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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
157/320

157.新たな手

 白川鉄鋼、なんと野菊です。

 なんで頭を撃たれたはずなのに野菊のパートがあるのかって……行動できる方法を編み出したからです。


 白菊姫が意識を取り戻せることを知った野菊は、自分にも他にできることがあるんじゃないかと気づいていました。

 そして、竜也に頭を撃たれた時にとっさにやった対策とは……死霊の巫女ならでは。

 竜也がロビーで熱弁を振るっている最中、外で倒れた野菊をのぞきこむ者がいた。

「全く、無様ね……こんな事になるなんて」

 ぼやきながら、彼女は身を屈めて野菊の手から宝剣を拾い上げる。

 頭にいくつも刺さった煌びやかな簪。まとう着物は、黒字に色とりどりの菊の刺繍。

 彼女は、食欲に任せるでもなく元来の高慢な性格のまま突き進むでもなく、他の者に見られないうちに素早くその場を後にした。

 側には、腐った肥満体をボロボロの絹の着物で包んだちょんまげ頭の男がついていた。


 事は、野菊が頭を撃たれた瞬間までさかのぼる。


 竜也が陽介を転ばせて銃を構えた時、野菊は初めてその存在に気づいた。

(なぜ、銃がここに!?

 いえ、そんな事より……!)

 こんな距離で撃たれたら、外れることはあるまい。このままでは自分はまた、頭を撃ちぬかれてしばらく眠りにつくことになる。

(冗談じゃない、こんな敵だらけのところで……!)

 これだけ敵の人手がいる中で倒れたら、夜明けまでに復活できるかも怪しい。頭が弱点と知られている以上、素直に放っておいてはくれないだろう。

 そうなれば、大罪人を討ち取るのは絶望的だ。

 かといって、ここから弾を避けるのはもう無理だ。

 スローになった視界の中、銃から煙と弾が吐き出される。

 もう、迷っている時間はない。

(やるしかない、一か八か!)

 野菊は、自らの魂に意識を集中した。生前何度かやったことがあるのを思い出して、大急ぎで感覚全てを魂に移す。

 直後、ガンッと殴られたような衝撃が走った。

 野菊の体はそのまま力を失い、竜也の前で倒れた。


 無様に倒れた己の体を、野菊は宙に浮いて見下ろしていた。

(間に合った……!)

 野菊の意識はもう、倒れた体にはなかった。野菊は使えなくなった体から抜け出し、肉体なき死霊として漂っていた。

(生きてた時に何回かやった幽体離脱……こんな時に役に立つなんて)

 意識を失っていない事に安堵し、野菊は新たな感覚を確かめる。

 死んでから初めての試みだが、成功したようで良かった。


 そろそろいい加減に、頭を撃ちぬかれた時の対策を考えなきゃと思っていた。

 頭を銃で撃たれて停止するのは、今夜の田吾作で二度目だ。しかし二度あることは三度あるというし、この世に銃がある限り何度でもあるだろう。

 このままでは、せっかく命を捧げて得たこの力で村を守れなくなってしまう。

 ただ死霊を地下から連れ出し、統制できなくなって人を襲わせるだけの殺人装置になってしまう。

 何とか、そうならない方法を考えないと。

 人間の進化にただ置いていかれるんじゃなくて、自分も対抗するための手段を考えてできるようにしないと。

 幸い、この状態になって試していないことはいろいろある。

 自分の意識がない間に心を取り戻した白菊姫が、それに気づかせてくれた。

 きっと、自分にもいろいろできる事はある。

 これまでは、やらなかったし考えなかっただけ。


 例えば、肉体のある死霊よりも肉体のない死霊の方が意識ははっきりしている。どこへでも行けて、いろいろ教えてくれる。

 だったら、意識を保つのに肉体は必要ないんじゃないか。

 肉体と魂をくっつけているから、連動する。肉体の意識を司る部分が壊れたら、生きている人間のように倒れてしまう。

(じゃあ、肉体と魂を切り離した状態なら?)

 もし次に銃で頭を撃たれそうになったらやってみよう、と思った。


 まさか次に頭を撃ち抜かれるのがこんなに早いとは思わなかったが……考えておいた対策はさっそく役に立った。

 しかし、この状態で何ができるかは分からない。

 野菊は門の近くにいる死霊たちに、竜也を襲うよう命令するが……届かない。

 死霊たちはただ食欲のみに突き動かされて、めいめい勝手に唸り声をあげてのろのろと門に近づいていくのみ。

 当然死霊が入る前に門は閉じられ、バリケードも置かれてしまった。

(……なるほど、これじゃ死霊は操れないと。

 おまけに宝剣も触れないから使えないし、神通力も……だめみたいね)

 野菊はすぐにいろいろ試したが、できないことが多かった。

 人や物に触れて神通力で攻撃しようとしても、そもそも触れずにすり抜けてしまうだけで神通力は発動しない。

 意識は保てるが、このままでは攻撃力は皆無だ。

(なるほど、どうも黄泉の力は肉体で受け取っているみたいね。

 でも、考えてみたら分かるかも。

 だって肉体のある死霊たちはあんなに飢えに苛まれているのに、肉体のない死霊は意識がはっきりしている。

 私も……殺意や憎しみがあまり入ってこない)

 力は失ったが、いろいろと分かったこともあった。

 というか、これを試してみるまで考えもしなかったことだ。

 これまではただ与えられた力をそのまま振るってきたが、こうして新しい事を試さないと分からないこともある。

 ならば諦めずにいろいろ試して必ず突破口を見つけてやるぞと、野菊は心に誓った。


 ふと、その状態で竜也の方を見て、野菊はぎょっとした。

(銃が、見えない!!)

 さっきは確かに竜也の手の中にあった銃が、忽然と消えてしまっている。竜也の手はまだ何かを握る格好のままなのに、その中にあるものが見えない。

(……霊眼封じね。どうりで肉体のない死霊が教えてくれないはずだわ)

 状態が変わることで見え方が変わることもある。

 肉体と力の多くを失ったが、まず一つ不意打ちのからくりを見抜くことができた。


 とはいえ、肉体を失った野菊が竜也にこれ以上何かすることはできなかった。

 何もできない野菊の前で、ネイルガンを持った救命士が倒れた野菊の体に近づく。復活しないように、頭を釘で打つ気だ。

 そんな事をされたら、野菊は夜明けまでこのままだ。

(ああっ……せっかく意識を失わずに済んだのに!)

 これでは、結局夜明けまで何もできず負けてしまうのか。新しいことをやって違う結果を出せたのに、どうにもならないのか。

 しかし、その時だった。

 どこからか銃声が響き、救命士の足下を弾が抉る。

(誰か、私を助けてくれた!)

 誰のものか分からぬ狙撃に、白川鉄鋼の者たちは慌てふためき、野菊の体をそれ以上傷つけることなく建物に逃げ込む。

 間違いなく、今の一撃は野菊を助けるためのもの。

 その音がした方向に魂の速度で飛んでいって、野菊は恩人の顔を見た。

(あ、あの時私を撃った猟師!)

 助けてくれたのは、神社の前で野菊を撃った田吾作だった。

 田吾作の表情には村を守る決意と、そして野菊の体を見つめる目には悔恨があった。あそこで清美に惑わされ野菊を撃ってしまったことを悔い、次は必ず守ると決めていたのだろう。

(ああ、ありがとう……おかげで、まだ復活できる!!)

 野菊は、届かぬ声で感謝を述べた。


 肉体も宝剣も神通力も失ったが、自分にはまだ助けてくれる人がいた。

 かろうじて、復活までは封じられずに済んだ。

 ならば、まだ戦える。自分を信じて助けてくれた人の思いを無駄にしないために、必ずこの村の癌を刈り取ってみせる。

 そうだ、肉体の復活まで待つことはない。

 肉体を失ったこの状態でまだ試していないことは、山ほどある。

 必ず突破口を開いてみせると魂に闘志を燃やして、野菊は暗い夜空に飛び上がった。

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