――星の教団の聖典(抜粋要約)――
それは神の気まぐれだった。
混沌とした世界に、まず空を創った。そして、三人の娘にそれぞれ太陽と月と星を司らせた。
次に海を創り、息を吹きかけて波を起こした。しかし息が強すぎたようで、思っていたよりも大きな波になった。
最後に陸地を創った。偶然にも東西南北に丸く大きな陸地ができた。
神はそれらの土地を自らの代わりに治める者らを創ることにした。
「余が創った新たな世界に行きたい者はいるか?」
神の呼びかけに、犬、猫、熊、そして猪が応じた。
神はそれら四種の獣に自らを模した身体を与えて、四つの大陸にそれぞれ住まわせた。
北の大陸には、熊の顔をした熊人族を。
東の大陸には、犬の顔をした犬人族を。
西の大陸には、猫の顔をした猫人族を。
南の大陸には、猪の顔をした猪人族を。
すべてを創り終えてから、猿が神の神殿に駆け込んできた。
「神様! 私も新しい世界に行きたいです!」
「余が呼び掛けた時になぜ来なかった?」
「あいつらに嘘の道順を教えられて迷っていました」
犬、猫、熊、そして猪たちにだまされたという猿の言い訳は明らかに嘘だと分かったが、四つの大陸の間にある海は常に波が高く、舟で行き来することはできないと分かった神は、四つの大陸をつなぐ陸地を創ろうと考え、そこに猿を住まわせることにした。
神は優しく微笑みながら「では、少し狭いが、そなたにも新しい土地を与えよう」と告げた。
猿の顔をした猿人族は、最後に神が創られた四つの大陸をつなぐ細長い土地に住まわされた。
猿人族は、その十字の地形から、そこを十字路高原と呼んだ。
犬、猫、熊、猪、そして猿の顔を持つ五つの種族は、神の御名の一つをとって「イシュタルの五種族」と呼ばれ、神から与えられたそれぞれの地において生活を始めたが、未熟な五種族は領土を発展させるのに苦労をしていた。
そんな中、猿人族が神に泣きついた。
「主よ。いちいち手で土地を掘り起こし耕していたら、作物が育つ間に飢えてしまいます。もっと早く開墾ができる力をください」
「では、そなたに魔法を授けよう。もちろん、他の種族たちにもだ」
魔法を手に入れたイシュタルの五種族は、それぞれの領土を急速に発展させていった。人々を養っていけるだけの食料もできるようになった。
しかし、猿人族の住む十字路高原は狭く、川も少なく、木が生えている山もなかった。猿人族は次第に不満を募らせていった。そして、猿人族の種族をまとめ上げた大王が大軍を率いて東西南北の四つの陸地に攻め入った。そして、あっという間にすべての大陸を制覇してしまった。
大王が崩御し四人の王子が跡を継ぐと、東西南北のそれぞれの土地を領土とする国を分割統治するようになった。
そしておごり高ぶった四人の猿人族の王子たちは、神に近い特別な種族という意味で、自らを「人族」と呼ぶようになり、他の四種族を奴隷として扱いだした。
土地を支配するだけなら神もお許しになられたのかもしれないが、神がごとく他の種族の上に立とうとする猿人族に神もお怒りになられた。
猿人族が去り、無人となっていた十字路高原の真ん中にある山に、神は三人の娘の末っ子である、星を司る神子を降臨させた。
その神子は、神が五種族に与えられた魔法を取り上げ、緑色の石に封印した。
魔法を失った人族たちは為す術もなく、すぐに恭順の姿勢を示し、奴隷としていた他の四種族たちを解放した。
神子は、「五種族がともに栄えるというこの世界の規律を破る者が現れれば、再び降臨して鉄槌を下そうぞ」と告げて、天に戻られた。




