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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
151/320

151.三度目の放送

 久しぶりに咲夜たちのターンです。

 菊畑で野菊と別れた咲夜たちは、ようやく安全地帯へとたどり着いていました。


 そこで森川と咲夜たちは情報を整理し、村人たちの命を助けるために放送を流します。

 でも、ゾンビものって展開速いから……情報が広まった時、既に間に合ってないことが……。

 白川鉄鋼で野菊が倒されたちょうどその頃、咲夜たちは役場に着いた。

 暗闇のどこに死霊が潜んでいるか分からない中での移動は普段よりずっと時間がかかったが、幸いにも死霊に襲われることはなかった。

 野菊が付近の死霊を残らず統制して、連れて行ってくれたからだ。

「森川さん、いらっしゃいますか!?泉です!」

 宗平が放送室の窓を叩くと、森川はすぐに窓を開けてくれた。

「おお、無事でしたか泉さん!……娘さんたちも!」

 森川は咲夜たちの姿を見ると、心から安堵したように破顔した。自分が放逐を許してしまった無実の子は、無事助かったのだ。

「ああ、良かった……野菊様に無実と聞いてから、私は何てことをしてしまったのかと……!

 いや、無実かどうか分からなくても放り出すべきではなかった。私は清美さんに乗せられて、許されないことを……」

 必死で謝る森川に、咲夜は言った。

「いいんです、おじさん。私たち、ちゃんと助かりましたから。

 それに、私も悪かったです……白菊を入れる焼却炉には鍵をかけろって、村の規則で決まっていたのに破ってしまって。

 私がそんなことをしなければ、陽介に付け込まれたりしなかった」

 むしろ咲夜の方も、あの後神社であった惨劇を聞いて申し訳なさでいっぱいだった。

 自分が癇癪を起して規則を破ったせいで、あんなにたくさんの人が死んでしまったのだと。

 自分が危機を脱すると徐々にその思いが強くなって、今は村のために何かしたくてたまらない。

「おじさん、さっきは放送ありがとうございました。

 今からは、私もできることがあれば手伝いますから!」

 咲夜は、すっかり守り手の顔になっていた。

 それを見ると、森川は深くうなずいた。

「ああ、分かったよ……みんなで、できる限り村を守ろう」

 そう言って差し出された森川の手を握り、咲夜は窓から役場に入った。その後に大樹と浩太と咲夜の両親も続く。

 こうして、咲夜たちはようやく安全な建物に入った。


 役場に入って一息つくと、咲夜たちと森川はそれぞれの情報を交換した。

 森川は、死霊たちが神社になだれ込んできた後、平坂家で籠城している時に何があったか。そこで野菊に何を聞き、どんな意図で放送を流したか。

 一方咲夜と宗平たちは、咲夜が神社から放逐された後どうしていたか。そこに現れた白菊姫と野菊により、新しく分かったこともあった。

 お互いのことを話しあうと、一同はそれぞれの頭の中で話の内容を整理した。

「……しかし、白菊姫と話ができたとは、たまげたのう」

 森川が、感心したように咲夜に言う。

「そいつは多分、大人じゃ気づかんかっただろう。食われんようにさっさと逃げるか、すぐに頭を潰すかして終わりじゃ。

 ようまあ豪胆なことができたもんじゃ!」

「いいえ、自棄になってただけです。

 もうあんな危ない真似はやめてって、お母さんにたっぷり怒られちゃいました」

 咲夜はそう言って、恥ずかしそうに肩をすくめた。

 その肩を抱いた美香が、戒めるように言う。

「そうよ、生きていればやり直すことも償うこともできるけど、死んじゃったらもう何もできないんだから。

 探してる間、死霊の中にあなたがいないか気が気じゃなかったわ。

 ……実際に、野菊様が連れていた死霊の中に知ってる人がいたもの」

 美香は、そこで声を詰まらせた。

 そして目頭を押さえながら、森川に言う。

「……でも、二郎さんは最後まで人のために行動して、納得して逝ったんですね。それだけでも、少し救われました」

 美香はビニールハウスで野菊と一緒にいた時、ビニールごしに中をのぞき込む死んだ二郎の顔を見てしまった。

 咲夜たちはすぐ目をそらさせたので、直視せずに済んだが。

 森川も、神社で噛まれた者が死霊と化した姿と、噛まれて逃れられぬ死を前にした二郎の姿が脳裏に焼き付いて離れない。

 せめて今宵これ以上同じような死者を出さない、それが一同のすべきことだった。


「そう言えば森川さん、俺や浩太の親はここに来てないですか?」

 大樹が、ふと気づいて森川に問う。

 森川が咲夜たちの無実を放送で流したのは、だいぶ前だ。それを聞いたなら、情報を求める親がここに来たかもしれない。

 しかし、森川は渋い顔で首を横に振った。

「うーん、君たちが来るまでは誰も来てないなあ。

 そもそも、私が君たちと接触していたら無実を伝えて保護し、それを放送で流しているだろう。それがないから、君たちは役場に来てないし情報もないって判断したんじゃないか?」

「あちゃー……そうだ」

 大樹は、頭を抱えた。

 神社を出る時は親に迷惑をかけたくなくて放逐を受け入れたが、今はむしろ自分を探してさまよう親が心配だ。

「やっぱりここは、僕たちの無事を放送で流した方がいいね」

 浩太も言う。

 それには、大人たちもうなずいた。

 大樹と浩太の両親に知らせるのもそうだが、他にも状況が変化したり新しく分かったり、人に知らせたいことがたくさんある。

 今回咲夜と宗平が持ち帰った情報も、村人の生存のために生かさなければ。

「分かりました、すぐ放送の準備をしましょう」

 森川は、すぐに放送室に明かりを灯した。


 しばらくして、村にまた放送が響き渡る。

『防災放送、防災放送、こちら菊原村役場。泉宗平がお送りします』

 今回は森川ではなく、無事を伝えるのも兼ねて宗平が話す。

『先ほどの放送で保護をお願いした咲夜、大樹、浩太の三人は無事保護されました。今は私と一緒に役場にいます。

 皆様にはご心配をおかけしました!』

 まずは咲夜たちの無事と、居場所を知らせる。これで大樹と浩太の両親が二人を探していても、やみくもに動くのを止められるだろう。

 どうかこの二人の家族が無事であってくれと、宗平は心から祈った。


 それから、宗平は変化した状況を村人たちに伝える。

『先ほどの放送から、また状況に変化がありましたのでお伝えします。

 一時間ほど前に私たちは菊畑北地区にて野菊様と遭遇、野菊様はそのまま白川鉄鋼に向かわれました。

 今、白川鉄鋼周辺には大量の死霊がいると思われます。絶対に近づかないでください!

 なお、そのため現在住宅地にいる死霊はだいぶ少ないと思われます。しかしまだ日が昇るまでは、絶対に外に出ないでください。野菊様が白川鉄鋼にいる以上、遠くにいる死霊は制御されておらず人を襲います』

 宗平は、村人の生存率を上げるように情報を流していく。

『また、こちらは野菊様からの情報ですが、大罪人は二人でどちらも白川鉄鋼にいます。そのため野菊様は、白川鉄鋼以外に攻撃をかけることはありません。

 白川鉄鋼においても、知らずに手伝わされた者は大罪人として扱わないとのことです。

 もし自分が無関係だと思うならば、白川鉄鋼においては死霊に構わず逃げてください!野菊様が健在であれば、死霊はあなたを襲いません!』

 さらに白川鉄鋼に対しても、無事な人を逃がすように誘導をかける。

 野菊が狙っているのが竜也の愛娘であることから、竜也はひな菊を守るために村人や社員たちを盾にするかもしれない。

 竜也に従ったままでは、巻き添えで殺されてしまう。

 たとえ憎き竜也の部下でも、できるだけ命は助けなければ。

「これで、少しでも白川鉄鋼の犠牲が減るといいが」

 宗平は、祈るようにそう呟いて放送を終えた。


 しかし悲しいかな、その頃には状況はまた変化していたのだ。

 この宗平たちの祈りのこもった放送を、せせら笑いながら聞いている者たちがいた。白川鉄鋼の名が入った、ワゴンに乗っている社員だ。

「ハハッ、住宅地は安全?んな訳ねえだろ!」

「俺らを潰して自分たちだけ助かろうったって、そうはいかねえ。

 てめえらの武器で狩り返してやるよ、死霊を操る人殺し村め!」

 ワゴンは相変わらずうるさい音を鳴らしながら、住宅地を抜けて走り去っていった。その後ろから、統制を失った死霊たちがわらわらと住宅地を歩いていった。

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