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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
135/320

135.犯人探し

 森川の爆弾放送により、白川鉄鋼は犯人探しで混乱していました。最初に囮のされた若者、根津が言ったこともあって、ひな菊への疑いが濃厚となります。


 しかし、それでも倒れないのが竜也社長のすごいところ!

 竜也たちはこの危機を、どう切り抜けるつもりなのでしょうか。

 白川鉄鋼のロビーでは、なおも大罪人探しが続いていた。

 少しでも怪しいところがある奴を問い詰める中で、社員たちはふとこの騒ぎの始めの方のことを思い出す。

「そう言や……根津が外から帰ってきた時何か喚いてなかったか?」

「ああ、確かお嬢様がやってくれたとか……お嬢様に頼まれて白菊を持って行ったら老人に銃を向けられたとか……」

 思い出すうちに、ある疑惑が頭をもたげてくる。

「なあ、もしかするとあいつが最初に言ってたことが正しいんじゃ……!」

「となると大罪人は……お嬢ちゃんか!!」

 根津が帰ってきてすぐ喚いていたこととさっきの放送を合わせて考えると、その疑いが非常に濃厚になる。

「じゃあ、あいつを突きだせば俺たちは安全に……!」

「よし、あいつを引きずり出せ!!」

 自分の命のためになりふり構っていられなくなった社員たちが、社長室の方へ押しかけようとする。

「落ち着けおまえたち、これまでさんざん世話になっておいて……」

 事務長が止めようとするが、命の危機を前に我を忘れた社員たちは止まらない。それに、ここには平笠神社から逃げてきた、白川鉄鋼の社員でない者もいるのだ。

 そういう者たちは平坂神社で清美に手酷く裏切られたこともあり、恩人だろうが権威だろうが信じられなくなっていた。

「平坂家でさえああだったんだ、誰が何を隠しててもおかしくねえ!」

「怪しい奴はみんな縛り上げて、野菊とかの前に放り出せ!」

 完全に疑心暗鬼になり怒りに駆られた村人たちは、社長室に押し寄せてひな菊を引きずりだそうとする。

 ついにその暴力が事務長を突き飛ばして扉への道を開いた時……突如としてその扉が向こうから開いた。


「やめんか、おまえたち!!」

 出て来たのは、今まさに村人たちが問い詰めようとしていた、白川竜也その人だった。


 息を荒げる村人と社員たちの中に、竜也は堂々とした足取りで歩み出た。そして、すぐにでも掴みかからんとする周囲を見回して言う。

「どうやら君たちは、私と娘を疑っているようだね。

 しかし、残念ながら私にやましいことは何もない。

 よって、私は逃げも隠れもしない。さっきの放送を踏まえてこれからどうするかを皆で話し合うため、こうして来たのだ!」

 そう言われると、村人と社員たちは少し落ち着いた。

 竜也はつい今まで、皆から見えない社長室にいた。あの放送が聞こえてから今まで、逃げようと思えば逃げられただろう。

 特に大罪人が確実に助かろうと思ったら、平坂神社に逃げ込むのが一番だ。

 それをしなかったということは、この社長は信じてもいいじゃないだろうか……そんな空気がロビーに広がった。

 しかし、それでも疑い深い一部の者が問う。

「社長が逃げないのは、分かりました。しかし娘さんはどうしたんで?

 まさか、この隙に娘さんだけ逃がしたり……」

「そんな事はしない。ひな菊、出てきなさい」

 竜也の声に合わせて、扉から小さな人影が二人出てくる。半泣きになって震えているひな菊と、彼女を支えるように寄り添う陽介だ。

「うっ……ひぐっ……わ、私は……何もしてない!」

 ひな菊は、泣きはらした目で社員たちを見つめてはっきりと言った。

 事務長も、それを援護する。

「ほら、お嬢様もちゃんと出てきてこう言っとるだろうが!まだ信じられんか!?

 それに、さっきのあの放送が本当だってどうして分かる?森川といえば、ウチが土地を買う邪魔をしとった輩だろう。

 あいつらが、このどさくさに紛れてウチを潰そうとしとるのかもしれん。

 そもそも、菊を供えたのがそちら側でないとどうやって分かる!?」

 事務長に言われて、村人や社員たちは新たな疑惑にはっとする。

 代々村を守るはずだった清美でさえ、ああだったのだ。村の伝統を守ると言っている側が、これを利用していてもおかしくない。

 そうなると、もう皆どうしていいか分からなくなる。そしてこの場で一番頼れる人と言えば、やはり社長、白川竜也であった。


「お互い感情だけで責め合っても、どうしようもない。

 まずは、確かな事を整理しよう」

 竜也はまず、不安そうにしている皆に呼びかけた。そして、ひな菊が疑われる原因となった発言をした根津を連れて来させる。

「さて、君は死霊が出た時塚の近くにいたらしいね。

 何か、白菊を供えた者の姿とか声とか、知らないかね?」

 聞かれると、根津はそっけなく答えた。

「私が銃を持った田吾作さんに詰め寄られている間に、一人の子供が白菊塚の奥から走ってくるのを見ました。

 声は聞いてませんが、髪は短かったような……多分、男の子です。

 顔は、暗くてよく見えませんでした」

 それを聞くと、竜也はがっかりしたというように肩を落として言った。

「そうか、それではひな菊と咲夜という子本人ではないと分かるが……どちらにも仲のいい男の子がいるから何とも言えんな。

 それに、元々どちらにも関係ないところがこれをやっていて、ひな菊と咲夜は隠れ蓑にされただけの可能性もある。

 顔が見えていれば、確かめようはあったが……」

「すいませんねえ社長さん。

 私もあの時は頭に血が上っちゃいましたけど……冷静に考えたらそうッスね」

 根津は竜也にそう謝るが、その口調はどこかしらじらしい。

 当たり前だ、これは根津の本心ではなく竜也の筋書きに合わせた茶番なのだから。根津は、竜也に買収されて当たり障りのないことだけ言っているのだ。

 しかし、それを知らない周りの者たちは、これを見てさらに竜也を信用する。

 あの時あんなに取り乱していた、死霊が出る現場を見ていた者がこう言っているのだ。ならきっとそうなんだろう、と。

 ただ一人根津だけは、もう二度と白川親子を信じるものかと心に決めていた。

 ひな菊に囮として利用され、今度は竜也を信じさせるために利用されて……せめてそれに見合う金だけは搾り取ってやると心の中で牙をむいていた。


「しかし……男の子っちゅうことは分かっとるんでしょう?

 だったら、今ここにいる男子だけでも拘束しておいては」

 犯人が分からない事が分かったところで、一部の村人たちから声が上がる。その者たちの目は、陽介に向いていた。

 さっきの放送が本当かは分からないが、本当であれば大罪人はこの白川鉄鋼にいる男の子である。

 そして今ここにいる男の子は、陽介を含めて数人。

 たったそれだけであれば、逃げないように縛っておいて本当に野菊が現れた時に差し出すことができる。

 それで全員助かるなら、安いものだ。

 竜也は少し考え、男の子を抱えている家族に声をかけた。

「申し訳ありませんが、どうかその子をしっかり見張っておいてください。

 そんな事はないことを祈りますが、もしこの中に大罪人がいた場合ここにいる全員が危険に晒されます。

 そしてもし野菊が来たら、大罪人だけ引き取ってもらいましょう。さっきの放送の通りなら、それくらいの話は通じるはず。

 全員の命と結束を守るためです、どうか!」

 男の子と家族たちは困惑したが、この状況で拒める訳もなかった。男の子とその家族は、逃げないように皆の真ん中に引き出される。


 その中にはもちろん、陽介と両親もいた。

「陽介ぇ……あんたまさか本当にやってないでしょうね?」

「いや、おまえはそんな子じゃねえよな。さっきこの俺がブッ潰してきた大罪人とこいつが同じなんて、有り得ねえ!」

 両親にそう言われて、陽介は内心戦々恐々としていた。

(お、おい……まさか本当に突きだす気かよ?

 さっき社長は大丈夫だから任せてくれって言ったけど、本当は俺だけ切り捨てる気じゃないよな?)

 この状況も相まって、不安は募る。

 そしてついに、耐えられずに手を挙げてしまう。

「ま、待って……俺、菊を供えた奴に心当たりがあります!」

 予定外の発言に、竜也の顔が歪んだ。

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