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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
165/320

165.強襲作戦

 石田の生存を知り、何としても消そうとする竜也。

 そんな竜也の駒は、竜也の非道さにふさわしく、言う事を聞くならず者が揃っていました。だんだん竜也の化けの皮がはがれ、本性がむき出しになっていきます。


 そして、そこに戦力を割かねばならなくなったうえ、竜也にはさらに工場の防衛をしなければならない時も迫ってきます。

 それを乗り切るために竜也は……。

 この放送は、他のところにもいい効果を発揮した。

 役場に向かう途中死霊によって足止めされていた大樹と浩太の家族が、再び動けるようになったのだ。

「放送通りだ、死霊たちがスピーカーに集まっていく!

 今のうちに、スピーカーのない所を選んで抜けるぞ!」

 大樹の両親は、死霊に出くわすと用心して物陰に隠れてやり過ごしていた。おかげで、まだ体力には余裕がある。

 それに、大樹の父親は消防団に属していたこともありスピーカーの場所を知っている。

「少し遠回りになるが、こっちだ。

 しかし宗平さんも気が利くな、きちんと死霊をスピーカーに引き付けておいてくれる」

 防災放送が終わっても、スピーカーからは歌謡曲が流れ続けている。少しでも死霊を引き付けておくようにとの、配慮なのだろう。

 大樹の両親は、死霊を避けて素早く役場に向かった。


 しかし、浩太の家族はそうもいかなかった。

 はやる亮に引きずられて疲れ切った両親はついに死霊以下の速さでしか歩けなくなってしまい、危うく死霊に囲まれかけた。

 放送の隙に何とか物陰に逃げ込んだものの、回復にはしばらくかかりそうだ。

 おまけに近くのスピーカーには大量の死霊が群がっており、一度姿が見えるところまで出て走らなければここから出られない。

「くっ……せっかく死霊が釘付けになってるのに!」

 動きたくても動けない状況に歯噛みする亮。

 だが両親はもう、気力すら失いかけていた。

「まあまあ……そんなに急ぐこともないだろう。

 浩太はもう安全な所にいるし、放送だってしばらくこのままだろう。わざわざ急いで危険を冒さなくても、行ける時に行けばいいんだ」

 両親の言葉は、実に的を射ていた。

 ただし、それは本当に状況が変わらなければの話。

 赤い月に照らされた運命は、どこまでも村人を弄ぶ。今また村を乗っ取ろうとする悪意が、彼らに襲い掛かろうとしていた。


「どういうことだね事務長!!」

 白川鉄鋼の社長室では、事務長が竜也にきつい叱責を受けていた。理由はもちろん、石田が生きていた件だ。

 そこには、さっき死霊を誘導する作戦に加わった社員たちも集められていた。

 竜也は彼らにもはや隠しもせず拳銃を見せつけながら、威圧的に言う。

「……あの石田が生きていたおかげで、我々は窮地に立たされている。このままでは、生き残っても村を支配するどころか会社が追い出されるかもしれん。

 そうなれば、君たちの居場所はどうなるか……分かるな?」

 事務長と社員たちは、真っ青になってうなだれている。

「誰がおまえたちに生きる場所を与えてやっているか、分かってるんだろうな!?」

 竜也がすごむと、がたいの良い社員たちはびくりと縮こまる。

 理由は、言葉通りの意味だ。普通ならなかなか雇ってもらえない訳アリな彼らを、竜也は世話してやっている。

 彼らは犯罪歴があったり元反社会的勢力だったりする者たちだ。社会から弾かれなかなか居場所を見つけられない彼らに、竜也は手を差し伸べた。

 表向きは、更生を助けるための慈善として。

 裏では、必ず自分の言うことを聞く駒を手に入れるために。

 現に彼らは、白川鉄鋼という職場を失ったらまっとうに生きていけない可能性が高い。寮も食堂もなくなれば、すぐにでもホームレスだ。

 ゆえに、何としても竜也に従って白川鉄鋼を守らねばならない。

 こんな奴らだからこそ、石田を捨てるという非常な作戦をも忠実に実行したのだ。

 次の作戦はそれよりもっと外道だが、彼らにやらない選択肢はなかった。しかも原因が、自分たちの不手際とあっては。

「君たちが余計な欲をかいてとどめを刺さなかったせいで、石田は生きている。

 だが幸い、居場所は分かっている。おまけに、憎き村の若頭も一緒だ。こうなれば、奴らをまとめて叩き潰して口を封じる他ない。

 役場に死霊を誘導して、奴らの突破口を開いてこい!!」

 拳銃を手にそう命令する竜也は、もはやマフィアのボスにしか見えなかった。


 そうして、再度の死霊誘導作戦が動き出した。事務長と訳アリ社員たちは再び車に乗り込み、今度は住宅街を抜けて役場を目指す。

 多少人目に触れるだろうが、確たる証拠を握られてしまった今はもうなりふり構っていられない。

 何としても証拠を消し、村の有力者を潰さねば。

 しかし、この作戦により白川鉄鋼の戦力はまた一時的に落ちる。

 清美が、時計を見ながら呟く。

「まずいわね……野菊が復活する時間がどんどん近づいてくるわ。

 ここには一応福山さんちの夫婦が残ってるけど、野菊相手にどこまでもつかしら?あなたの銃も見られてしまったことだし。

 今野菊の頭をもう一度貫けば、ここは安全になるしもっと役場に戦力を向けられるんでしょうけど……できないかしら?」

 清美の提案に、竜也は唸った。

「ぜひともやりたいところだが……狙撃が気になる。

 もしまた野菊に近づいて狙撃を受け、頭を潰しに行った者が倒れるような事になれば、貴重な戦力をさらに失ってしまうぞ」

 そう、白川鉄鋼から見てまだ山に狙撃者がいるかどうかは分からない。

 宗平たちはさっきの放送で、石田を助けたのが田吾作であると言わなかった。言ってしまえば、もう白川鉄鋼の側に狙撃者がいないとバレるからだ。

 正直、村の中で銃が使えてしかもあんな狙撃ができるのは猟師しかいない。その猟師ももう、田吾作しか残っていない。

 だから竜也と清美も、狙撃者は田吾作ではないかと薄々思っていたのだ。

「……でも、あの狙撃は殺すつもりじゃなかったように思えるわ。

 だから、戦力を失う可能性は低いと思うんだけど」

 清美の指摘に、竜也は少し考えてうなずく。

「確かに、野菊によほど近づいて止まらなければ撃たれないか、外すだろう。頭を潰すのは危険だが、武器を弾いて奪うくらいなら低リスクでできそうだ。

 まずはそれから、試してみるか」

 危険だと分かっていても、もう手をこまねていていられる状況ではない。竜也はついに野菊に手を下すことを決め、最強の戦力を呼び寄せた。

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