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吸血鬼さんバトルする⑦
私は、顔の火照りと速くなる鼓動を鎮める為、深呼吸をしようとする。
その時、不意に私は気付いてしまった。先程から頬を寄せている彼の胸から、鼓動が一切伝わってこないことに。
それは、どれだけ優しくしてくれようと、所詮彼は住む世界が違う存在であるということを嫌でも私に思い知らせてくる。
(リルゼイ……やっぱり、吸血鬼なんだよね……)
そんなこと、最初から分かっている。
だからこそ、私は問い掛ける代わりに、彼の胸に頬を押し当てた。
(……冷たい)
肌触りの良いシルクのブラウス――その布越しに、私が感じたのは、やはり氷の様な彼の感触だった。
吸血鬼というのは、鼓動が止まっている……所謂、生きた死体である。つまり、あたたかな血が通っていない以上、身体に温もりが宿っていないのは仕方のないことなのだ。
なのに――その時の私は、何故かそれが無性に悲しかった。
危機に陥った人間や、傷付いた精霊を、己の状態も顧みず、無償で助けてしまう様な『あたたかい』ひとなのに。その人自身が、こんなに冷え切ってしまっているなんて。




