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28.呪いの黒き聖剣

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「殿下! どうしてあのようなことをなさったのですか!」


 謁見の間を出て宮殿を闊歩していくレイドール。その後ろを追いかけてきたのは、王国軍千騎長であるダレン・ガルストであった。

 レイドールは足を止めることなく進みながら、詰問してくるダレンを横目で一瞥する。


「どうしてって……契約を破られないように念押ししただけじゃないか」


「だからといって、国王に呪いをかけるなど……どのような罰が下るかわかりませんよ!?」


「罰ねえ、呪いがかかっているうちは無理だと思うけどな」


 誓文の呪いのせいでグラナードはレイドールを害するような行動をとることができない。呪いが解除されるまでは、レイドールの安全は保障されている。


「契約の呪いなど、宮廷魔術師がすぐに解いてしまいますよ! そうなれば、陛下の怒りは容赦なく殿下へと向くことでしょう。お願いです、どうか陛下にお詫びを……」


「へえ、気を遣ってくれるのか。随分と優しいじゃないか」


 レイドールは意外そうに目を瞬かせた。

 ダレンの父親はザイン王国の将軍であるバゼル・ガルストだ。バゼルはグラナードの腹心の側近であり、レイドールの追放に賛同した中心人物の一人であった。


「……確かに、父は殿下の追放に少なからず関わった者の一人です。しかし、それはあくまでも殿下が聖剣保持者となったことで後継争いが勃発することを防ぐためであり、殿下に恨みがあったわけではありません」


「そうかよ。だからといって、ガルスト将軍を許す理由にはならないけどな」


「……それは父も承知しています。辺境へと追いやられた殿下をこちらの都合で戦わせることを、父はとても嘆いておりました」


「……なるほどな」


 レイドールは納得して頷いた。

 謁見の間でグラナードに呪いをかけた際、その場にいた騎士達がレイドールに襲いかかってきた。しかし、その場にいたはずのダレンは動くことなく立ち尽くしていた。

 ダレンが積極的にレイドールを害するような行動をとらなかったのは、彼なりに思う部分があったからなのかもしれない。


(同情か……それとも別の感情か。どちらにしても、最終的にグラナードの味方をするようなら容赦はしないけどな)


「城門はそちらではありませんよ? どこに行かれるのですか?」


「…………」


 そのまま城を出て行くと思わせて見当違いな方向に向かって行くレイドールに、ダレンは怪訝そうな声を発した。

 レイドールはダレンを振り返ることなく無言で歩を進めていき、やがてとある部屋の前へとたどり着いた。


「ここは……」


 そこは国宝である聖剣『ダーインスレイヴ』が安置されている部屋だった。

 部屋の前には二人の騎士がいて、突然、現れた王弟と千騎長に目を見開いて驚いている。


「王弟殿下……! 申し訳ありませんが、こちらは陛下の許可がなければ……」


「鍵がかかっているようだな。鍵は……そこか」


「がっ!」


 部屋の扉に手をかけたレイドールを止めようとした騎士であったが、その顔面に容赦なく拳が突き刺さる。殴られた騎士はあまりの勢いにクルリと一回転して、そのまま崩れ落ちるように床へと倒れた。

 レイドールは騎士の腰についている鍵を奪い取る。


「なっ……いったいなにを……!」


 もう一人の騎士が慌てて剣に手をかける。その騎士の肩をダレンが叩いた。


「……もういい。やめなさい」


「ガルスト千騎長! しかし、これは明らかに……」


「今更のことです。今回のことの責任は私が取りますので、貴方が気にすることはありません」


「……そうですか。我々はなにも見てはおりません。居眠りした同僚を医務室に運んできます」


 諦めたようなダレンの顔を見て、騎士はなんとなく事情を察したようだった。腰の剣から手を放して、気絶した騎士を引きずって廊下の向こうに消えていく。


 レイドールは騎士から奪った鍵を使い、今度こそ扉を開いた。

 かつて成人の儀のときに訪れて以来の聖剣の間。その奥では5年前と変わらず、聖剣が台座に突き刺さっている。

 あの時と違うのは台座に刺さった聖剣の剣身から、黒い力の奔流が噴き出していることだろう。


「これは……!」


 ダレンが愕然とうめく。

 聖剣から立ち上る黒い奔流は渦となって部屋の中の空気を掻きまわし、まるで小型の竜巻のように荒れ狂っている。

 吹き荒れる黒い風に打たれてダレンが膝をつく。


「ぐっ……力が……」


「無理はするな。これは力を奪う呪いの風だ。無理に立とうとすれば衰弱死するぞ」


「レイドール殿下……!」


 黒い嵐が吹き荒れる聖剣の間を、レイドールは躊躇うことなく歩いて行く。呪いの風がその身体に打ちつけるが、若き王弟は眉一つ動かすことなく歩を進めていく。

 やがてレイドールは台座へとたどり着き、黒い嵐を撒き散らしている聖剣ダーインスレイヴを握り締める。


「随分とはしゃいでいるじゃないか。そんなに俺に会いたかったのかよ?」


 聖剣が抗議をするようにひときわ強い風を撒き散らした。刃となった旋風がレイドールの頬を斬り裂き、血が飛び散る。


「殿下!」


「5年の年月を越えて我が手にようこそ。ダーインスレイヴ!」


 頬から流れ落ちる血を無視して、レイドールは聖剣を台座から引き抜いた。

 初代国王以来、誰にも抜くことができなかった黒き聖剣が再びレイドールの手の中に収まった。

 部屋を荒れ狂っていた嵐が吹き止んだ。代わりに、夜闇を凝り固めたような漆黒のオーラがダーインスレイヴの周囲を逆巻いた。


「おお……」


 ダレンの口から思わず声が漏れる。

 その声に宿った感情は恐怖か、それとも感嘆か。


(私は……英雄譚の一節に立ち会っているのか? これは新たな英雄が生まれた瞬間なのか?)


 肩を震わせながら、ダレンは神に祈るような気持ちで頭を下げた。

 相手は自分が仕える王に呪いをかけた謀反人のごとき男。そうと知りながらも、敬意を示さぬわけにはいかなかった。

 騎士としての魂が、武人としての誇りが、目の前に生まれた英雄への最敬礼を全力で求めていたのだ。


 そんな千騎長の視線を背に受けて、レイドールは高々とダーインスレイヴを頭上に掲げた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 28. 「……それは父も承知しています。辺境へと追いやられた殿下をこちらの都合で戦わせることを、父はとても嘆いて『おられました』」 王弟殿下の方が目上だと思うので、『おりました』とか…
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