吸血鬼さん、今度はイン我が家⑤
途端に安堵の溜息を吐き、椅子の背凭れにどっと寄り掛かる二人。
(イカに睨まれて、そんなに緊張してたんだ。って言うか、これじゃぁまるで、蛇に睨まれた蛙ならぬイカに睨まれた吸血鬼じゃない)
先程の固まりきったリルゼイを思い出し、私はついつい吹き出してしまう。
と、不意に私の目の前に伸びる長い腕。それは、私の寿司桶にあった鮪を掴むと勝手に奪い去ってしまう。
「ちょっと! それ、私のなんだけど!」
私は勢いよく振り返ると、満足げに私の鮪を頬張っている兄、理人へと椅子のクッションを投げ付けた。
兄はそれをひらりとかわすと、私の桶から更に鮭を誘拐していく。私の寿司桶は最早連続誘拐事件状態だ。
私は桶に手早くラップを被せると、それを抱き締めるようにしながら兄を睨み付ける。
「帰ってきたんなら、ただいま位言ってよね! お兄ちゃんの馬鹿!」
「悪い悪い、お前達があんまりにも楽しそうでさ。つい、声をかけ損ねちまったんだよ。ごめんな」
兄はへらへらと笑った。
(嘘つけ、絶対わざとだ。だって、お客様とご飯にする時は、お兄ちゃん、何時もこうして私のおかずやデザートを勝手に取って行っちゃうんだから)
私は思い切り頬を膨らませると、そのまま兄を睨み付ける。




