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吸血鬼さんバトルする19
「ううん、そんなことないはずだよ。だって私、見たもの。私が廊下に出た時には、まだ皆中に居たんだ。で、譜面台とか楽器置きとか……目に付いた物全部集めて、皆でその下に潜って揺れが収まるのを待ってた。一応、バリケードくらいにはなると思う」
「なら、きっと、千恵が出た直ぐ後に……」
千恵が言っていたバリケードの残骸であろう物に目を落とし、泣きそうになる私。
けれど静かにリルゼイが首を振る。
「いや、少なくとも、此処に一人は人間がいる筈だ。生きた、血の匂いがするからな」
「血の匂い……?」
それって怪我をしてるってことじゃ――?
私が彼に尋ねようとした瞬間、ホールの隅にある見るも無残な姿に変わり果てたグランドピアノがガタリと動く。
「誰っ?」
家から兄に黙って持ち出してきた金属バットを構え、私は問い掛ける。
すると、そんな私をそっとリルゼイが手で制した。
彼はピアノに歩み寄ると、ひしゃげた蓋の部分に手をかけ一気に抉じ開ける。
勢いそのままに、大きな音を立て、外れるピアノの蓋。




