い力を置くことを提言しますが……力は基本的に諸刃の剣です。

 守る力は強くなっても、使い方を誤れば……。


 過去編は、これで一旦終了です。 

 もっと短く終えるつもりだったのに、長くなってすみません。

 呪われて死にゆくクメを、村人たちは複雑な気持ちで見ていた。

 前回クルミが死んでいく時は、ざまあみろ、これで終わりだという気持ちで一杯だったのに。今回は、そうなれなかった。

 理由は簡単、本当にこれで終わりなのか不安だからだ。

 一番初めの白菊姫の時は、白菊姫と一家と悪い代官が一気に死んで全て片が付いた。

 しかし前回は一番悪い奴を倒しても終わらず、今回の災厄を招いてしまった。生き残った家族が、恐るべき報復に来てしまった。

 今回、クメの一味はほぼ壊滅したとみていいだろう。

 しかしまだ、夫であった司良木社長と息子は残っている。もしくはクメと親しかった者が自分たちを恨み、また繰り返すのではないか……。

 そんな終わりのない不安が、村人たちを包んでいた。


 宗次郎も、苦し気に呟いた。

「やれることはやったつもりだった……しかし、またこんな事になってしまうとは。

 守ると誓っておきながら、守りきれんかったではないか!」

 宗次郎は、前の災厄から自分なりに手を尽くしたつもりだった。自警団も作ったし、軍人との縁も活用して備えた。

 それでも、村の多くの者が負傷し一人は死んでしまった。

 村人の命と負担を考えて、これでも他の者に面倒をかけているとすまない気持ちでいたのに。まだ足りなかったというのか。

 ならばこれ以上、どうしろというのか。

 宗次郎は守り手の一族として責任を感じ、自信を失ってしまっていた。


 と、その時、唐突に銃声が響いた。

 見れば、喜兵衛が死霊の群れに向けた銃が白煙をくゆらせていた。その先で、死霊になってしまった自警団員がばたりと倒れる。

 それを見て、喜兵衛が興味深そうに呟いた。

「ほう、頭を撃てば倒せるのか」


「……どういうつもりかしら?」

 いきなりの攻撃に、野菊が険しい顔をして喜兵衛の方を向いた。

 喜兵衛は、淡々と答える。

「いやなに、次に備えるために確かめておっただけよ。どうやら死霊とやらは、頭が弱点だとお見受けする。

 ならば、守る者が銃を持っておれば被害は格段に減らせような」

 喜兵衛は、動かなくなった自警団の男に目を落として言う。

「それに、銃は不届きな人間から身を守るのにも使える。

 今宵自警団の者が持っていたのは棒じゃった。ゆえに、薙刀を使うクメに間合いに入られてしまい、斬られてしもうた。

 こ奴が銃を持って撃ち方を知っておれば、こうはなるまいて」

 喜兵衛は軍人として冷静に、今回災厄を防げなかった原因を分析していた。

 そしてその一つに、村の自警団の装備が貧弱だということに気づいた。クメも時代遅れの武器を使っていたが、村だって同じだ。

 村側が銃を使って防衛できていれば、ここまでやられることはなかった。

「要するに被害を出さぬためには、まず村の力で禁忌を守れるようになること。そして万が一白菊を投げ込まれても、巫女殿が出てくるまで死霊を散らさぬこと。

 銃があれば、その両方が今よりずっと簡単になる。

 その方があんたにとってもいいじゃろう、巫女殿」

 喜兵衛の提案に、野菊は少し迷った後、うなずいた。

「そうね、合ってるわ……それに、そうして撃たれた死霊は呪いから解放される。あなた、それもあってこの人を撃ったのね。

 罪のない死霊には、その方が救われるわ」

 しかし、ここで野菊は心配そうな顔を喜兵衛に向けた。

「でも、一つ覚えておいて。進んだ時代の強い武器は悪人や災いから守る力になるけど、それを使う側が悪になれば村はもっと悲惨なことになる。

 強い武器を取り入れるなら、それをしっかり考えて!」

 喜兵衛は、強い目で野菊を見返して答えた。

「よかろう、儂の目が黒いうちはそんな事にはさせん。

 ただし、儂の亡き後はもう儂の関するところではない!」


 こうして、強力な軍人の関与により、前回ほど被害を出さずに大正の災厄は終わった。

 村はその後司良木家に連絡を取ったが、司良木社長と息子に報復の意志は全くなかった。クメが家族にも暴力を振るって完全に見放されていたことが、吉と出た。

 これで、司良木家絡みの災いの種はなくなった。


 しかし、村は今回のことを教訓に、次の災厄に備えて防備を整える。

 村の秘密を知った喜兵衛と軍人の何人かに村に移住してもらい、彼らの提言の下で防衛体制を大幅に強化した。

 村には常に銃を使える者を数人常駐させ、村人の中からも猟銃を使うために猟師になる者が何人も現れた。

 そして、中秋の名月の晩は銃を持つ者が番をする、現代に続く体制ができ上がった。

 これでもう、災厄は断ち切られたかに見えた。


 しかしこの流れの中で、村では軍人の発言力がどんどん強くなっていく。村人たちは、強い力をくれた軍人たちを尊敬し頼るようになった。

 一方、本来の守り手である泉家は凋落する。宗次郎は村を守れなかった自責に力を落とし、息子たちも労咳(結核)で兵役に行けなかった一人を除き戦争で死んでしまう。

 時代が昭和に変わった時、泉家は労咳持ちの気弱な当主がただ子を残し、日々菊をいじって生きているだけになっていた。

 そんな中喜兵衛が死ぬと、軍人の二世たちは付け上がっていく。

 第二次世界大戦前夜の、軍国主義がそれに拍車をかけた。

 お国のために外で戦っているからと、軍人の家族たちは村を私物化し始める。自分たちの手柄と見栄のために、村に無茶を強いるようになる。

 さらに進んだ時代の重火器をちらつかせる彼らに、村人たちは抗うこともできなかった。

 村全体が疲弊し軍人一族の要望に応えられなくなる中、喜兵衛の孫にあたる喜久代は父が戦場から帰らない寂しさもあって、自分たちの偉さを分からせようと禁忌を破ってしまう。

 村が強すぎる力の負の面を目の当たりにし、泉家を再び立てて軍に頼らない体制を築いたのは、四度目の災厄で目を覆うような被害を出した後だった。

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