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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
19/320

19.作戦開始

 夏休みも終わりに近づき、咲夜たちの作戦が始まります。

 まず最初は、学芸会の演目を決めてしまうこと。

 そして、次に咲夜が柄にもなくわがままを言った理由は……。

 8月の下旬、作戦開始の日がやって来た。

 宿題の一部を提出し、二学期に向けて学芸会の話し合いを始める全校出校日である。

 大樹と咲夜のかばんには自由研究の発表資料が、そして浩太のかばんには学芸会用に作った『白菊姫物語』の脚本が入っている。

 これを作るために、大樹たちは全校出校日までの全ての日を費やした。

 昨年の学芸会の案内を探し出して、どのくらいの時間で終わればいいかを計算して、すでに大まかな流れはできている。

 全校出校日の初めての話し合いで、ここまでの脚本を出せる奴はそういないだろう。

 しかもこれは先生方のウケもいい、オリジナルの物語だ。自由研究という宿題から派生した、愛郷心をくすぐる郷土史だ。

 これだけプラスの要素があれば、まず選ばれないことはないだろう。

 大樹たちはほくそ笑んで、その時を待った。


 ホームルームは、滞りなく進んでいった。

 大樹たちは本日提出しなければならない宿題以外にも多くの宿題を提出し、小さな優越感にひたった。

 宿題の提出が終わると、教室の空気が一気に緩んだ。

 出すものはもう出したから帰りたいと、みんなそんな感じだ。

 そんな空気の中で学芸会の話し合いを始めようというのだから、先生も大変だ。

「ほら、まだしゃべるな!

 今から学芸会の説明をするぞ」

 私語でざわついた教室をどうにか黙らせて、担任の先生の話が始まった。

 曰く、君たちはもう高学年なんだから、面白いだけの話ではなく何か教訓があって感動を与える劇を選んでほしい。

 それもただの童話ではなく、もう少し現実味のある話がいい。例えば、歴史や偉人の伝記とか……。

 そこまで長々と語って、先生は教室の中を見回した。

「さて、これらの事を考えて今年の学芸会の脚本を決めたいと思う。

 何か、案はあるかな?」


 最初、誰も手を挙げる者はいなかった。みんな誰かが手を挙げるのを待って、早く帰りたそうにしている。

 それを見ると、先生は残念そうにこう言った。

「そうか……じゃあ、始業式の日までには何か考えてきてくれよ。

 面倒くさいかもしれないけど、後回しにすればするほど本番までに時間がなくなって大変になるんだぞ!

 それでは……」

「あ、あのっ!!」

 先生が諦めて帰りの挨拶をしかけたところで、浩太が声を上げた。

 途端に、クラス全員の視線が浩太に集中する。浩太は一瞬驚いて目を伏せかけたが、席に座ったままどうにか先生に質問した。

「あの、それって……自分たちで作ったお話しでも、いいですか?」

 それを聞くと、先生はにっこりと笑って答えた。

「もちろん、ちゃんと劇になれば大丈夫だよ。

 もしかして、もう作ってきたのかい?」

 期待を込めた先生の視線におどおどしながら、浩太は例の脚本を取り出した。

「あ、あの……つ、作った訳じゃないんですけど……。

 これ、自由研究で調べてた村の昔話で、劇になるかなって思ったんです。この村の菊畑を開いた、お姫様の物語で……」

「へえ、いいじゃないか!」

 先生にほめられて少し落ち着いたのか、浩太は立ち上がってクラス全員に届くように語り始めた。

「昔々、まだお侍が世の中を治めていた頃、この村に一人のお姫様がいました。

 美しい黒髪に透けるような白い肌、たいそう美しいお姫様で、菊が大好きだったそうです。お姫様は日本一美しい菊を作ろうとしますが、村人たちの反対にあって……。

 って感じなんですけど、やりたくない人いますか?」

 教室の中で、ちらほらとだるそうな手が挙がる。

 しかし、そいつらは全員、先生に代わりの案はあるのかと聞かれて撃沈した。結局のところ、この時点でそんなにしっかりした案を持っている奴はいないのだ。

 先手必勝、『白菊姫物語』は見事、学芸会の劇に選ばれた。


 劇の脚本が『白菊姫物語』に決まると、咲夜は作戦の第二段階に移った。唐突に立ち上がって、浩太に向かってこう言い放つ。

「それで、白菊姫の役は私にやらせてもらえるのよね?

 この自由研究で、一番たくさん調べたのは私なんだから!」

 途端に、クラス全体がざわめく。

 当然だ、いくらこの物語を作るのに貢献したとしても、それを理由に一番いい役を持っていくことが許されるだろうか。

 これは理不尽な要求だ。

 先生が渋い顔をして、咲夜を諭し始めた。

「いや、咲夜ちゃん、それはちょっと聞いてあげられないなあ。

 学芸会と自由研究は別ものだからね、ちゃんと学芸会の配役として話し合おう。他にもやりたい子はいるだろうし、その中で話し合いを……」

 しかし、咲夜も黙ってはいない。

「話し合いの結果、白菊姫にふさわしい子を決めるんでしょ?

 だったら私が白菊姫にふさわしいじゃない!

 私は夏休みの間中、家で菊作りの手伝いをしていた。美し菊を咲かせるためだけに、旅行にも行かずにがんばってきたの。

 白菊姫は菊を育てるためだけに短い一生を捧げたのよ、菊の面倒をずっと見てきた私がふさわしいでしょう!」

 持ち前の頭脳で、いかに自分が白菊姫にふさわしいかを力説する。

 さすがの先生も、これにはたじたじとなっている。クラスの他の子たちも、開いた口が塞がらず何も言えなくなっている。

 このまま誰も何も言わなければ、白菊姫の役は咲夜のものになるだろう。

 しかし、そうはならないことを大樹と浩太は確信していた。自ら立ち上がって強弁を振るう咲夜自身も、確信していた。

 ピリピリと張りつめた空気を破って、誰かが乱暴に立ち上がる音がする。

 敵は罠にかかったようだ……咲夜は前を向いてふんぞり返ったまま、心の中でほくそ笑んだ。

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