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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
138/320

138.自縄自縛

 自ら犯人である証拠を出してしまった陽介は、何としても助かりたくてついに首謀者を吐いてしまいます。

 しかし首謀者のひな菊を守るのは百戦錬磨の竜也、そううまくはいきません。

 そのうえ、陽介の日頃の行いがさらに首を絞めてしまいます。


 大きく作戦を狂わされた上に娘の罪を暴かれた竜也は、どう決着をつけるのでしょうか。

「ま、待ってくれ!俺は頼まれてやったんだ、言うことを聞いただけなんだ!!」

 渾身の力で、陽介は叫んだ。体を押さえつける力に抗うようにめいっぱい息を吸い込み、ロビー中を震わせんばかりに声を放つ。

 その言葉に、社員や村人たちがびくりとしてこちらを向いた。

 当たり前だ。陽介に命令した者がいるなら、そいつも大罪人の可能性が高い。この白川鉄工に、もう一人大罪人がいることになる。

 その場合、陽介を突き出しても野菊は去ってくれない。それどころか、もう一人の大罪人を殺す巻き添えを食うかもしれない。

 ならば、もう一人の大罪人も探して突き出さねば。

(そうだ、そうなんだよ!

 みんなが助かるためにも、俺一人切り捨てるなんて許さねえ!!)

 自分一人のためにもっともらしい言い訳を添えて、陽介は叫ぶ。

「俺に白菊を供えるように命令したのは……ひな菊さんだぁーっ!!!」


 その一言に、ロビー中からどよめきが起こった。そこにいる皆がうろたえ、血相を変え、信じられないという顔でひな菊の方を見る。

 当然だ、ひな菊は皆の恩人であり今も守ってくれている頼れる社長、竜也の娘なのだから。

 もし本当だとしたら、自分たちは今までのうのうとだまされて犯人のいいように従わされていたことになる。

 身近な人の命を奪ったこの恐ろしい災厄から守ってもらえたことが、ただのマッチポンプだったことになる。

 これは陽介でなくても、許せる訳がない。

 しかもこれは、れっきとした事実なのだ。

(さあどうするよ、社長さん?

 悪いことはお天道様が見逃さねえっていうけど、てめえらの悪事もバレちまうぜ。

 けど、俺が犯人だって言ったことをやめにするなら俺も今のを取り消してやるよ。分かったらさっさと、俺を守れよ!!)

 陽介は顔を引きつらせる竜也に、悪鬼のような笑みを向けた。


 しかし竜也は、それでも何とか落ち着きを保っていた。

 陽介と違い、竜也は幾多の取引を経て会社をここまで大きくしてきた社長である。海千山千の竜也は、ここで取り乱してはならないことをよく知っている。

「……こう言っているが、どうなんだひな菊?」

 竜也は険しい顔で、ひな菊に問う。

 ひな菊は一瞬固まったが、すぐにぶんぶんと首を横に振った。

「そんな事してない!私、そんなことやれなんて言ってない!」

 当然の反応である。

 陽介だって、自分が助かりたくて足掻いてこうなってしまったのだ。ひな菊だって、自分の身がかわいいに決まっている。

 それを見た陽介は、なおも声を荒げて訴える。

「言っただろ、嘘つくなよ!これやる代わりに親父を課長にするって約束しただろ!

 なあみんな、こいつはとんでもない性悪だぜ!これまでさんざん農家のヤツらに嫌がらせして、そのたびに俺をこき使いやがった。

 でもって、いざバラされそうになったら捨てられるんだぜ。最悪女だ!」

 それを聞いた周囲の反応は、二つに分かれた。

「言われてみれば……こいつならやりかねんな」

「日頃から、農家の子たちに横暴や嫌がらせをしとるで……学芸会の件でも、自分の担当の仕事は全部大人にやらせて、咲夜ちゃんたちの方だけ働かせたらしいぞ」

 ひな菊を疑うのは、白川鉄工の社員でない村人や村に住んでいる社員だ。彼らは日頃から、ひな菊が従わない子をいじめているのを見聞きしている。

 だから、こいつならやるだろうという目で見る。

 一方、村の外から通っている社員たちは戸惑っていた。

「いやいや、ひな菊ちゃんはそんな子じゃないだろ」

「ひな菊ちゃんはいつも社員のことを気にかけてくれてるし、優しい子だ。そんなひどい事をする訳が……」

 これは日頃、ひな菊が社員たちには甘く接しているせいである。

 いや、竜也がそうさせてきたと言うべきか。竜也はひな菊に将来の経営者として、内面をよくすることを教え込んでいた。

 そのため、村の外の社員たちはひな菊の本当の姿を知らないのだ。

 結果、村の外の社員たちと村人たちはお互いを信じられない目で見つめあうことになった。

 それにしても、ひな菊がそうしたという証拠はない。

 すると、今度はひな菊の反撃が始まる。

「いい加減にしてよ!!どうせあんたが勝手にやったんでしょ!!

 だいたい、あんたはいつもそう。あたしのためって言いながら本当はごほうびが欲しいだけで、もっともらおうって余計なことまでするの。

 それで何回あたしやお父さんの立場悪くしたか分かってる!?

 そのうえまずいことになったら責任はあたしたちに押し付けて、役に立ったつもりになってんじゃないわよ!!」

 こちらの言葉は、村に住むものとそうでない者両方の心をつかんだ。

 村の外から来た者にとっては、ひな菊が悪くなければ陽介が悪いということになる。

 村に住む者たちも、陽介の頭の悪さと乱暴さは知っている。ひな菊の言う通り、陽介が時々ひな菊の望まないところまで暴走することも。

 ひな菊が目立たないようにやろうとしていた事を陽介が荒立ててしまい、警察沙汰になりかけたことまである。

 その陽介なら、勝手にこういうことをしてもおかしくない。

 周りの視線から有利を感じ取ったひな菊は、さらにたたみかける。

「だいたいねえ、あたしは死霊が出るとか信じてなかったのよ。

 何も出ないのに菊供えたって意味ないでしょうが!

 でもあんたは、ずっと村で話を聞かされてちょっとは信じてた……で、こう思ったのよね。これを使って咲夜たちに罪を着せれば大手柄だ、死霊が出なくても伝説がウソだって分かればあたしに有利になるって」

「……最後のは、ひな菊が考えたことじゃねえか!!」

 陽介はなおも喚くが、もはや不利は覆しようがない。

 そもそもひな菊はまだ疑いであり、陽介は犯人であることが確定しているのだ。今さらどんなに足掻こうと、陽介が救われることはない。

 この場を収めるように、竜也がパンパンと手を叩いてこう言った。

「証拠がないことをいつまでも論じても仕方ない!

 とにかく野菊が来たらこいつを突き出してみて、反応を見よう。そうすれば、他に大罪人がいるかどうか分かるはずだ」

 竜也の合理的な意見に、反対する者はいなかった。


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