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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
171/320

171.恫喝と恐喝

 失態がバレた猛ですが、人々の混乱に乗じてなおも悪あがきします。

 しかしその結果は……陽介の父親なんですよ、やっぱり。


 肝心な時に法は人を守ってくれないという、竜也社長の心構えが正しい局面です。こういうどうしようもないのに対しては、やっぱり社長の違法武器が欠かせないんですね。

 ロビーは、一気に恐慌に包まれた。

「うわああぁ!に、逃げろ!!」

「逃げるって、どこへ!?」

「し、社長、何とかしてください!社長―っ!!」

 武器を持っていない社員と村人たちは、雪崩を打って竜也のいる玄関の方に押し寄せる。しかし外には出ようとせず、玄関付近で押し合いへし合いになる。

 だが、その喧騒は一瞬で静まり返った。

「落ち着け、私の指示に従え!!」

 ズダーンと重い銃声に、人々は反射的にすくみ上がって口をつぐんだ。

 竜也が、天井に向かって一発撃ったのだ。

「そのように騒いでも死霊は去らない!我々の逃げ場がなくなるだけだ!まだ敵は少ないのに、無駄な犠牲を増やす気か!?

 さっさと猛や戦闘員たちを前に出せ!!」

 そう言われて、人々は恐怖に息を詰まらせながらも道を開ける。

 敵がすぐ側に来たので慌てふためいたが、竜也の言うことは正しい。現れた敵は司良木親子のみ、数では圧倒的にこちらが有利だ。

「ほら見ろ、やっぱり俺がいなきゃ戦えねえ!」

 猛はふてぶてしい顔でハンマーを担ぎ上げ、前に出る。

 そして、社員や村人たちを振り返って嘲笑うように言う。

「へへへっ、あいつらを倒せるのは俺だけだ!

 それだけおまえらを守れるんだから、さっきのことはチャラでいいよな?そうしないと、俺は戦ってやらねーぞ」

 なんと、戦うことと引き換えにこの状況を招いたことをなかったことにしろと迫る。

 あまりの横暴に、人々は言葉を失う。

 だが、あの二人の大罪人はあまりに強い。自分たちで戦ったら、だれだけ被害が出るか分からない。

 猛は、人々の命を人質に取っているのだ。

 静まりかえる人々の前で、状況を知らない陽介だけがはしゃぐ。

「そうだそうだ、父ちゃんは英雄なんだぞ!

 守ってもらうんだから、きちんと尊敬しろやオイッ!」

 この馬鹿は、ここで父が働けば自分の禁忌破りもかばってもらえると思っているのだろう。揃いも揃って、どうしようもない親子だ。

 人々の目に、この父子への殺意が湧き上がった。


 しかしそれが何らかの破滅的行動として表れる前に、竜也がすっと前に進み出た。不快感を露わにした険しい顔で、真っ向から猛をにらみつける。

「何です社長?いいんですかい、社員を守らにゃならんのでしょう」

 もはや竜也に対しても舐め腐った口を利く猛に、静かに両手を伸ばした。

「……人には向けまいと思っていたのだがな」

 そう言う竜也の手には、さっき野菊を撃った拳銃が握られていた。銃口は、まっすぐ猛に向いている。

「……は?

 冗談でしょう社長!不法行為ですぜ!?」

 猛の顔が面白いように青ざめ、後ろに司良木親子がいるのに後ずさる。

 竜也は、完全に据わった目をしていた。

「さっき言っただろう、人命は時として法よりも優先されると。これだけの人命を私欲で危険に晒す貴様は、これを使うに値する。

 で、どうするのかね?君が逃げ出そうとしても私をぶとうとしても、私の銃弾の方が遥かに速いわけだが。

 力が全てだと言うなら……分かるな」

 猛は、引きつった顔をして固まった。

 いくら馬鹿でも分かる、ここで逆らってはならないと。自分より強い者に逆らってはならない、力のみを信じるからこその鉄則だ。

 猛は一転、媚びるような卑屈な笑みを浮かべて言った。

「い、いやあ、分かりますよ社長!

 俺はただ、そこの日和見な奴らにちょっと分からせてやろうと……」

「ごたくはいい、さっさとあの二人を始末しろ。

 おまえは問題を隠して危機を招き、わが社の人間に犠牲まで出した。ならばせめて、復活したそいつらを倒して少しでも安全を取り戻せ。

 できなければ、これまで約束した報酬は全てこれの賠償に充てる!」

 そう言われては、猛も従わない訳にはいかない。

 愚かにも非日常に付け上がって無理を押し通そうとした猛は、陽介と同じように引き際を誤って墓穴を掘ってしまったのだ。


「え、と、父ちゃん?社長?何で?」

 状況が分からず目を白黒させる陽介と清美たちは、別の社員から説明を受けていた。

「実は猛さんが楓さんの大事な証言をもみ消そうとして、こんな事に……」

 聞いているうちに、三人ともみるみる顔が青ざめていく。簡潔にだが説明が終わると、三人は揃って悲鳴を上げた。

「何やってんだよ父ちゃあああん!!?」

「何で野菊以前の問題になってんのおぉ!!?」

 陽介としては、自分が大罪を犯しても父と母に大きな功績があればそれを盾に守ってもらえると思っていた。

 しかし、まさかの猛がこの失態である。

 これでは、陽介は守られるどころか猛の分まで叩かれてしまう。

 平坂親子としては、野菊が復活するまでの間に準備を整えて休息をとり、さらに村の方も何とかできれば勝てると踏んでいた。

 しかし、ふたを開けてみれば戦いは野菊以前に敵の不意打ちで始まり、自分たちの大事な手駒がいくらか奪われていた。

 計算外もいいとこである。

 しかも、敵ではなく味方が原因でこうなるとは。

 これでもし白川鉄鋼が勝てなかったら、自分たちはどんなひどい事になるか分からない。安心できるはずの未来を、理不尽に奪われたようだった。


 そのうえ、理不尽と計算外はなおも降りかかる。

「おい陽介、おまえも手伝え!

 元はといえば、おまえが菊を供えたせいでこんなになったんだぞ!?あの女もいねえことだし、てめえも落とし前つけろや!」

 呆然としている陽介に、猛から戦えと声がかかる。

 周囲も、その提案にうなずいた。

「そうだな、あの二人相手に猛くん一人ではきついかもしれない。大事なお父さんと居場所と生活を守るために、君も恵まれた力を振るいたまえ」

 竜也がそう言って陽介の肩をポンと叩き、鉄パイプを渡す。

 こうして愚かな息子は、ついに愚かな父親と共に前線に立たされてしまった。

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