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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
173/320

173.噛み合わない

 司良木親子と福山親子の戦い!

 初めは子供同士、そして次第に二対二へ。


 お互い、容易に倒せる相手ではありません。そんな状況で、有利不利を分ける要素はどこにあるのでしょうか。

 猛と陽介は確かに強い、しかし二対二で連携して戦うとなると戦略的な問題が……ここまでの戦いを見て気づいた方もいるかもしれません。

「来るぞ、陽介!!」

 猛の言葉が終わらないうちに、陽介の目の前にクルミの槍が突き出される。陽介は反射で身を引いて避け、自らの鉄パイプをぶつけて払った。

「ぐっ!!」

「あラ、意外とやるのね」

 クルミはさして驚くこともなく、払われた槍を回転させて刃のない方で陽介の腹を突く。陽介は一瞬ぎょっとしたが、何とか踏ん張ってクルミの顔に鉄パイプを振り下ろした。

 その鉄パイプはクルミの頬をかすめ、一筋の赤黒い線を作る。

「まア、乙女の顔に……ヒドいわ。乱暴者ハ、嫌いヨ!」

「俺だって、てめえみたいな女はごめんだ!」

 クルミと陽介は、お互い危ないのを一発もらって距離を取る。

 腹を突いたのが槍の切っ先だったら陽介は深手を負っていたし、鉄パイプが頭に直撃していたらクルミは体勢を崩していた。

 どちらも紙一重、互角の攻防だった。

 クルミの表情が、さっきより引き締まる。陽介を、そうやすやすとは倒せない相手と認めたのだろう。

 そのうえで、挑発するように言う。

「でも、さっきの……お母サンと比べレバ、マダマダ……。

 今度は私ガ、あんタを……ナブッてあげる!」

「やれるもんならやってみやがれ!!」

 陽介も対抗して啖呵を切り、再びクルミに躍りかかる。姿勢を低くして素早くクルミに肉迫し、鉄パイプで足を突こうとする。

 クルミはそれを槍で止め、すぐ足下まで寄ってきた陽介に噛みつきを仕掛ける。

 しかし陽介は尻餅をついて身を引き、上体を後ろに倒しながら勢いよく足を上げ、クルミの顎を蹴り上げた。

「ブゲッ!?」

「ざまあみろ!」

 思わぬ反撃にのけぞるクルミ。

 だが、陽介が反撃する暇はなかった。陽介が風切り音を聞いてとっさに転がった直後、そこにクメの槍が振り下ろされた。


「あ、危ねえ!」

 陽介は、そのまま横に二回ほど転がって距離を取ってから起き上がる。その間に、クルミも体勢を立て直してしまった。

「ご、ごめんナサい……お母サン……」

「相手を……はっ!甘く、見ナイの……イヤッ!

 あの夫婦ノ、息子なノヨ」

 クメは娘を守りながらも、猛に鋭い突きを繰り出して近づけない。

 さっきの楓には薙ぎ払いでも有効だったが、力が強く重い猛はそれでは止められない。ゆえに、戦い方を変えているのだ。

 猛の武器はハンマーであり、当たればダメージは大きいが、リーチが短く小回りがききづらいという難点がある。

 そのため、速い突きを近寄ろうとする猛の急所が通るところに出せば、猛は止まるか体勢を崩して攻撃をやめるしかない。

 それでも、力こそ強さだと信じる猛は武器を換えようとしない。

 だって、さっきの戦いではそれでうまくいったのだから。

「おい、陽介、何ボサッとしてる!?

 早くあのアバズレ共を止めろ!!」

「いや止めろって……二人いちゃ無理だよ!」

 そう、猛はこの期に及んで誰かが攻撃のチャンスを作ってくれることを期待している。さっきまで、ずっとそうやって戦ってきたから。

 猛の役目は、誰かが動きを封じた死霊の頭を潰すこと。

 頭を素早く潰すには力と思い切りが要るため、それはそれで重要な役割だ。

 しかし、そうするには誰かが相手の動きを封じねばならない。動いている相手にハンマーを当てるのは大変だし、隙が大きくて反撃の恐れもあるのだから。

 さっき猛が安心してそれができていたのは、楓と他の戦ってくれる社員のおかげだ。

 しかし、猛はそれを認められない。自分が一番、圧倒的に死霊を倒して稼いでいる。つまり自分が最強だからだ。

 だがそれは他の人手あってのことだと、今暴かれようとしていた。

「クソッ陽介、早くしろ!

 てめえはあの腐れ女より無能なのか!?」

 猛は苛立ち、陽介を口汚く叱りつける。

 しかし、いくら叱られたって陽介がすぐできる訳がない。クメとクルミはさっきの教訓から学び、二人でお互い補い合うように立ち回っている。

 クルミが攻撃を受け止めるとクメが反撃し、クメの攻撃の隙を突こうとするとクルミが邪魔に入る。

 一方、陽介と猛はうまく連携できていない。

 猛は届かない攻撃を仕掛けようと無駄に動くか、陽介に何とかしろと怒鳴るばかり。

 陽介は母子の攻撃からすばしっこく逃げて反撃しようとしているが、その攻撃は転ばせるためではなく相手を損傷させるためのものだ。

 楓のように変幻自在に相手の重心を崩すのではなく、傷つけて動きを封じるために手足の関節や顔面を狙う。

 ゆえに、読まれやすく防がれてしまう。

 だが、陽介はその方法こそが正しいと信じている。

 なぜなら、派手に壊して勝つのが手本となっている猛の戦い方だから。陽介もまた猛と同じで、相手を壊すことに重点を置いている。

 そのうえ楓のことを腐れ女だの無能だのこけおどしだのと貶められると、ますます楓の戦い方を否定してしまう。

 本当は、それが猛と組むのに一番必要なのに。

 この有様で、司良木親子を崩せる訳がない。

 そうなると持久戦になってくるが……持久戦で有利なのは人間ではなく死霊だ。

「畜生、何で陽介はこんなに役に立たねえんだ!

 おい、いい加減にしねえとてめえを囮に……いや、何でもねえ!」

 焦れてきた猛はつい陽介を蹴り飛ばして囮にしようと後ろから近づき……竜也のわざとらしい咳ばらいを聞いて慌ててごまかした。

 竜也の銃口は、今もこちらに向いている。

 まさに前門の死霊後門の人間……猛は両方から突きつけられた死の刃の間で歯噛みするしかなかった。

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