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死霊一揆譚~白菊姫物語  作者: 青蓮
114/320

114.話せば分かる

 前回の最後で白菊姫がしゃべったもので……咲夜たちは気づきます。

 白菊姫がここに来た理由、そしてある可能性に。


 ただし……まともにコミュニケーションできるとは言ってない。

 咲夜たちは、花を愛でる死霊を前に立ち尽くしていた。

 白菊姫は咲夜から白菊の花を受け取ると、それを様々な角度から眺め出した。もし目が生前のようにきれいだったら、きっとキラキラと輝いていただろう。

 目の前に生きた人間がいるというのに、もはや眼中にない。

 白菊姫の関心は、ただ手の中の花にのみ注がれていた。

 本来の死霊であれば、そんなものにはこれっぽっちも興味を示さず人間の肉を求めるはずなのに……これはまともな死霊の動きではない。

 それ以上に、咲夜たちには度肝を抜かれたことがあった。

 咲夜が、そろそろと二人の顔を見て言う。

「ねえ……今こいつ、しゃべったよね?」

 大樹と浩太も、あっけにとられた顔のままうなずいた。

「ああ、確かに聞いたぜ……」

 つい今しがた花を渡した時、白菊姫は確かに聞きとれる言葉を発したのだ。わらわの菊とか何とか、多少聞き取りにくいが言葉にはなっていた。

 本来、死霊には理性も思考もなく言葉を使えるはずがないのに。

 となると、こいつは……。

「もしかして、人の意識が残ってるのかな?」

 浩太が、他の二人も思っていたことを口に出す。

 食欲という本能に抗うには他のことを考える理性が、場面にふさわしい言葉を選ぶには思考が必要だ。

 こうして見ると、白菊姫はその両方を持っているように思える。

「話せたり、するのかな?」

 大樹が、ぽつりと言った。

 白菊姫に理性と思考が……人の意識が残っているなら、会話で何か聞き出せるかもしれない。野菊のこととか、大罪のこととか。

「……やってみようか」

 咲夜は、意を決して白菊姫の方に踏み出した。

 そして、鎌の背で白菊姫をつつきながら声をかけた。

「ちょっと白菊姫、聞いてるならこっち見て!」


「ああー……?」

 白菊姫が、煩わしそうに顔を上げた。

 大樹と浩太は、いつでも白菊姫を殴り倒せるように両側に控えて、白菊姫の動きに神経をとがらせる。

 しかし、白菊姫はどうしていいか分からないというように目をぱちくりしていた。

 そして、また手の中の菊に目を落とす。それからまた咲夜の顔を見て……しばらく視線を往復させた後、ようやく口を開いた。

「こ、れ……どこの、きくぅ?」

 咲夜は、精一杯の愛想笑いで答えた。

「私が育てたの、気に入ってくれたかしら。

 よかったら、そこのハウスにいっぱい咲いてるよ」

 それを聞くと、白菊姫は花が咲くように顔をほころばせた。

 咲夜たちは、確信した。白菊姫には、こちらの言うことが通じている。白菊姫は、きちんと考えてこちらに声をかけている。

 これはもう間違いなく、理性と思考が残っている。どのくらいかはっきりとは分からないが、少なくとも会話はできそうだ。

「お、まえ……つくった……?キク、キク!」

 突然、白菊姫が咲夜に手を伸ばして掴みかかろうとした。

「わ!?ちょっと……」

 咲夜が素早く身を引くと、白菊姫は勢い余ってつんのめって転んでしまった。それからしばらく咲夜の方を見ていたが、やがて諦めたように違う方を向く。

 その視線は、明かりが灯ったビニールハウスに向いていた。

「そ、こ……あルの?きくぅ……」

 白菊姫は持っていた花を懐に刺すと、片手をついてどうにか起き上り、よたよたとビニールハウスに向かって歩き始めた。

 咲夜たちはもう驚く気力も失せて、その後をついて行った。


「ねえ、今から私すごく馬鹿なこと言うけど……」

 咲夜が、恥ずかしそうに前置きして言う。

「もしかして白菊姫って、あの菊がどこに咲いてるか探してただけ?」

「だと思うよ」

 咲夜がいろいろな意味でためらいながら発した問いに、浩太はあっさりとうなずいた。大樹も、だいたい同じ考えだった。

 まじめに考えるのもアホらしいが、それが一番筋が通る。

 白菊姫がここに来たのは、人間の肉ではなく白菊の花が欲しかったから。いや、正確には咲いているところを見たいのだろう。

 人間はおそらくついで……食べるためではなく、この花の手がかりを探すために寄ってきたのだろう。

 はなから、人に害をなす気などなかった。

 咲夜を見つけて笑ったのは、悪意があってではなく話を聞けそうな人がいて嬉しかったから。もしくは、既に咲夜の腰に花を見つけていたのかもしれない。

「じゃあ、さっき掴みかかってきたのも、握手したかっただけとか?」

「それが正解じゃないかな。すごくアホな理由だけどね。

 菊を育ててるって聞いて、友達になろうとか思ったのかも」

 浩太のその言い方に、またしても咲夜は胸にズキズキと痛みを覚えた。こんな奴の同類だなんて、死んでも認めたくないのに。

「ふーん、そうね……友達なら、いろいろ教えてくれたりするかな?」

 咲夜は、友人の視線から逃れるように白菊姫の横に並んだ。


「ねえ、あんた野菊が今どうしてるか知ってる?

 野菊が災厄の時に悪い人を狙うのってさ、どの辺まで狙われるか分かる?」

 咲夜は、白菊姫と並んで歩きながらいろいろと問いかけてみる。もしここで何か有用な答えが得られれば、友達でも悪いことばかりじゃないと思いながら。

 しかし、白菊姫はまともに答えてくれない。野菊と聞いて一瞬少し悲しそうな顔をして、何か考える素振りをみせたが、すぐ菊の話に戻ってしまう。

「あのきく……取り寄せ、どこ……?はジメて、見るの……」

 咲夜の言うことなど無視して、一方的に菊のことばかりしゃべり続ける。

 そんな白菊姫に、咲夜は深い失望とともに思った。

(ああ、良かった……こんな奴、友達じゃない)

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