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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
153/320

153.逆利用

 再び白川鉄鋼に戻ります。


 宗平たちが流した三度目の放送は、もちろん白川鉄鋼にも届いていました。

 しかし、既に野菊は倒されておりここの人にとっては放送が現状に合致していません。

 村を手中に収めようとする竜也に、そんな付け入るスキのあるものを聞かせたら……もう悪い予感しかしない。

 一方、白川鉄鋼では竜也が社員や村人たちに力強く語っていた。

「諸君、この夜を生き延びた暁には、黄泉に怯えることのない新しい村を作ろうではないか。

 怯懦な村の古老たちに代わり、我々が村を治めるのだ!」

 今、ここにいる者たちは野菊を倒した竜也を英雄視している。

 それを完全な崇拝に変えるべく、竜也は声を張り上げる。

「これまで、村の人間は黄泉にばかり頭を下げて、過ちを犯した者を次々と黄泉に捧げてきた。人の命を差し出すことをよしとし、抗おうとしなかった。

 私に言わせれば、そんなものは怠慢だ!

 だが、これからの村を私に任せてくれるならもうこんなことはさせない!共に、生きた人間の手に村を取り戻そう!」

 勇ましい言葉を並べ立て、社員以外の村人たちにも訴える。

 その話に、村人たちは食い入るように耳を傾ける。

 村人たちは今夜、想定外の連続に振り回されて参っていた。避難所は襲われ一緒に逃げていた人々は食われ、もう何に頼っていいか分からなかった。

 これからまた同じことが起こったらと思うと、もうたくさんだ。

 だが、村は備えていたにも関わらずこうなってしまったのだ。となると、もう村のやる備えはあてにできない。

 そこに、竜也が新たなビジョンを見せてくれた。

 災厄が起きても、圧倒的な組織力で守ってくれる。大罪を犯した子供ですら、生きる権利を与えて守ってくれる。

 次からもこれができるなら、村人たちにとってこれほど心強いことはなかった。

 支えを渇望する村人たちに、竜也は救いと見せかけた支配の糸を垂らす。

「もし君たちが支持してくれるなら、私は立とう!

 今の無力な村の旧支配層を倒し、新しい安心安全な村を作ろう!

 大丈夫だ、野菊は倒せる!黄泉には抗える!

 君たちはもう闇に怯えなくていい、理不尽な死を受け取らなくていい。そんな村を、私と共に築こうではないか!」

 竜也が拳を振り上げると、村人たちから大きな歓声が上がる。

 ここにいる誰もが、この有言実行の英雄にすがりきっていた。


 と、そこに外から防災放送が聞こえてくる。

『防災放送、防災放送……泉宗平がお送りします』

 社員や村人たちはそれに、水を差されたようにうんざりした顔をした。今まで何の役にも立たなかったくせに、今さら何だという感じだ。

 そんな村人たちの反応に手ごたえを感じつつ、竜也は放送内容をじっくり吟味する。

(泉宗平……確か、可愛いひな菊を陥れた泉咲夜の父親だったな。それに、菊農家どもをまとめる若頭のような奴だ。

 奴も娘も生きていたか……ここで死んだ方がまだ楽に死ねたものを!)

 宗平と咲夜が生きていたことに、竜也は内心舌打ちした。

 死んでいれば村を支配するのがだいぶ楽だったろうに、そうはいかなかった。

 それに、この親子には私怨もある。誰よりも大切なひな菊が学校でみじめさと屈辱を味わわされた、学芸会の一件だ。

 表面上は穏やかに振舞っていたが、竜也は内心もうこの親子を許さないと決めていた。

(だが、生きていてももう貴様らに大きな顔はさせん。

 この私と可愛いひな菊に恥をかかせた罪、たっぷり償ってもらおうか!)

 竜也は、自分が村を支配するついでに、この親子も報復として徹底的に叩き潰す気でいた。

 むしろ、踏み台として利用しようと思った。

 古い支配層であるこの親子がみじめに堕ちていくほど、村人たちに自分との器の差を見せつけて自分の求心力を高めることができる。

 この親子からは全てを奪ってやろう。

 竜也はそう考え、嗜虐的に笑いながら放送の内容に耳を傾けた。


 放送の内容は、おおむね前回と似たようなものだった。

 野菊が大罪人を討つために白川鉄鋼に向かった。白川鉄鋼には大罪人がいる。自分が大罪人でないと思ったなら、死霊を気にせず逃げろ。

 しかし、前回より具体的だったり新たな事実が明らかになっていたりするところもある。

 竜也はそれを聞いて、ほくそ笑んだ。

(……ほう、これは村人をだますのに使えそうだ。

 それにしても、またいいタイミングで放送を流してくれたものだ。これで村人たちの心を、もっとこちらに絡めとることができる!)

 竜也は頭の中で素早く筋書きを作り、村人たちの方を見つめた。


 放送が終わると、社員や村人たちは心底失望したようにぼやいた。

「何だよこれ、全然役に立たねえ」

「俺らを助けてくれた白川鉄鋼を諸悪の根源みたいに……感じ悪い」

 それもそのはず、今ここにいる者たちにとって今の放送は全く役に立たないうえに不快な話だからだ。

 野菊は確かにここに来た、しかしもう竜也が倒してくれた。

 もうここは危険地帯ではないし、逃げる必要もない。

 なのに村の有力者である宗平は、今さら何を言っているのか。

 宗平は白川鉄鋼が野菊と死霊たちに蹂躙される前提で話をしているが、自分たちを助けるために動いてくれてはいない。

 結局竜也の言うように、黄泉のいいようにさせているだけじゃないか。

 一応何かしてます感を出すために安全なところにこもって放送だけ流し、死霊に襲われている自分たちのことは見殺し。

 おまけに野菊に会って話を聞いたなどと、黄泉のお墨付きでももらったような言い方をして。おまえは生きている人間と黄泉とどっちの味方なんだ。

 こんな奴に村は任せられない……そんな不信感が村人たちから漂い始めた。

 そこを完全に味方にしてしまうべく、竜也は一気に攻勢をかける。

「ふむ、やはりこうきたか。

 こんな時にまで村の権力闘争しか考えていないとは、全くもって見下げた奴らだ!」

 竜也の言い方に、村人たちはぎょっとして竜也の方を向く。

 この非常時に権力闘争とは、一体どういうことか。この素晴らしい頭の回る社長は、今の放送から何を読み取ったというのか。

 動揺する村人たちに、竜也は告げる。

「最初に謝っておこう、くだらない権力争いに巻き込んでしまってすまない。

 今の放送は、君たちの役に立たなくて当然のことだ。だってあれは、君たちを助けるためのものじゃない。

 全ては、村の古株共が自分たちの利益と支持者だけ守るためだ。

 奴らは、これに乗じてウチの工場を潰したいだけだ!」

「な、何だってぇ!!?」

 思わぬ指摘に、社員や村人たちは蜂の巣をつついたような騒ぎに陥る。

 この哀れな人々の心を完全に手中にするべく、村人たちを思う宗平の放送すら逆手に取り、竜也は今しがた作った恐るべき陰謀論を語り始めた。

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