異世界への誘い
「ねぇ、君! モデルになってくれない?」
隣で写真を撮っていた少女に行き成り話しかけられ、驚きに目を見張る僕。一応言っておくが、この少女はあかの他人である。あかの他人にモデルを頼むとは。少女の質問の意図を図りかね、僕は彼女に質問で返す。
「モデルって…えっと、先ず、何処かでお会いしたことありましたっけ?」
すると、少女は不思議そうな表情で首を傾げた。
「お会いしたも何も初対面だよね?」
彼女の言葉に、今度は僕が首を捻る。
「ですよね。 なら、何でモデルなんて頼むんですか?」
僕の質問に、彼女は瞳を見開くと、やがて笑顔を見せた。
「あ、もしかして、私、怪しい奴だって思われちゃってました? 急に驚かせちゃってすみません! 悪い癖なんです、良い被写体を見つけると、直ぐに声をかけちゃうの。 でも、私、全然怪しい奴じゃないですから!」
そうパニックになりながら話し出す少女に、自然と笑みが零れる。
(どうやら、変な人じゃなさそうだ)
寧ろ、僕と同じで写真が大好きな人なのかもな。それなら、良い友達になれるかも。
そんな期待を胸に秘め、僕は手を差し出し、話を快諾した。
「嬉しい。 ありがとうございます!」
僕の返事を聞き、とても嬉しそうに笑う少女。その笑顔を見ると、僕も幸せな気持ちになった。
(ああ……もしかしたら、僕はこの子に恋をしたのかも)
そんな事を考えながら、彼女の指示通り、崖にあった柵に肘を乗せ、ポーズをとる。すると。
ドン!
行き成り、誰かに突き飛ばされた。柵を越え、海へと投げ出される僕の体。どんどん空と彼女が遠くなっていく。
(一体誰が? 何故?)
そんな思いを込め、突き落とされた崖を見てみるとーーそこには、カメラを構え、幸せそうに笑う彼女の姿があった。
「一回撮ってみたかったんですよ。 人が死ぬ瞬間」
そう言うと、彼女は落ちていく僕に向かい、一心不乱にシャッターを切り始める。遠くなのに、何故か近くに聞こえる彼女のシャッター音。
波間に消え逝く間際、見上げた空はーー今までに見たことがない位、澄み切った美しい青色だった。
(ああ……誰か僕のカメラを持ってきてくれ……。 あの青が撮りたいんだ……)
そうして、抜ける様な空の青さを目に焼き付けたまま、僕の意識は永遠のーー二度と起きることのない眠りの中へと誘われていった。
「あーあ、見えなくなっちゃった。 でも、いい写真が撮れて良かった。 あ……ねぇ、そこの君?」
次は君が私のモデルになってみない?




