その23
な、何よそれ! もう聞いてるって! 先に聞いてたって!! 私の苦悩は! 涙は!!
う、う、うおおおおおおおおうううう………。SAN値がガリガリ削れていく……
うん、まずは落ち着こう。深呼吸だすーはーすーはー
お母さんはすでに彼から話を聞いていると言った。それはいつ、どの程度の内容で? 年齢は十六という事は知られている、それは確実。
まだ彼がどのように説明したかは分からないんだ。しっかりと確認はしておかなければ……
「え、と。えーとですね」
「うんうん」
くそう、何だこのいい笑顔は! やっと言えたわうふふふふって顔してる! くううううう……
「彼、からは、いつに、あ、どこまで、何て言っていました?」
しまった質問がまとまってない。駄目よもっと落ち着かないと、この人の思うツボよ。
「いつ、ね。あなたに養子の話をしたでしょう? その前の日だったんだけど」
すっごい前じゃん!! 前過ぎるよ! え、何? そんな前から知ってたんかい!!
「え、え、ええー……」
お母さんはゆっくりと話し出した。
「あなたを養子に迎えたいって彼に話したらね、色々と、話してくれたのよ。色々とね……。まずは年の話だったかな、あなた十六なんですってね? それが一番驚いたわ。私たちはてっきり十歳かそれくらいかと」
十歳!? 無いわ! それは無いわ! そんなに子供に見られてたのか私は……。十歳と思われる言動だったのか私は……
「それから自分たちのことね。私たちには、彼の説明は難しすぎてよく分からなかったんだけどね、必死で考えて、できるだけ分かりやすいように話してくれたわ。色々聞いて一番理解しやすかったのは、夜、空に見える星、あの中のどれかから来たのかもしれないって。いつのまにかこの村の近くにいたんだって」
うわ、なんというロマンチックな説明。ん? ここって自分たちの住んでいる場所が星の上だって言う考えはあるのかな……。まさかね。
「言葉も文字も似たような感じだったからよかったって。たまに私たちが理解できない言葉は、自分たちがいた場所でしか通じない言葉なんだろうって」
それにしても、彼、思い切った事するな……。受け入れられたからいいものを……
「あ、これは言っちゃってもいいのかな? どうしようかしら? うふふ、うふふふふ」
む、気になるわそれ。ここまで聞いたんだ、全部聞かせてもらわなくちゃね。余計な事も言ってそうだし。
「あの、全部、聞かせて、ください」
「あらあら、ふふふ。いいわよ? でも私が言った事は内緒にしてね?」
な、何だ、何この笑顔! はやまったか!!
「自分も本当に怖かった、あいつら、っと、あなたたちと一緒にこの村に来た四人の子達のことね。あいつらみたいに、ここから逃げようと何回も思ったって。でも、あなたがいたから今日まで頑張れたんだって。多分、あなたを守る、っていう事を心の支えにしてたんじゃないのかしら? 表には出さなかったけど、彼も結構ギリギリな所で自分を保ってる感じだったのかもね」
え? あの四人って逃げ出したんだ? いや、あの馬鹿二人は絶対違うよね。 しまったな……、もっとちゃんと、話すればよかったよ……。
私も養子の話を受けるまで、余裕なんて全然無かったもんね。当然か、当たり前か、彼、同い年の男の子、なんだった。そりゃ不安になるよ、怖くもなるよ。私ホントに自分の事しか見えてなかったんだなー……
「最後に彼ね、自分はどうなっても、何をされてもいいです、何でもします! ってね? ふふふ。カッコよかったわー、決死の覚悟って言うのねきっと。あいつだけはお願いします! 本当にいい奴なんです! 自分と同じ年だけど、見たままの子供なんです! って、頭下げてね? もう二人とも家族なのに、その程度の事で放り出すはずないのにね? ふふふふ」
子供って! 見たままの子供って! でも、子供よね私は。彼は凄いわ。私の事を第一に考えてくれてたんだ……
お母さんは真剣な顔つきになり、続ける。
「そう、その程度の事なのよ。言葉がちょっと違う、生まれた場所が違う。たったそれだけの事でしょ? 私もあの人も逆に怒っちゃったわよ、そんなくだらない事で悩むなって。あなたたちにとってはくだらないどころか、一生隠して生きていくつもりの事だったんでしょうけどね。私たちから見てみれば、本当にその程度、ですむ話なのよ」
その……程度……? はは、あははっ。その程度の事か、くだらない事か。
「そうそうその顔よ、その時の彼と同じ顔。あなたにも見せたかったわ。力の抜けた、いい笑顔してたわ。ああ、この子もまだ子供なのねって」
「それでも……。私たちは、私は……。怖かったんです。全部話して、受け入れられなかった時の事を考えると、こわ……かったんです……」
本当に怖かった、それだけは。なるべく考えないようにはしていたが、やっぱりいつも、ふとした時に、気が付いて、怯えていた。
「あなたたちが何か悩んでる、隠してるっていうのは知っていたんだけどね。そうそう、彼、多分本気で自分は死んでもいいって考えて打ち明けたんだと思うわよ。私たちがその程度の事も受け入れられない人間だったら、あなたも危ないのにね? ま、それだけ私たちがあなたを大切に思ってるって分かってたんでしょうね。彼のこともちゃんと大事な家族って思ってるのにねー、まったくもう。しっかりしてるように見えて子供なんだから」
うおおおお。言われてみれば危ないわ! うん? 言われて、みれば?
「あ……。お母さんが、お父さんが、私たちに……、何を……」
そうか……、受け入れられなかった、その後の事か……
「あ、やっと気づいた? 気づいてくれた? あなたも頭がいいように見えても、やっぱりまだまだ子供なのよね。今回は頭がよかったのが逆に悪かったのかしらね」
言われてみないと、考えもつかない。
「私たちが、この村の人たちがね? そんな非道な人間に見えた? どう頑張っても見えないでしょう? 受け入れられない事を怖がる、それは分かるけどね。うん、怖かったでしょうね。でもね、そもそも、受け入れられないっていう事自体がありえない、って考えは出なかった? 失礼しちゃうわ」
む、無茶言わないでよ……。そんなこと思いつく余裕は無かったんだよう……
うっわー、そうだよ当たり前だよ。馬鹿だな私は、私たちは。この村の人たちが私たちをどうするってのよ? 試しに想像してみようか………。私たちはどこか遠い所から来た怪しい者です、……うん、無理。想像もできなかった。
「あは、あはは……」
馬鹿だ、大馬鹿だよ私たち。あれかー、ただのー、考えすぎだったのかー……
「できたら、できたらね? あなたから直接打ち明けてもらいたかったんだけどね。今日は何だかよく分からないうちに、勝手に一人で自分を追い詰め始めちゃってね。今だ、ここしかない! って思っちゃったわけなのよ。ごめんなさいね? 怒るなら彼を怒ってね?」
なんでよ! でもそうするよ!! 帰って来たら噛み付いてやるよ! このもやもやは全部彼にぶつけるよ!!!
あ、でも、その前にさ、私、そろそろ限界なんだ。
「あ、ねえ? お母さん? お願いがっ、あるん、だけど……」
おっと、声が震えてるよ。
「うん? なあに? 何でも言って頂戴?」
「あ、甘えても……いい、かな……、泣いても……、いい……かな?」
ああ、もう駄目だ。我慢できない。涙が、止まらない。
「そんな当たり前な事聞かないの。大歓迎よ! ……さ、おいで?」
涙声で聞く私に、優しい笑顔で両手を広げて迎えてくれる。
嬉し泣きって本当にあるんだねー。お話の中だけのことだと思ってたよ、ずっとさ。
奥さんの一人ぶっちゃけ大会。
少し分かりにくいかもしれませんね。




