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蜘蛛の意吐 ~あなたの為ならドラゴンも食い殺すの~  作者: NOMAR
~あなたの為ならトカゲの王も見つけるの~
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四の三十


 ハンター兄弟の住む家は大きく広い。だがゼラが入れるように作られてはいない。俺とゼラは庭でこの家の家宝を見せてもらう。


「生きた翡翠細工と呼ばれるだけあって、本当に生きた鳥の羽とは思えない」

「でしょう? 金に困ったときには売れ、ということですが今のとこ売る気は無いですね」

「譲ってくれというのが来るのではないか?」

「たまに来ますが、これは我が家の自慢なので。今のところ売らずに済んでいるのもこの羽が我が家の幸運のお守りになってるのではないかな、と」


 保存の為にと額に入れて絵のようにガラスで押さえてある。その額の中にあるのは美しい三枚の緑の鳥の羽。ハイイーグルの羽。

 この羽自体が風系の魔術を強化する力があり、このハイイーグルの羽で作った魔術具は風系の魔術師にとっては垂涎の品。見た目の美しさだけでなく魔術具の材料としても貴重なもの。


「うちのじいさんが若い頃に捕まえたハイイーグルの羽なんですよ」


 この前のハンター兄弟の父がにこやかに説明してくれる。ゼラも綺麗と言って緑の羽を見る。だが、見れば見るほどクインの尾羽に色が似ている。クインの方が羽は大きいのだが。

 そのクインはエクアドと家の中にいる。窓から中を覗くと安楽椅子に座ったおばあさんがいる。今年で九十三歳でアバランの町一番の長生きおばあさんだという。ボケてきていると聞いてはいるが、エクアドとも話ができている様子。案外しっかりしているのではないか。先程、窓越しに俺とゼラも挨拶をしたところ。


 ニコニコと穏やかに微笑むおばあさんだ。クインがこのおばあさんと会って何を話したいのかは解らない。俺はチラチラと窓から中を窺っているが、クインはおばあさんの顔を見てるだけで話しかけたりしてはいない。代わりに話しているのはエクアドとティラスだ。孫夫婦とひ孫の兄弟と話をしてておばあさんとクインがそれを聞いている。

 ルブセィラ女史は孫夫婦にハイイーグルの目撃情報など聞いている。


 ひとしきり話が終わったようでエクアドがルブセィラ女史を引っ張るようにしてハンター兄弟の屋敷から出てくる。……粘っても家宝を売る気は無いと言ってるのだから諦めろ。そのあとをクインが大人しくついてくる。


「クイン、あのおばあさんに何の用があったんだ?」

「なんだっていいだろ。あんたらにゃ関係ねえ」


 そう言うクインの顔はこの屋敷に来る前よりスッキリしてるように見える。エクアドの方を見るとエクアドは肩をすくめる。


「会いたいと言ってたわりにクインは何も話したりしなかった。ただ、あのおばあさんがクインの顔を見て首を傾げていたのだが」

「クインのことを知っているのか?」

「クインを見て、何処かで会った気がする、ということを言っていたが、クインの方が初めて会うと言って否定した。クイン、いったい何をしたかったんだ? ほとんど話もしなかっただろ?」


 スタスタと先に進むクインを追いかけるように進む。クインは振り向きもせずに。


「なんだっていいだろ。ちょっとばーさんの顔が見たくなっただけだ。詮索すんな。それで? トカゲはどうするんだ?」

「ルブセィラ女史に森の中を調査させたい。しかし、王種が見つからないとは奇妙だ」

「見つかんねぇんだからしょーがねえだろ。オークのときは一回りデカくて色も白くて、派手な服に王冠まで被ってたからすぐに見つけたんだけどな」


 王種とはだいたいが一回り大きく、またその王種を守るように群れが集う。その群れの真ん中にいて、見た目も派手だったりする。

 かつて父上がウィラーイン領で討伐したタラテクトの王種はブラックウィドウ程に大きく、銀と黒の縞々模様という目立つものだった。


「クインがオークの王種を見つけた、というのは五十年前のオーク大侵攻のときか?」

「あれから五十年過ぎてんのか」


 サラリと言うクイン。その見た目は二十代にしか見えないが、それが本当なら五十歳を越えていることになる。


「じゃ、あたいは森に行くから」

「ちょっと待て。目的が同じなら一緒に行動しようじゃないか」

「お前らが森に入るのは邪魔しない。それでいいだろ?」

「王種発見の為にはクインの知ってることを教えて欲しい。見つからないから探していたのだろう?」

「ちっ、めんどくせえ」


 ブツブツと文句を言うクインをなだめつつ、ゼラ専用特大テントに戻り作戦会議。ゼラがちょっと不機嫌に。


「なんでカダールがクインのご機嫌とってるの?」

「ゼラ、これはアバランの町を守るために必要なことで」

「むー、」


 なんだろう、ゼラがクインに妙な対抗心? を燃やしているような。手を伸ばすとゼラが俺の手をきゅっと握る。


「……作戦会議じゃねえのかよ。何をイチャついてんだお前ら? 仲がいいのは知ってるけどよ、時と場所を弁えろっての」


 クインに半目で睨まれる。俺はどうすればいいのだ? エクアドがクインに訊ねる。


「クインの目的はグレイリザードの王種の発見と討伐、でいいのか?」

「あぁ、そのつもりだ」

「では、何故森に向かうハンターや俺達まで追い返していたんだ?」

「あたいが探すのに邪魔になるからさ。それとゴブリンどもの数を減らしたくねえし」

「ゴブリンにコボルトをハンターから守るためにか?」

「あんな雑魚でも群れてりゃあグレイリザードの足止めになる。王種を殺したあと、増えたグレイリザードが迷走すんのを押さえられるだろ」

「ゴブリンにコボルトを防壁にする気で森の浅部に残していたのか」


 王種がいればその群れは統率される。群れは王種を守ろうとする。王種誕生からの大繁殖で増えた魔獣が、王種討伐後、守る王種を失い迷走して村や町を襲う。クインはグレイリザードを森に封じ込める為に、ゴブリンとコボルトを使うつもりか。それならハンターを森に近づけたく無いのも解る。

 ルブセィラ女史が眼鏡を指で押し上げる。


「おもしろい対策方法ですね。空を飛べるクインならではの視点ですか。私達では手前から奥へと進むので邪魔になる魔獣は倒して行かないと、安全が確保できませんからね」

「なかなか引かないハンターは脅す為にちっとケガさせたが、死んでねえだろ」

「クインがなんとしてもアバランの町を守りたい、というのは解りました。五十年前のオークのときもですか?」

「それは今と関係ねえだろがよ。で、どーすんだ?」

「グレイリザードは数が増えたということですが、変異種は?」

「更にデカイ大型に顎の長い攻撃型。鱗を逆立てた防御型の中には鱗を飛ばして攻撃するのがいる。脚の長いのは木登りが速い機動型、こんなとこか」

「群れの集まるところに王種はいなかったのですね?」

「そーだよ。どういうわけか気配も追えねえ。地面の中にでも潜ってるのか見つからねえし。手当たりしだいに屠っても当たりはなかった」

「王種そのものが特殊な隠蔽をする変異種に? これは現地で調べてみたいですね」


 いろいろと話し合いその後のことも考慮して。グレイリザードのいる奥地に行くには、ゴブリン、コボルトなどと戦闘になる。ゴブリン、コボルトを倒さずにそこを抜けられるのはクインにゼラしかいない。人間では隠密ハガクとクチバぐらいにしかできない。

 また、首尾良く王種発見から討伐できたとして、王種を失い迷走するグレイリザードの対策も必要になる。

 アバランの町の防衛は青風隊とハンターギルドに任せる。アルケニー監視部隊とフクロウ、隠密ハガクの隠密隊には森とアバランの町の中間にいてもらうことにする。

 グレイリザードの群れが森から出ても少数であれば討伐し、アバランの町以外の村に向かうようであれば、先回りしてもらう。状況次第で防衛、又は森から離れる方向へと避難誘導する。


「エクアドは森を監視して、グレイリザードの他にも追い立てられた魔獣がアバランの町に来たときの対処を」

「大物が来る可能性は低いからいいが、そうなるとカダールとルブセィラ、ゼラとクインの四人で森の奥に行くことになるが?」

「速度を上げ戦闘を回避して森奥に行くにはこれしか無い」

「まぁ、ゼラとクインが居れば灰龍、黒龍が出ても敵では無いか。だがルブセィラはどうだ? 実戦経験は無いだろう」


 ルブセィラ女史が眼鏡をキラリと光らせる。


「魔獣研究者として魔獣との戦闘経験は少しですがありますよ。アルケニー監視部隊でアルケニー調査班は訓練も経験しましたし。何より私の知識がお役に立てるかもしれません」

「ルブセィラは俺が護衛する。だが森奥では何があるか解らんのだから気をつけてくれ」

「ゼラさんの背に乗っていると何も不安は無さそうです」


 ティラスは青風隊とアバランの町を守ることに。ハイラスマート領でも西端に在り魔獣深森に最も近い砦町。町壁は石造りで頑丈にできてはいるが、グレイリザードの変異種では壁を登るのがいそうだ。

 ティラスは槍を肩に担いで気合いを入れる。


「こっちは任せて。王種に率いられた大軍勢じゃ無くてはぐれだけなら、青風隊とハンターでなんとかなるわ」

「町の防衛に徹して欲しいところだが」

「それは無理ね。畑も羊も守りたいし、数を見て行けそうなら打って出るから。これでもハイラスマート家の長女なの。領民は守らないとね」

「無理はするなよ」

「えぇ? それカダール君が言うの? これまでどれだけ窮地に飛び込んでいったか憶えてる? それで不死身の騎士のアダ名がついたのに」


 いや、騎士とは民や仲間を守る為にときには無茶もするものであってだ。たまたま俺がそういう立場になるだけで、他の騎士でもこれは同じだろうに。

 俺とエクアドはゼラに助けられたおかげで生き延びているだけだ。

 ティラスがクインに片手を上げる。


「クイン、アバランの町は私達に任せて」

「ふん、手間はかけさせねえよ。あたいが片付ける」


 ルブセィラ女史がゼラの背に乗り、その後ろに俺が乗る。剣は腰の後ろで横に向けて固定して背にクロスボウを背負い準備よし。水筒と保存食入りのバッグも固定する。

 エクアドも馬に乗る。今回は機動性重視でアルケニー監視部隊は馬を使うことにする。


「では、行くぞ」


 エクアドの号令で森に向けて出発。



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