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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
155/320

155.清美の処遇

 竜也は村を支配するためのカードとして、清美の存在を村人たちに明かします。

 清美は村人たちにとって憎い仇であると同時に、いないと困る力の持ち主です。


 竜也はそんな清美を、自分と村にとって有効に使おうと持ち掛けますが……これも信用あってこそ。

「ウオオオオ!!社長―っ!!」

 工場のロビーに、さっきまでとは比べ物にならない熱狂が満ちる。生きるための闘争心に燃える人々の中で、竜也はスーパーヒーローとして君臨していた。

「諸君、私についてきてくれて感謝する!

 それに応えるために、私も勝つために用意した切り札をお見せしよう!!」

 竜也がそう言うと、社員と村人たちはますます竜也をほめる。

「切り札!?そんなもんがあるのか、さすが社長!」

 竜也は、廊下につながる扉の前まで歩いていき、その扉を勢いよく開け放って見せた。その向こうに座り込んでいる、二人の女。

 それが誰か分かった途端、村人たちは目をむいた。

「あ、あれは清美……それに、聖子!!」

 そこにいたのは、真っ先に平坂神社から逃げ出したはずの平坂親子だった。


 村人たちにとってこの二人は、この災厄におけるとんでもない罪人だ。

 この二人が結界を張らなかったことで、神社は安全地帯ではなくなっていた。しかも村人たちはそれを知らずに非難したのだ。

 そのせいで、何十人があそこで犠牲になったか。

 村人たちの信頼を裏切った、死霊より憎い仇だった。


「このアマぁ!!てめえのせいで!!」

 何人かの村人が、思わず二人に殴りかかろうとする。

 しかし、竜也がその間に入って立ち塞がった。

「早まるな、この二人を傷つけるんじゃない!この二人には我々のために、まだ働いてもらうことにした。

 切り札だと言っただろう!!」

 竜也がそう言うと、村人たちは何とか踏みとどまる。竜也なら何かいいことを考えてくれていると、そちらの期待が憎しみに勝っているのだ。

 その反応にほくそ笑みながら、竜也は村人と社員たちに説明した。


「知らない者もいるだろうから説明しておくと、この二人は代々災厄が起きた時に平坂神社を安全地帯として守る巫女だ。

 しかし今夜は二人が結界を張っていなかったために、死霊が神社に入り込み避難していた村人たちに犠牲が出てしまった。

 この事実に対し、何か反論することはあるか?」

 竜也は事情を説明しながら、威圧的に清美に問う。

 すると、清美は真っ青になって震えながら土下座し、絞り出すように答える。

「うっ……うっ……ま、間違いありません!」

 それを見て、村人たちは少し溜飲が下がった。

 なぜこんな所にいるのかと思ったが、どうやらこの親子は今、完全に竜也の管理下に置かれているらしい。

 それなら、煮るなり焼くなりこちらの思うままだ。

 しかし竜也は、そんな村人たちを制して言った。

「彼女たちは許されないことをした。

 だが、同時に彼女たちはそれを防ぐ力を持つ者でもある。

 君たちにとっては腸の煮えくり返る相手だろう。しかし彼女らの力をこのまま捨てるのは得策ではないと思った。

 彼女たちには我々の監視下で、これからも村を守ってもらおうと思っている」

 その提案は、村人たちの心も動かした。

 今回はこの二人を信頼して任せっきりにしたから、こんな事になった。ならば本当に信頼できる者の監視下で働かせれば、間違いなく使えるのかもしれない。

 その本当に信頼できる者とは、他でもない竜也。

 竜也の指揮下にあの神社も組み込んでしまい、白川鉄鋼の人員を使ってきちんと儀式を行っているか確認すれば、今回のようなことは起こらないだろう。

 人格的に問題があるとはいえ、黄泉から村を守れる力の持ち主は貴重だ。今回罪を犯したとて、切り捨てれば今後結界を張れなくなる。

 それを考えると、竜也に管理してもらうという選択が最善かもしれない。

 震える平坂親子にくすぶる怒りを覚えながらも、村人たちは振り上げた拳を下ろした。

 それを見ると、清美は涙を流して竜也に感謝した。

「あああ、こんな私に温情をありがとうございます!!

 あんな大失態を犯してしまって、私たちはもう村で生きていけなくなるところでした!そこを救っていただいて、何と言っていいか……。

 それに、野菊からもお守りいただいて……!」

「そうだ、さっきの放送で大罪人は二人と言っていたがな……もう一人の大罪人はこの清美さんのことだ。

 しかし、彼女がいなくなれば村に安全地帯はなくなる。

 黄泉としてはその方が都合がいいだろうし、あるいはこうなるのを待っていたのかもしれん。村の上層部がこいつをしっかり監視しなかったのも、黄泉の意向を汲んでかもしれん」

 竜也は清美を手に入れたことをアピールしながら、さらに清美の失態を利用して村人の有力者への不安をあおる。

 そしてそれを、自分なら村を守れるアピールに変える。

「しかし、私はそんな手に乗らんよ。

 不真面目ならきちんと監視すればいいし、彼女も今回のことでこりたようだ。

 むしろ今回の償いに、わが社とこれからの村のためにたっぷり力を使ってもらおうか。それこそ、皆が得をする使い方だ」

 その都合のいい提案に、社員も村人も喜んだ。

 これまで村を守るのにしか使われなかったこの二人の力を個人のために使えるようになれば、自分たちはもっと豊かになれるだろう。

 もう大事な力だからとか正当な報酬を払えとか言われることもない。償いなんだから、できる限り要求してやれる。

 村も会社も万々歳だ。

 こんな素晴らしいやり方を考えるとは、さすが万能の救世主だ。村人たちは清美に蔑みの目を向けながら、竜也に感謝して止まらなかった。


 ……これが竜也と清美の示し合わせた演技……村を支配するための体制作りだなどと、気づく訳がなかった。

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