表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
137/320

137.墓穴

 助かろうとして自分が大罪人であると白状してしまった陽介。

 こうなったらもう、助かりたい人は誰も助けてくれません。

 しかしそれでも、陽介は助かりたくて……こうなったら、誰に矛先を向けるか、分かりますよね。

「え……!?」

 陽介は、竜也に言われた意味が分からなかった。

 何でここで自分が大罪人になるのか。自分は、高木亮が花を盗めた事情をしっかり詳しく説明してやったのに。

 きょとんとする陽介に、竜也は淡々と言った。

「あのね、どうも村の人によると、咲夜ちゃんはいつもは鍵をかけてるそうだ。つまり村の人や咲夜ちゃんの友達が知ってるのは、そっちの情報なんだよ。

 逆に鍵がかかってなかったことは、犯人と平坂神社にいてそれを聞いた人しか知らない。

 ここで咲夜ちゃんの家の菊が盗まれた情報は共有されてるが、鍵をかけ忘れたって話は上がってなかったはずだ」

「あ……?」

 陽介がその意味に気づく前に、竜也一刀両断する。

「つまり君は、犯人しか知らない情報を口にしてしまったんだよ」

 次の瞬間、何本もの大人の手が陽介を床にたたきつけていた。


 床に組み伏せられた陽介を見下ろし、竜也は内心ため息をつく。

(全く、素直に従ってくれればこんな事にはならなかったものを……なぜ頭の悪い者は自ら墓穴を掘るのか。

 私としても、多少汚いことでもすぐやってくれる駒は切りたくなかったのだが、こうなってしまっては仕方ない。

 恨むなら、自分を恨みたまえよ)

 竜也の作戦は、陽介を助けるためでもあったのだが……自分からそれに反発してこうなるところまでは面倒を見きれない。

 竜也は絶対死なせないと言ったのだから、信じないのは陽介の勝手だ。

 そのうえ、こうなってしまったらもう助けることはできない。

(しかしまあ、隠すことが少なくなるのは良いことだ。これで大罪人が一人明らかになれば、皆の目をそらせる。

 自分から助けの手を振り払ったのだから、せいぜい違う形で使わせてもらうとしよう)

 竜也はすぐさま陽介を味方から外し、作戦を立て直した。


 陽介が取り押さえられると、竜也はさっそく社員や村人たちにこう言った。

「誠に残念なことだが、これで陽介君が白菊を盗んで供えた犯人だということが分かった。野菊はこの子を狙っているとみて、間違いないだろう。

 だから、他の男子はもういいぞ」

 そう言ってやると、疑いが晴れた他の男子とその家族はホッとして輪の中から出て、囲む側に回る。

 逆に、陽介の両親は真っ青になって目を白黒させている。

 その二人に言い訳する暇を与えず、竜也は尋問を始めた。

「さて、この子は自分が犯人だと自白したも同然だが……念のため確認しておこう。

 菊が盗まれた可能性が高い一昨日の夜間と昨日の夕方、陽介君はどこにいたかね?行先のわからない外出などは?」

 陽介の母、楓はぐっと唇を噛みしめ……意外にもすぐ白状した。

「一昨日は、そちらのひな菊ちゃんのところにいたはずよ。帰ってきたのは、夜10時過ぎてからだったけど……それまでひな菊ちゃんのところだと思って。

 昨日は、それこそひな菊ちゃんのお月見会があるって出て行ったきりよ。私は家から平坂神社に避難してたから、ここに来るまでのことは知らないわ」

「そうか、どうなんだひな菊?」

 ひな菊は予想外のことにうろたえていたが、何とか答えた。

「一昨日は、確かに来てた。でもお風呂に入る前……8時くらいには帰ったはず。

 昨日のお月見会には、だいぶ遅れて来てた。少なくとも、日が落ちてだいぶ経ってから」

「では、猛君は?」

 竜也は今度は陽介の父、猛に質問する。

 猛は慌てふためいて周りの社員たちをにらみつけていたが、竜也から鋭い視線を向けられると開き直ったように言った。

「一昨日のことなんざ知らん!家で飲んでたら、いつの間にか帰ってきてた!

 今夜は……根津が死霊だって騒ぎ立てるまでは見てねえ!」

 両親の話を聞いて、竜也はますます憂いを深くし、茫然としている陽介を見下ろして言った。

「アリバイなしか……これはもうほぼ確定だね、大罪人の陽介君」


 陽介は、床に組み伏せられたまま口をパクパクしていた。何か言いたいのに何を言えばいいか分からず、おまけに何が起こっているか分からない。

(な、何でだ……俺、助かるはず……!)

 何としても野菊から逃れたくて、他人に罪を押し付けたのに。そいつが犯人であると、より具体的な話も混ぜて力説したのに。

 なのに、取り押さえられたのは、自分。

 そして、竜也は言った。

「君は、犯人しか知らない情報を口にしてしまったんだよ」

 具体的にどこがどう悪かったのか、陽介には今もって分からない。しかしどうやら、より具体的に説明しようとしたのが良くなかったらしい。

 気が付けば、周りは怒りをたぎらせて陽介をにらみつけている。

 助けてくれと両親の方を見ても、二人とも信じられない顔をしてうろたえている。竜也にアリバイを聞かれると、素直にないと答えてしまった。

 親なのに、全然助けてくれない。

 そのうえひな菊も、陽介に命令したことは知らぬフリをしている。

 皆が、自分を切り捨てようとしている。

(な、何だよこれ!?おかしいだろ!!

 俺はひな菊さんのために、やったんだぞ!竜也社長のためになることだと思って、危なかったけど頑張ったんだぞ!

 それに、俺がこれをやったおかげで父ちゃんは課長になれるんだぞ!そしたら母ちゃんも楽できるんだぞ!

 なのに、みんなのために頑張ったのに……何で助けてくれないんだよぉ!?)

 陽介は、焦った。さっきよりずっと激しく、気が狂いそうなほど焦った。

 みんなで助かって幸せになるために一生懸命考えたのに、どうしてこんな事になってしまったのか。

 ごまかしきれれば皆いい思いができるのに、どうして自分に合わせてくれないんだ。

 竜也に従わなかったのだって、竜也が自分を生贄にしようとしたからじゃないか。自分の身を守ってもっといいやり方を教えてやろうとしたのに、何が悪い。

 陽介は理不尽に打ちのめされ、竜也を、ひな菊を恨む。

(畜生畜生、みんなひどすぎる!!

 こうなったら、一人じゃ死なねえ!ひな菊さんにも責任取ってもらうぞぉ!!)

 もはや逆恨みでしかない恨みに身を焦がし、陽介は飼い主に牙をむいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ