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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
133/320

133.これからの道

 野菊との話が終わった後、咲夜たちもこれからのことを考えます。

 ゾンビの鉄則はまず安全第一ですが、咲夜たちの場合は……。


 野菊と白菊姫に触れて、咲夜の考えはどう変わったのでしょうか。

 泉家の話が終わると、野菊は今度こそ白川鉄鋼に向けて出発した。

 大勢の死霊たちをぞろぞろと引き連れて、心と表情をなくした白菊に寄り添って優しく手を引きながら。

「引き止めてしまって、申し訳ありませんでした。

 そちらの使命にも、時間に限りがありますのに」

 そう言って頭を下げる宗平に、野菊はひらひらと手を振って言った。

「いいわよ、これだけ戦力があれば四時間もあれば余裕。

 それに、さっきの放送で白川鉄鋼の内部でもめる時間はあった方がいいわ。すぐ私が行くと、かえって結束されて犠牲が増えたら嫌だもの」

 そう言う野菊は、どす黒い殺意に満ちた顔をしていた。

 当然と言えば当然だろう。これから禁忌を破った大罪人にして村の菊畑を潰そうとした仇を討ちに行くのだから。

 幸いと言っていいのか、今回は宗吾郎の時と違って黄泉から送られる殺意と野菊自身の殺意の方向が一致していた。

 野菊はこれから、迷うことなくひな菊を殺し、永遠の呪いをかけるだろう。

 それを想像すると、咲夜はごくりと唾を飲んだ。

「ねえ……もし私があんな風にひな菊を追い詰めなかったら、ひな菊は大罪人にならずに済んだのかな?」

 思わず、そんな言葉が口をついて出る。

 宗平は、苦し気に目を伏せて答えた。

「いや……白川鉄鋼のやり方を見ていると、いつかはこうなったと思う。

 私も白川鉄鋼絡みの諍いを何度か仲裁したが、竜也のやり方は狡猾で汚かった。表面上は礼儀正しいが……あれは直接仕掛けられた者にしか分からん。

 とにかくもっと土地を買って、工場を大きくしたいようだった。

 ……なぜあそこまで、執着するのやら」

 村の表も裏も見てきた宗平は、いろいろと苦心することがあったらしい。それもあって、今これ以上咲夜を責める気はないようだった。

 戦いに赴く野菊を見送る宗平の目には、どうかこの苦難を払ってくれという祈りすらこもっていた。


 野菊が行ってしまうと、宗平はパンと手を叩いて気持ちを切り替えるように言った。

「さあ、私たちもこれからどうするかを考えよう。

 白川鉄鋼は基本的に野菊様に任せるとして、私たちも何もしない訳にいかない」

 少なくとも、こんな無防備なビニールハウスに夜明けまで留まっているべきではない。まずはどこか、身を守りつつ休めるところに移動すべきだ。

「……とりあえず、家に帰ろうかな。

 父さんと母さんも心配してるだろうし」

 大樹が、ポツリと言った。

 咲夜は無事両親と合流できたが、大樹と浩太の家族はどうなっているのか分からない。平坂神社を追放された時に、別れたきりだ。

「そうよね、さっきの放送で私たちが大罪人じゃないって分かってもらえたし。

 これで安心して家に帰って、後は夜明けまで身を守ってればいいのよね」

 咲夜も、ホッとして呟く。

 そもそも咲夜たちがこんな所に逃げてきたのは、自分たちが家に帰ると野菊にそこが襲われると思ったからだ。

 その恐れがなくなった今、家に帰るのが最善手か。

「そうだね、大樹君と浩太君は家まで送って行こうか。

 ついでに、咲夜もどっちかの家に避難させてもらうといい。まだ死霊が消えた訳じゃないから、一人じゃ危険だろう」

 宗平のその言葉に、咲夜は目をぱちくりした。

「え、一人って……お父さんとお母さんは?」

「私たちには、村のためにやる事がある」

 心配そうな咲夜に、宗平ははっきりと言った。

「私は村の皆のために、この夜が明けるまで情報を発信し続けたい。

 神社での清美さんのやり方を見て、何を信じてどう動けばいいか分からない人も多いだろう。だから普段から頼られている私が、正しいことを伝えないと。

 私は、これから役場に行くつもりだ。たぶんさっきの放送は役場からだろうし、森川さんがそこにいるだろう」

 そう言う宗平の目には、強い使命感が宿っていた。

 これまでずっと村を守ってきた泉家の使命に従い、夜明けまでこの村を守り抜く。それが宗平の決断だ。

 宗平は、咲夜の目をじっと見つめて言った。

「おまえの未来はおまえのものだから、おまえは身を守ればいい。

 だけどね、父さんは……父さんまでは、使命を果たすって決めたんだ。野菊様と同じように、皆の信頼に応える。

 おまえがどうするかは、災厄の後にゆっくり考えればいい」

 宗平は、咲夜を尊重して自由にしたつもりだった。

 しかし、咲夜はもう決めていた。

「ううん、私も行くよ。将来そうする可能性があるなら、見とくべきじゃない。

 それに、私はもう部外者じゃない。白菊姫と気持ちをぶつけ合って、野菊様の本当の気持ちを聞いて……そこまでやっといて、関わらないなんて無理だよ。

 だから今夜は、父さんと一緒に使命を果たしてみる。

 将来の事は、やってみてから考える」

 それを聞いて、宗平と美香は感慨深げに目を細めた。

「咲夜……そうか……!」

 さらに、浩太も言う。

「僕たちも、一緒に役場に行きたいです。やることがあるなら、人手は多い方がいいでしょう。

 それに、家に帰ったって両親がいるとは限らないし……僕たちが無実だと分かって、僕たちが家にいなかったら、親は家に留まりますか?

 だったら、役場から放送で呼びかけた方が合流しやすいかも」

「なるほど、一理ある」

 浩太の言う通り、家に帰ってもそこが安全とは限らない。大人がいるかは分からないし、野菊の制御から外れた死霊が入り込んでいるかもしれない。

 なら、少なくとも他の大人と合流するまでは咲夜の親と一緒にいる方が安全だ。

 そういう訳で、咲夜たちはまず放送の元である役場に向かうことにした。

 ビニールハウスの周りで武器になりそうなものを拾うと、咲夜たちは人も死霊もいない道を役場へと歩きだした。

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