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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
163/320

163.暴露

 四度目の防災放送、宗平と石田のターンです。

 田吾作に助けられた石田からの情報が火を噴きます。


 村人たちの信用が落ちていたのは、放送が実情にあっていなかったから。しかし今回は……今の住宅地の状況が不自然であると、よく考えたら誰にでも分かります。

 そして、白川鉄鋼の真実が明かされます。

 混乱する村に、またしても放送が流れ始めた。

『防災放送、防災放送、こちら菊原村役場。私、泉宗平と……』

 しかしそれを聞く村人たちは、懐疑的だった。宗平が予想した通り、何度も裏切られて信用が落ちていたのだ。

 だが今回は、発信者に新たな声が加わっていた。

『……私、原台地区救急隊の石田がお送りします』

 その名乗りに、村人たちははっと耳を傾けた。

 そう言えばこんなに大変なことになっているのに、警察も救急も来てくれない。それどころか、通報しようとしても電話もメールも通じない。

 そんな中、初めて聞く外部の人間の声。

 何か少しでもこの状況を説明してもらえるかと、村人たちは耳を澄ました。

 そんな村人たちに、まず宗平が指示を出す。

『先ほど、住宅地東側から大量の死霊が流入しました。

 村民の皆さまはまず、自分の身を守ってください。侵入されていなければ電気を消して静かにし、もし侵入されても落ち着いて死霊がいない部屋に鍵をかけて隠れてください。

 この放送により、死霊は音声に反応してスピーカーの周りに集まると予想されます。それを利用し、姿を隠して逃げてください!』

 それを聞いて、村人たちは少し冷静になった。

 実際、放送を流しただけで言ったとおりの効果が出ている。

 ドンドンと扉を叩く音が消え、引きずるような足音が遠ざかっていく。目の前に獲物が見えない死霊たちは、音が流れるスピーカーに向かい始めた。

 それだけでも、襲われていた村人たちには大きな助けである。

 まだ無事な村人たちはそれに感謝し、安全なところに隠れたり死霊を家から出て行かせたりして状況を立て直した。

 それだけで、村人たちの信用は少し回復した。

 後追いではあるが、今回の放送はきちんと状況に合っている。そしてその状況でやるべきことを、的確に指示してくれている。

 きちんと自分たちを助けようとしているんだと、それは伝わった。

 そうして放送に傾けた村人たちの耳に、驚くべき情報が飛び込んできた。


『皆さん、落ち着いて聞いてください。

 野菊様は、白川鉄鋼にて倒されました。そのため現在は、平坂神社の時と同じように死霊の統制が失われています』

 まず宗平から告げられたのは、野菊が倒されたということだった。

 それだけで、村人たちは驚愕した。

 野菊はあれほどの死霊を連れていて、そのうえ物を朽ちさせ人を死霊に変える恐るべき神通力を持っている。

 それが負けるとは、一体何があったのか。

 ぎょっとする村人たちに、さらに驚くべき情報が届く。

『白川竜也が違法な銃を使って、野菊様の頭を撃ちました。

 さらに白川鉄鋼の周りにいた死霊を、車で住宅街に誘導したとのことです。死霊の群れが急に住宅街に現れたのは、そのせいです。

 我々がこの情報を把握できず放送が後手に回ってしまったこと、誠に申し訳ありませんでした!』

 それを聞いた村人たちは、さらに足下が崩れるような衝撃を受けた。

 白川鉄鋼は一体、何をやっているのか。

 竜也は評判が悪いが、違法な銃まで持っていたとは。しかし、それなら野菊が倒されてしまったことも説明がつく。

 統制されていない死霊がいきなり住宅地に大量に現れたのもそうだ。

 ただ野菊が倒されただけなら、死霊はその場からゆっくり散っていくか、近くに人間がいればその場に留まるはずだ。

 白川鉄鋼で統制が外れた死霊が、自然にこんな短時間で大挙して住宅地に来ることは考えられない。

 状況から考えて、人が誘導していないと不自然だ。

 村人たちはそれを理解して、ぞっとした。

 普通の会社だと思っていた白川鉄鋼がそんなことをするなんて、信じられない。信じたくない。

 しかし信じないとこの状況は説明できない。

 驚き恐れる村人たちに、宗平はこう言って締めた。

『信じがたいことですが、これは事実です。幸いにも、我々では知れなかった情報をもたらしてくれた方がいます。

 詳細はこれからその方、石田さんからお聞きください』


 少し間があって、放送の声が変わった。

『先ほど紹介していただきました、原台地区救急隊の石田と申します。

 本日は、村が封鎖される前に白川鉄鋼からの要請を受けて出動し、このようなことに巻き込まれてしまいました。

 しかし災害下にて人の命を守るのが私の仕事、今からそのために情報を提供いたします。何が起こっているか、どうか……お聞きください……』

 その声の最後に、少し苦痛をこらえるような呻き声が混じった。

『失礼、少し怪我をしておりまして……その理由についても、お話しします』

 石田は少し息を整えて、話し始めた。

 まず、この村は現在死霊を外に出さないために封鎖されている事。電話やメールが通じないのも、そのせいだと。

 ただし戦後この災厄が起こっていなかったため役所も判断に時間がかかり、初動が遅れた。おかげで、自分たちは早い時間にここまで来られた。

 今はもう、村からは一切出入りできないように封鎖されている。

 この村の死霊による被害を、他地域に広げないために。

 それを聞くと、村人たちは少し安心した。訳も分からず切り捨てられたのではなくしっかりした対策のための封鎖なら、納得はできる。

『……私たちが白川鉄鋼にて救護するよう要請された方は、既に死霊化していました。それに気づかず助けようとし、私の同僚が四人死にました。

 私はせめて今生きている人を助けようと、白川鉄鋼に力を貸しておりましたが……』

 そこからは、白川鉄鋼で起こったことが語られる。

 白川鉄鋼が、村の上層部を信じられない人たちの受け皿になっていること。竜也がその人たちの村への不信感を煽り、自分の味方にしようとしていること。

 その一環として、大罪人でも黄泉の横暴から守るとして菊を供えた実行犯……陽介という子を囮に野菊を倒したこと。

 その時、竜也は違法な銃を使った。

 そして、その使用と所持を人命にかこつけて正当化しようとした。

 石田はそれを訝しみ、本当は何のための銃なのか追及しようとしたが……ここからが今の状況につながる話だ。

『私は、白川鉄鋼に捨てられました』

 重苦しい吐息と共に、石田は語る。

『違法な銃のことを追求したのが、邪魔に思われたのでしょう。

 死霊を車で住宅街に誘導するのに参加しろと言われ、その途中で足首に……ネイルガンで釘を打たれ、死霊の前に放り出されました。

 そこで助けてくださる方がいなかったら、今ここで話している私はいなかったでしょう』

 あまりにもひどい、人間による蛮行の証言。

 聞いている村人たちは、全身に冷水を浴びせられた気分だった。

 そんな人を人とも思わない人間が、自分たちのすぐ側にいたのか。もし何かが違っていたら、自分がそうされていたかもしれない。

 いや、これは本当にあったことなのか。

 いくら白川鉄鋼とはいえ、これまでまっとうにやってきた会社がそんなことをするものか。やっぱりこの放送は信じない方がいいのではないか……。

 しかしそう思って戸惑う村人たちに、石田ははっきりと告げた。

『信じられない、と思う方も多いでしょう。

 私も自分の身に起こったことが信じられませんでした。

 しかしその証拠に、私の足首には今も釘が刺さっています。朝になって助けを呼べるようになるまで、おそらくこのままでしょう。

 信じられないなら、日の出後に役場に来ていただければお見せします』

 そこまで言われたら、もう信じない訳にはいかない。

 もうあと数時間で日が昇るのに、こんなタイミングですぐバレる嘘をつく理由などない。つまりこれは、本当。

 村人たちは息をのんで、事実を受け止めるしかなかった。


 今まで普通の企業だと思われていた白川鉄鋼は、ただの少し強引な社長だと思われていた竜也は、今この瞬間に極悪非道な村の敵となった。

 隠されていた本性は、村人たちにさらけ出された。

 村人たちはその事実に恐れおののきながらも、このことを知らせてくれた石田と宗平に感謝し、そちらへの信用を揺るぎないものとした。


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