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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
136/320

136.無駄な足掻き

 竜也はこれでもまだ社員たちの信用をつなぎとめる策を練っていましたが、思わぬところから妨害が入りました。

 竜也に勝算があっても、囮役がそれを理解するとは限りません。


 そして、疑心暗鬼になって味方に抵抗した末に……。

 ロビーに来る前、竜也と陽介たちは簡単な打ち合わせをしていた。これから自分たちが助かるための流れを。

「今からはさすがに、全てを知らぬ存ぜぬ関係ないでは通せないだろう。

 特に、野菊が本当にここに来るとなれば」

 竜也は、難しい顔をして言った。

 これまで白川鉄鋼には普通の死霊と大罪人しか来ていないので、何も知らないフリをしつつ降りかかる火の粉を払うだけでよかった。

 しかし本当に野菊が来るとなると、そうはいかない。

 さっきの森川の放送で、野菊がここに来ると予告されてしまった。その理由として、大罪人がこの白川鉄鋼にいることも。

 これでは今禁忌破りについてしらを切り続けても、本当に野菊が現れたら対応を誤ったとして信用を失ってしまう。

「少なくとも、大罪人探しに協力しているところは見せないとまずい。

 そしてできれば、野菊が来た時に突きだす者を用意しておきたい」

 竜也はそう言って、陽介を見た。

 陽介はぎょっとして問う。

「それって……俺を、差し出すと……?」

「大丈夫だ、本当に差し出す訳じゃない。君を引き渡すフリをして、油断したところを不意打ちで仕留める。

 君は絶対死なせないし、本当の大罪人だともバラさない。

 だから皆を助けるために……引き受けてくれるね?」

 要は、ここにいる者たちを納得させ、かつ野菊を倒すための囮になれということだ。

 これが成功しなければ、竜也たちは社員たちの信用を失って一人残らず吊し上げられ、野菊の前に引きずり出されてしまうだろう。

 平坂親子とひな菊も、陽介に有無を言わさぬ視線を向けてくる。ここでやらないのは許さないと言わんばかりの。

 それに、ここで竜也とひな菊が吊し上げられたら、陽介の父の昇進とボーナスもなくなってしまうのだ。

 陽介に、断る余地はなかった。


 そういう訳で、陽介はここにいる他の男子と一緒に囮になるはずだった。絶対に死なせないと、竜也は言った。

 しかし、本能が受け入れるかはまた別の問題である。

 無実の他の男子はともかく、本物の大罪人である陽介に野菊は容赦しないだろう。

 竜也は必ず助けると言ったが、どのような手段を取るのかは言わなかった。これでは、本当にそうしてくれるのか分からない。

 もしかしたら、本当は自分だけ切り捨てる気じゃないだろうか……そんな風にさえ思えてくる。

 もっとも陽介だけ切り捨てたところでひな菊が生きていれば野菊は攻撃を止めないので、それは攻撃を避ける手段にならない。

 しかし、頭の悪い陽介はそこまで考えられなかった。

 むしろ自分はひな菊に従ってやったのに、何で自分だけ……と怒りが湧いてきた。

(畜生、こんな所で野菊とかに捧げられてたまるか!

 俺は生きる、絶対に生き延びてやるぞーっ!!)

 生存本能で頭が一杯になり、陽介は必死で囮を免れる方法を考え始める。

 全員が無傷で助かる、自分たちの完全勝利のために竜也が立てた作戦を、ひっくり返してしまう手を。


 しかめ面になった竜也の前で、陽介は必死で訴える。

「へへへ、社長さん……俺、分かったんですよ。

 禁忌を破ってそのうえ野菊をここに呼んで、この白川鉄鋼を潰そうとするヤツらの正体が!」

 陽介のその言葉に、周りにいた社員や村人たちが注目する。もし本当なら、この状況を一気に打開できる情報だからだ。

 ひな菊はやめろと慌てた顔をするが、陽介はやめない。

 とにかく自分が野菊から逃れる、今はそれしか考えられない。

「ほら、さっきそこにいるお兄さんがヒントをくれましたよね。

 それで俺、ピンときたんです!

 俺、そいつが誰なのかもどうやるのかも分かっちまいましたから……そいつさえどうにかできれば、皆助かりますよぉ!」

 竜也はすぐにでも止めたいが、社員たちの目を思うと止められない。

 それをいいことに、陽介は一生懸命今考えたばかりのはったりを並べ始めた。

「まず、大罪人は高木さん家の兄ちゃん、亮だと思うんですよ。

 そこのお兄さんが言ってたけど、その犯人は田吾作さんの警備をすり抜けて白菊を供えに行ったんスよね?

 そんなことが出来る奴は、相当運動神経がいいですよね?ま、村の中じゃ俺とアイツくらいじゃねえかな」

 それに、一部の村人がなるほどとうなずく。

 手ごたえを感じた陽介は、さらに続ける。

「死霊がここに来るのだって、ヤツが先導してくれば来させられますよね。ヤツは足がすっげぇ速いんで、追いつかれないでここまで来るとか余裕っしょ。

 で、野菊をここに来させて俺らに罪を着せると。

 うへっえげつねえ作戦だあ!」

 陽介の言う事には一応筋が通っていて、社員たちは耳を傾けていた。

 しかし、竜也は不快そうに言う。

「で、それが本当だって証拠はあるのかね?可能性なら何とでも語れるが、今は現実的な対処が……」

 自分を囮にしようとする竜也の説教に、陽介はますます対抗心を燃やす。

(ざっけんな俺は死なねえぞ!あんたの思い通りには、絶対ならねえぞぉーっ!!)

 何としても助かろうと、陽介はとっておきの情報を出す。

「いやだって、亮は咲夜の親友の浩太の兄貴ッスよ。弟思いって話しですし、浩太に頼まれたらきっと何でもやりますって。いや、本人が陸上大会で有利になるように、村の力を使えるように引き受けたんスかね?

 それにほら、ヤツなら咲夜のいい加減なところも浩太から聞いてますよ。

 咲夜が農作業終わって白い菊を焼却炉に入れる時間も、あの咲夜が実は焼却炉に鍵かけてないことだって……」

 そこに、村人の一人がポツリと言った。

「いや、咲夜ちゃんはいつもはかけてるよ。

 その日たまたまかけ忘れたら盗まれたって……」

 いつの間にか、さっきとは違う視線が陽介を囲んでいた。

 竜也が、落胆したように言う。

「そうか、よく分かったよ……大罪人は、君だ」

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