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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
149/320

149.真の救世主

 窮地の石田のもとに、しんのゆうしゃがあらわれた!


 村人サイドの最後の銃持ちにして戦士は、今までどこにいたのでしょうか。

 白川鉄鋼で野菊との戦いの後にあった謎の狙撃は、こういうことだったんです。

 実をいうと、その戦士はしばらく前から白川鉄鋼のすぐ側にいたのだ。

 そして、未だに娘の罪を隠してずる賢く人をまとめ続ける竜也を何としても討ち取るために、ずっとチャンスを伺っていた。

 しかし不幸にして、それは果たせなかった。

 代わりに彼は、排除され殺されそうになっている一人の救命士を助けることにした。


 誇り高き村と人の守り手……その名は、沢村田吾作。


 平坂神社で清美の裏切りを知り、何とか逃げ切って家に戻った田吾作は、銃の弾を補給してまたすぐ家を飛び出した。

 自分は清美の言いなりになって、本当の敵に気づけなかった。

 そのせいで、多くの村人が犠牲になってしまった。

 だからせめてその元凶だけは、この手で討ち取ってやる。車が潰れた清美と聖子はそう遠くに行けないはずだから、探し出してやると復讐心を燃やして。

 しかし、あてずっぽうに探しても二人が見つかる訳もない。

 そのうち、平坂神社から生還した森川の放送が響き渡る。

 そこで告げられた、今回の大罪人の居場所。咲夜たちは無実であり、本当の大罪人は白川鉄鋼にいると。

 それを聞いた田吾作は少し冷静になり、今度は野菊を手伝うことにした。

 神社では、村人を守り清美たちを罰しようとした野菊を撃ってしまった。だから今からは、その償いをしようと。

 そして再び弾を補給して装備を整えると、白川鉄鋼の隣の山に向かった。

 ここからなら、工場のかなりの部分を狙撃で狙える。

(あの竜也は狡猾じゃ……野菊様相手にも、何を仕掛けるか分からん)

 自分が最初に頭を撃ってしまったせいで、野菊が活動できる時間はだいぶ少なくなった。それだけの時間で、果たして大罪人を討ち取れるのか。

 竜也が良くも悪くも頭が回る男だということは、村で噂を耳にしていれば分かる。

 もしあいつが黒幕なら何としても止めなければと、使命感のようなものに駆られていた。


 山に陣取ってからしばらく様子を見ていると、にわかに社員たちが出てきて動き始めた。

 門の両側にすぐ動かせるようなバリケードを作り、竜也は数人を相手に何やら指示を出して何度も同じ動きをさせている。

(ほほう、迎撃の準備をしよるか。

 さっきの放送でも人望を失わんとは、やはり一筋縄ではいかん)

 竜也の剛腕を見せつけられ、田吾作はぐっと奥歯を噛みしめる。

 今すぐにでもここから撃ち殺したい衝動を覚えるが、何とか耐えて観察を続けた。

 大罪人が白川鉄鋼にいることは分かったが、竜也がそうなのか、もしくは裏で操っているのかはまだ分からない。

 もし違ったら、自分はただの殺人鬼になってしまう。

 ここは野菊の動きを見て慎重に判断すべきだ。

 そもそも、野菊が自力で竜也を討ち取り、自分は表に出ないのが一番いい。自分が手を出すのは、本当にここぞという時のみ。

 田吾作は、息をひそめて待ち続けた。


 やがて道路を埋めるような死霊の大群がやって来る。きちんと並んで向かってくるところを見ると、野菊が制御しているのだろう。

 改めてその力を畏怖し、神社でそれに気づけなかった己の愚を恥じた。

 そうこうするうちに野菊が群れから出てきて、門の内側で待つ竜也の方に向かう。竜也は、見せつけるように一人の男の子を押さえていた。

 その顔に、田吾作は覚えがあった。

(ほう……ありゃ陽介か。あいつならやってもおかしくない。

 だがあいつが実行犯なら、裏でひな菊が糸を引いとる可能性は高い)

 田吾作はいよいよ銃を構え、じっと人の動きを注視する。

 やはりというか、野菊が門に入った途端、数人が不意打ちを仕掛けた。しかし野菊はあらかじめそれが分かっていたように、全てをかわす。

(さすが野菊様、死霊の目は誰にも欺けん!)

 人の抵抗を軽々といなして、野菊は竜也に宝剣を振るう。

 勝負あったかと、田吾作は銃を下しかけた。


 しかし次の瞬間、予想だにしなかった事が起きた。

 ズダーン 「何!?」

 田吾作にとっては聞き慣れた音……銃声が闇を震わせて響き渡る。もちろん、田吾作が撃ったのではない。

 音は、白川鉄鋼からだった。そして、田吾作の猟銃とは少し違った。

 慌てて見下ろす先で、急に力を失ったように倒れる野菊。

 対峙する竜也は、何か小さな黒いものを両手持ちで構えていた。その短い筒の先から、煙が上がっている。

「銃か!?竜也ああぁ!!」

 野菊は、獲物を前にしてまたしても銃弾に倒れた。

 それを放ったのは、竜也。竜也が銃を持っているなどとは、さすがの田吾作も考えていなかった。

 それに野菊はどうも、あの銃のことを予想していなかったようだ。死霊の目をもってしても見抜けない、そんな事があるのか。

 田吾作の頭の中を大量の疑問符が飛び交い、思わず混乱に我を忘れた。

 しかし、悠長に考えている暇はなかった。

 竜也の指示で、ヘルメットに白衣の人物が野菊に近づく。狙いはただ一つ、夜明け前の復活を阻止しようというのだ。

(それだけはさせん!!)

 素早く銃を構え直し、田吾作は迷わず撃った。

 人の急所に当てないようにだけ注意して、野菊に近づく男の足下に当てる。

 その一撃で、白川鉄鋼側は恐怖と混乱に包まれて野菊への攻撃をやめた。さらに恐怖を煽るため、田吾作は自らの顔を下からライトで照らして見せる。

 おまえたちを殺せる敵は、ここにいるぞと言わんばかりに。

 何人かの社員がそれに気づき、悲鳴を上げて建物に転がり込んだ。竜也もさすがに反撃せず、自らも尻尾を巻いて屋内に逃げ込む。

 この状況で田吾作の狙撃に対抗できる者は、いなかった。

 こうして田吾作は、倒された野菊が復活できる状況だけは何とか守ることができた。


 とはいえ、これ以上攻める手がないのは確かだった。

 野菊が連れてきた死霊たちは統制を失い白川鉄鋼に入ろうとしているものの、塀とバリケードに阻まれている。

 そのうち積み上がって少しずつ入りそうになってきたが、少しずつ入ったところでそのつど頭を潰されるだけだろう。

 それに、この攻撃では罪のない人たちも巻き添えになってしまう。

 田吾作がどうしたものかと思案していると、また白川鉄鋼で動きがあった。

 裏の搬入口から車が出てきて、大きな音を立てて死霊を誘導し始めたのだ。野菊が連れてきた死霊を連れて、ゆっくりどこかへ走っていく。

(なるほど賢いな……だが、奴らをどこへ連れて行く気だ?)

 そう考えた途端、田吾作の頭の中で警鐘が鳴った。密かに銃まで持っていた狡猾かつ凶悪な竜也が、これを利用しない訳がない。

 田吾作はすぐに、車と死霊たちを追いかけ始めた。

 田吾作はここまで、自転車で来ていたのだ。無防備だし普通は車より遅いが、車が死霊の気を引きながらゆっくり走っていれば追いかけられる。

 悪い予感は当たるもので、車は住宅地に向かっていた。

 ならばせめて住宅地に入る前に止めてやろうと、田吾作は細い近道を通って先回りし、住宅地の入り口で車を待ち伏せしていた。

 そしてタイヤを撃とうと銃を構えた時……いきなり車のドアが開き、白衣の人物が放り出された。

 彼は足を押さえて呻き、動くこともままならない。

 そこに迫る、死霊の群れ。

 田吾作はしばしあっけに取られたが、我に返って決断した。目の前で放り出されて苦しんでいる、白衣の人物を助けると。


 ドンドンと猟銃が火を噴き、石田に手を伸ばそうとしていた先頭の死霊が数体倒れる。驚いている石田に、田吾作は手を差し伸べた。

「早う、死にたくなかったら後ろに乗れい!」

 石田は迷わず、その手を取った。

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