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逢魔時の邂逅  作者: もちまる
第一章 突然の旅立ち
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1人じゃない


 ザーザーと部屋に響く音で目を覚ますと、窓の外はぼんやりと明るくなり、激しく雨が降っていた。


 いつの間に眠っていたのだろうか。


 重い瞼をどうにか開きながら、しばらくの間ぼーっとお母さんの部屋を見渡していたが、ゆっくりと立ち上がると台所へ向かう。


 もしかしたら、という微かな希望を持ちながら祈るように台所を覗くが、お母さんが当たり前にいる朝は来なかった。



『おはよう、レイラ』

『おはよう、お母さん!』

 


 いつも当たり前のように繰り返していた何気ない会話をする相手がもういない。

 雨音が響くだけの台所が、お母さんがいなくなってしまったことを感じさせて涙が流れてくる。


 涙を拭いながらテーブルに目を向けると、昨日帰ってきた時のまま、お母さんが用意してくれた誕生日の料理が置かれている。


 結局、昨日は手紙を読んで泣き疲れて眠ってしまったので、お母さんが作ってくれた最後の料理を何も口にできていなかった。


 テーブルの料理を見ながら、トムお爺ちゃんとノーラお婆ちゃんが亡くなった時のことを思い出す。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんが立て続けに亡くなった時、食事が喉に通らなかった。『食べよう』というお母さんに『いらないよ』と泣きながら答えると、お母さんは私を抱きしめて背中をさすりながら優しく声をかけてくれた。



『どんなに悲しくても寂しくても、お腹は減るのよ。私達は生きてるの。生きていくためにも食べましょう。きっと2人もレイラには元気でいてもらいたいはずよ』



 鍋に入った牛肉の煮込みを皿によそうと椅子に座る。


「いただきます」


 お母さんが私のために用意してくれた料理。味わいながら大切に食べよう、そう思っていたのに涙のせいか味がよくわからなかった。

 

 サラダに牛肉の煮込み、パン、そしてケーキ。



 隠し味、やっぱりわからなかったな。

 手紙にも書かれていなかったし、これから先も答えがわかる日は来ないんだなあ。



 料理を一口食べる度にお母さんとの思い出が蘇ってくる。感傷的になって時間が随分かかってしまったが、お腹が膨れた頃には雨音が小さくなっていた。


 これからどうすればいいのだろうか。

 

 私はお母さんの部屋に戻るとベッドの上に置いていた手紙を手に取り、再び目を通した。手紙を読みながら昨日の出来事を思い出す。


 昨日私を殺そうとしたアイツは、おそらくお母さんと同じ種族の生き物なのだろう。お母さんの手紙に書いてある特徴とそっくりだ。

 怪我を負っても血が出ないし、小さな子どもから大人の男になった。


 あの時、お母さんにとどめを刺そうとしたアイツが驚いた様子で逃げ出したのも、同胞を傷つけたことに気がついて動揺したからだったのかもしれない。


 お母さんと同じ生き物だとすると、少なくともアイツは2人の人間を食べているということになる。しかもあの様子から察するに、自ら手を下してから食べている可能性が高いのではないだろうか?


 私と同じような思いをしている人がいるのかもしれない。同じように大切な人を奪われた人が。アイツが生きている限り、そんな人がこれから先も増えていくのではないか?


 そんなことを考えながら何度も手紙を読み返していた時、ふと手紙のある部分に目が止まった。



『……私はここから遠く離れた場所で同胞達と共に森の奥深くにひっそりと…』

  

『……興奮した様子で姿の変わった同胞に近づいて行き、自分もそうなりたいと言わんばかりに鳴き始めました…』



 人間の姿になりたいと願い、人間を食らう生き物はアイツだけではない。


 それに生き物にはいろんなものがいる。獲物をあっさり諦めるものもいれば、一度見つけた獲物に執着するものもいるのだ。

 もし、アイツがそうだったとしたら?仲間を引き連れて再び私の前に現れたら……嫌な予感にゾワゾワと鳥肌が立った。


 もしかしたらこんなに悠長にしていられない?

 ……いや、それならあんな風に逃げ出すことはなかっただろう。昨日のあの状況はアイツに絶対的に有利だった。アイツが逃げなければ、あの時私は殺されてアイツに飲み込まれていただろう。自然児に執着しながらも、個に固執はしていない、そんな気がする。


 アイツが私の前に姿を現さないつもりなら、私が追いかけてお母さんの仇を討つしかない。

 あの身体能力を前に私だけで戦えるのだろうか?アイツに仲間がいれば万が一にも勝ち目がない。だがもたもたしている間にアイツはここからどんどん遠ざかってしまう。


 ……こうしてはいられない。アイツを討つための仲間を見つけるために私は急いで旅支度を始めた。


 

※※※



 旅支度を終えた私は、いつもお母さんと行っていた街に来ていた。


 さて、これからどうしようかと考えていた所、顔馴染みのおばさんに声をかけられた。


「レイラちゃん?!どうしたんだい、その髪!!それにその格好は?!」

「カマラさん、えっと……」


 私はあらかじめ用意していた言葉を口にした。


「…実はお母さんが昨日から行方不明になっちゃったんです。お母さんを探す旅に出ようと思って髪を切って、この通り路銀にするために飼っていた鶏も連れてきました」

「行方不明?!そんな、レイラちゃんのお母さんまで……。短期間で2人目だよ」

「えっ、2人目?お母さん以外に行方不明になった人がいるんですか?」

「ああ、つい先日なんだけどね、3歳の女の子が行方不明になったんだよ」


 3歳の女の子?まさか……。


「その子の名前は?」

「エヴァちゃんっていうんだけどね、栗色のふわふわした髪の短い可愛い子なんだけど、レイラちゃん知ってる?」

「いえ……」


 ミーちゃんとは別人か。


「いつから行方不明になったんですか?」

「今から1週間くらい前なんだけどね、大変だったんだよ。もうどこから話せばいいか…一度見つかったみたいなんだけど、今また行方不明になっちまったよ」

「えっ見つかったけど行方不明?」

「ああ、それで明日エヴァちゃんの父親が処刑されることになってて」

「ちょ、ちょっと待ってください!その話最初から詳しく聞かせてもらえませんか?」



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