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打開策

「ラナ! 合わせてくれ!」

「うん!」


 二振りの冥刀に闇が収束していく。

 魔王が使う湾曲魔術はラナによって砕かれた。これでようやく()()


 同時に星剣(ラ=グランゼル)から極寒の冷気が放出された。

 カナタも俺の隣で巨大な魔術式を記述している。五つの魔術式が複雑に絡み合う立体魔術式だ。


 対する魔王も剣を掲げた。輝きが収束していく。


 そして四人同時に大技を放った。


第七偽剣(覇道)!」

イディス(氷よ)ウォルプス(崩壊せよ)

至天雷槍(してんらいそう)


 二つの覇道が合わさった黒の奔流。

 鋭い氷の結晶を内包した雪崩。

 膨大な魔力を秘めた光り輝く雷槍。


 対する魔王は臨界に達した剣をただ振り下ろした。


 技と技が衝突し閃光が満ちる。


 視界を灼くほどの凄まじい光量に俺は自分とラナ、カナタの前に闇を展開する。

 閃光が収まり、闇を払い除けるとそこには無傷の魔王が立っていた。


 ……これで無傷かよ。


 しかしそれよりも看過できない問題があった。


「レイ。まずいかも」

「……だな」


 ラナの言葉に同意しながらも冷や汗が止まらなかった。

 魔王から立ち昇っている光の魔力が先程の比ではない。神聖さを持った魔力が可視化できるほど濃密になっている。

 ここまでくると本当に魔王なのかすら疑わしい。


「湾曲魔術を解いたからか?」

「うん」


 遠距離攻撃、全てを曲げる魔術だ。

 維持するのにかなりの量の魔力を使用していた事は想像に難くない。しかしラナが打ち破った。

 結果としてそれは湾曲魔術に回す魔力が無くなったことを意味する。

 即ち、攻撃が苛烈さを増す。


 ……時間がねぇってのに……!

 

 制限時間(タイムリミット)までは残り三分。

 それを過ぎると俺は殺戮衝動に呑まれ、暴走する。その前には封印を再起動しなければならない。

 

 当然、そうなれば俺は戦力にならない。一瞬で瓦解する。

 何がなんでも制限時間までに倒し切らないといけない。


 魔王が自身の周りに魔術式を()()した。


「……な……に!?」


 それは俺の声か、はたまたカナタの声か。

 

 凄まじい数の魔術式だ。魔王の背後、隅々にまで記述されている。

 どれほどの魔力、制御力を持ってすればこれだけ多くの魔術式を記述できるのか。俺には想像もつかない。

 

 それら魔術式はやがて光の剣となった。切先が一斉にこちらを向く。

 魔王が剣を頭上に掲げた。


「チッ! 二人とも俺の後ろで防御を!」


 剣を振り下ろされる。直後、光剣が殺到した。

 俺は頭上の冥刀を落として迎撃する。だがそれでも足りずに自分の周りに黒刀を生成し、とにかくばら撒いた。

 その間、俺は手に持つ二刀で飛来する光剣を迎撃し続ける。


 ……チッ! 全然減らねぇ!


 内心で舌打ちをする。光剣の数は一向に減らない。ただ時間だけが過ぎて行く。


 ……このまま圧殺する気か? なら!


 俺は光剣を撃ち落としながらも前に進む。

 次々に放たれる光剣は距離を縮める毎に密度を増していく。

 討ち漏らした光剣が腕が切断し、足を吹き飛ばす。その都度、再生を行い、突き進む。


 何十回、と手足が吹き飛んだことか。だが確実に進んでいる。


 ……もう少し!


 光剣を受け損ねて左腕が切断された。すぐに再生するが違和感があった。


 ……遅くなってる?


 それは誤差とでも言えるほんのわずかな時間。

 だが確実に遅くなっている。無限に再生できるわけじゃないのだ。限界は近い。


 光剣の嵐を抜け、魔王の元へと辿り着いた。そのまま冥刀を振るう。

 魔王が俺の冥刀を受け止めた途端に光剣が止んだ。

 どうやら近接戦を行いながら、放ち続けられるようなものではないらしい。

 

 光剣が止むと同時にラナが指を鳴らし、カナタが雷鳴を響かせた。一瞬で距離を詰めると星剣と雷刀を振るう。


 しかし、届かない。

 首を狙って放たれた斬撃は難なく弾かれた。

 その後も何回、何十回と刀を振るおうが魔王の剣を突破することができない。

 

 それどころか魔王は攻撃に転じる余裕すらある。

 一瞬でも気を抜けば待っているのは死だ。肌が粟立ち、冷や汗が流れる。

 致命傷を受けていないのが奇跡のような攻防だ。


 決定打が無いまま時間だけが過ぎる。胸の花弁が一枚、二枚と散っていく。徐々に殺戮衝動が増していく。

 そんな中でも思考は止めない。頭を高速で動かして打開策を考える。


 ……考えろ。


 剣技と魔術。魔王はそのどちらも俺たちの上をいく。

 剣技にはまるで隙がなく、魔術も記述速度や術式の複雑化さが群を抜いている。

 正攻法ではまず勝てないだろう。


 ならば俺たちに有って、魔王に無いものを考える。


 刀を振りながらも思考を止めない。


 思い付くのは二つ。

 ラナの星剣と俺の闇だ。

 星剣は言うまでもなく世界に一つの剣。いくら魔王の剣が星剣に匹敵するといっても上という事はないだろう。

 

 そして星剣ラ=グランゼルには秘剣がある。

 その名も「ティリウス(時よ)ブリジリア(凍れ)」。

 絶えず流れ続ける()を停める力だ。


 これを使えれば魔王にも届くかもしれない。


 だがそれはラナもわかっているだろう。

 しかし敢えて使っていない。ならばラナはなんらかの理由で魔王には通じないと判断している。


 ラナから聞いた話だと暴走中の俺は停止空間の中でも動けたらしい。

 おそらくはそれを警戒している。

 だから使うとしても最終手段だろう。


 次は闇だ。

 俺の意思に従い、何にでも姿を変える万能素材。

 だけど俺はこの正体を知らない。


 バケモノの肉片を喰らった事により発現した力。再生能力といい、ヤツらの力なのは間違いない。

 だけどそれ以上は何も分からない。分かっているのは魔力に似た何かだと言う事だけだ。

 縮地を使う時に、闇で代用出来たことからもそれは間違いないと思っていい。


 ……であるならば偽剣も魔術の一種か?


 偽剣を放つ時も闇を使っている。そう考えるとこの仮説も現実味がある。縮地と同じ原理だ。


 ……もしかして俺も魔術を使えるのか?


 魔力がないと魔術は使えない。それは絶対の法則だ。

 だから俺は魔術が使えない。そう思っていた。だけど闇が魔力の代わりを果たすのならもしかしたら使えるのかもしれない。


 ……いやダメだ。


 魔術も魔王の方が上。だからもし魔術を使えたとしても打開策にはならない。

 何か他の方法を――。


「くっ!」


 魔王の斬撃を受け損ない、右腕が斬られた。腕から抜けた冥刀が天井に刺さる。

 

 俺は頭上に配置してある冥刀を五本、魔王に向けて放った。

 攻撃するための物ではない。再生の時間を稼げればそれでよかった。


 魔王へと向けて落下する五本の冥刀。俺はそれを見て閃いた。

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