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蜘蛛の意吐 ~あなたの為ならドラゴンも食い殺すの~  作者: NOMAR
~あなたとわたしの未来のために~
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エピローグ 1◇ルブセィラ視点


視点が変わります。

眼鏡の魔獣研究者ルブセィラ女史の主役回です。


「ルブせんせー、これはどうするの?」

「これはですね、」


 カラァ、赤い髪に褐色の肌の女の子が、私が作った問題用紙を前に、ゼラさんに似た声で訊ねて来ます。

 私が問題の解き方の説明を始めると、カラァの隣に座るジプソフィ、金の髪に白い肌の女の子が、カラァに身を寄せるようにして問題用紙を覗きます。

 肩を寄せ合い、私の説明を真剣にふんふんと頷きながら、聞いています。


 私は、今はカダール様とゼラさんの娘、カラァとジプソフィに算数を教えています。ペンを握る二人は顔を上げ、声を揃えて、


「「わかったー」」

「はい、では応用して、次はこの問題をやってみましょう」

「「はーい」」


 いい返事です。カラァとジプソフィはすくすくと成長し、やんちゃなところもありますが、素直で甘えんぼで、私は二人の先生の座は譲りません。

 私は今では王立魔獣研究員を辞め、黒の聖獣警護隊で隊長輔佐となりました。これは私が黒の聖獣警護隊で研究班、医療班、教育班、と口出しするところが多くなったからです。


 ゼラさんとカダール様は、今日は街の聖堂へ。黒の聖獣と呼ばれ慕われるゼラさんを見に来る旅人、巡礼に来る教会の信徒、ゼラさんの治療を受けたいと願う人の相手をしている筈です。

 ゼラさんもカラァとジプソフィからあまり離れたく無いので、ローグシーの街の聖堂で聖獣のお仕事は月に一、二回程度。ですが、このローグシーの街ではなんのかんのと事件が起き、黒の聖獣警護隊を連れてあちこちに行くことになります。


 以前にはこの街に旅芸人の双子の姉妹が訪れ、人間離れした軽業で街で人気となりました。

 人間離れしてて当然ですね、深都の住人ですから。深都から来た大使、アイジストゥラが旅芸人の姉妹を捕まえようとしましたが、素早い双子旅芸人に逃げられました。

 その後もなかなか捕まえることができず、ついに夜のローグシーで、一大捕獲作戦を決行しました。

 黒の聖獣警護隊、ウィラーイン諜報部隊フクロウ、エルアーリュ王子の隠密隊、アプラース王子の魔獣深森調査隊で追い込み、ゼラさんの罠でやっと捕まえました。

 この双子旅芸人はアイジストゥラに怒られてからは、この領主館で大人しくしています。今のところは。


 ついこの前も、このスピルードル王国で赤髭と呼ばれる芸術家の新作、黒の聖獣母子像が盗まれる騒ぎがありました。この事件は無事に解決され、黒の聖獣母子像は取り返されたのですが。

 この事件の中で謎の怪人、怪傑蜘蛛仮面が現れた、とローグシーの街で今は噂になっています。顔を蜘蛛の仮面で隠した男という怪しい人物ですが、蜘蛛の仮面を被るあたり、きっと蜘蛛の姫ゼラさんのファンでしょうね。


 カダール様とゼラさんが留守の間は館の者で、子供の面倒をみます。

 カラァとジプソフィは大きくなったのですが、未だに乳離れできないようです。ゼラさんのおっぱいに触れていないと寝つきが悪く、泣き出したりします。

 これはまぁ、父親のカダール様が、未だにゼラさんのおっぱいから乳離れできて無いので、これも親子の血の繋がりというものでしょうか?


 カラァとジプソフィの教育は、ゼラさんで無ければ、カラァとジプソフィに糸の使い方、魔法の使い方を教えられません。人が教えられないところはゼラさんが。


 カラァとジプソフィの祖母にあたるルミリア様が、三人の孫に礼儀作法を教え、私とルミリア様で学習面を担当。

 ルミリア様の教育方針、甘えたいときは存分に、興味を持てば(おのず)から。

 その愛らしさから、つい甘やかしてしまいがちですが、謎を解くように学問を楽しみ、できなかったことができるようになる喜び、これを伝えることを第一としています。


 ルミリア様の夫、ハラード様はそこが実に上手く、フォーティスに剣術を教えるときなど、


「これは、フォーティスには、まだ(●●)無理かの?」


 と、言うとフォーティスはムッとした顔で、


「練習すればできるもん!」


 と、奮起します。この人をやる気にさせる言動は、息子のカダール様も人を惹き付けてその気にさせるところがあるので、ウィラーイン家の家風なのでしょう。


 エクアド隊長とフェディエア様の息子フォーティスも、カラァとジプソフィと共に学ぶのですが、算数についてはカラァとジプソフィが先に進んだことで別々となりました。歴史に人語などの授業は三人一緒です。

 今頃フォーティスはハラード様から、ウィラーイン剣術を学んでいるでしょう。

 三人の子供に武術を教えるのはハラード様。それにエクアド隊長とカダール様が加わります。フェディエア様も、エクアド隊長から習ったオストール槍術の基礎をフォーティスに教えたりしてます。


 館の執事グラフトに護衛メイドのサレンも、三人の子供に教えたがっていますが、このお二人は上級者向けで小さい子にはまだ早い、と。

 もう少し身体が成長してからで無ければ、無理です。二人ともこれには不満そうですが、いずれその日が来ると待っています。

 というか、いきなりあのシゴキ方は子供にしてはダメです。私もサレンから護身術を教わったのですが、死ぬかと思いました。


 ゼラさんが黒の聖獣と教会に認定されたことで、黒の聖獣の住む街ローグシーは更に注目されることに。

 ゼラさんを一目見ようという、巡礼者、旅人が増え、中央からはハンターになろうという者がローグシーの街の訓練場にと。

 シウタグラ商会、青髪の商会長パリアクスは、ローグシーの街に拠点を移して大成功と喜んでいます。訪れる人が増えて、蜘蛛の姫グッズに絵本と売り上げ好調。


 商会長パリアクスが密輸したお茶の木は、ルミリア様が筆頭を務める『裏の守護婦人(ファイブガーディアン)』の一人、植物学者にして領主婦人の居る隣の領地で栽培に成功。

 中央からの輸入でしか手に入らなかった高級品のお茶が、スピルードル王国でも作れるようになりました。いずれは庶民にも買えるようになり、広まっていくことでしょう。

 

 中央では魔蟲新森は健在。森は拡大してはいないものの、虫型の魔獣が多く、最近では虫型以外の魔獣も現れたそうです。

 突然の地下からの侵攻から、生態系として安定し始めた、というところでしょう。


 アシェンドネイルが言っていた、深都の住人パラポワネット。アシェンドネイルに尋ねると、パラポワネットは下半身が大きなアリの深都の住人だそうです。


「禁則に触れる物を消して、人の数を減らす。パラポの発案でお姉様達が実行したのよ。我らが母を暴走させないようにするために」

「闇の母神の暴走ですか。この世全ての魔獣の母が暴走などしたら、どのようなことになるか」

「人を滅日から守る。それが、我らが母と深都に住まう者の使命。別に恨んでくれていいわよ」

「私達が滅ばぬようにと守ってくれるのに、恨むのは筋が違いますね」


 人は欲で動き、欲に流される生き物。魔獣という天敵がいなければ、古代魔術文明と同じように滅ぶ。

 今のこの地で、人は魔獣と戦いながら生きている。

 それでは、未来では?

 もしも闇の母神が、機能の異常などから活動を止め、魔獣がいなくなったりしたならば、人はあっさりと滅ぶかもしれない。

 

 カラァとジプソフィはペンを片手に、私の出した問題を解こうとカリカリと計算をしています。

 カダール様の因子を取り込んだという、この二人。身体の上半身の成長の仕方は人と同様に。

 人のように学び、人のように遊び。

 笑い、泣き、怒り、歌って踊る。

 もしかすると、この子達は希望かもしれない。この先、人が滅ぶことがあったとしても、カラァとジプソフィの中に人の因子が残る。

 カラァとジプソフィが、ゼラさんのように子を産み育てることができれば、または深都の住人のように、寿命で死ぬことが無いのであれば。


 人の因子が、カラァとジプソフィと共に未来へ続いていく。その姿を失っても、人が完全に滅ぶことは無い。

 未来のことは解りませんが、カラァとジプソフィを見ていると、こんな風に考えてしまいます。

 私はカダール様のように、ゼラさんのように、人を信じることができないからでしょうか。

 それでも、人を、未来を信じたいと思う気持ちが、想う心が、私の中にあります。


「ルブせんせー、できたー!」

「カラァもできたー!」


 問題用紙を手に自信のある顔で、むふん、と鼻息するカラァとジプソフィ。問題の式と答を確認します。


「はい、二人とも満点です。よくできました」

「「わぁい♪」」

「二人とも因数分解は理解できましたね」


 私は子供に授業をしたことは無いのでよく解りませんが、因数分解を人がおぼえるのは何歳ぐらいからでしょうか? 

 カラァとジプソフィは算数が得意です。歴史にはあまり興味が無く、人語は苦手です。難しい字を憶えて書くのがイマイチです。この辺り、どう教えていきましょうか。


「ルブせんせー、パパとママはいつ帰るの?」

「今日は聖堂の方で晩餐があるので、ちょっと遅くなるでしょうね」

「えー? やだー」

「それでも今日のうちに帰ってきますよ」

「じゃー、起きて待ってる」


 カラァとジプソフィに、ルブせんせー、と呼ばれる度に、言い様の無いものが胸に溢れます。胸が震え、心が騒ぎます。

 私が想う、人の良きところ。私がこの子達に教えて伝えたいこと。

 この子達に人の因子が残るならば、私はこの子達にこの胸の震えを伝えたい。人の心を伝え残したい。

 私の知る、人の素敵なところを、人の素晴らしいところを。この子達に憶えていてもらいたい。

 悲しいことも、苦しいこともある世界。だけどそこで逞しく生きる、人の心の明るさと強さを。

 信じること、優しいことを、心震わす美しいものと感じる、人の心を。


「では、算数の授業は終わります。次は文字ですね、今日はこの絵本を読みましょう」

「「絵本!」」


 カラァもジプソフィも絵本が好きです。私が一冊の絵本を出すと、笑顔でテーブルの向こうからこちらへと。

 カラァが私の右肩に掴まるように、ジプソフィが私の左肩に掴まるようにくっつきます。二人に挟まれて私は膝の上の絵本を手にします。


「ルブせんせー、新しい絵本?」

「ルブせんせー、どんなお話?」


 急かす二人がぺったりとくっついて、柔らかな体温が伝わって来ます。


「この絵本は私が書いてみました」

「「ルブせんせーが?」」


 論文以外に文章を書いたことはあまり無く、それでもカラァとジプソフィに伝えたい事があり、書いてみました。

 絵はルミリア様とゼラさんに描いていただいた、この世でただ一冊だけの、私の作った絵本。

 私に想像した物語を書くという文才はありませんが、実際にあったことを書くことは、なんとかできました。それなりの出来ではないかと、自賛しています。


「ルブせんせー、絵本ー」

「ルブせんせー、早く読んでー」

「はい、では、コホン」


 膝の上の絵本を開きます。私が伝えたい物語。カラァとジプソフィに伝えたい、お伽噺。


「昔々、あるところにとってもやんちゃで、だけど優しい男の子がいました。真っ赤な髪の男の子は、」


「あ、カラァと同じ髪の色ー」

「パパみたいー」


「そうですね、同じ色ですね。真っ赤な髪の男の子は、かっこいい騎士になるぞ、と今日も練習用の木の剣を持って、振り回して外に遊びに行きます。青い空、白い雲、綺麗な空と見上げる赤い髪の男の子の前に、空から、ひゅるるるるー、と、一匹の蜘蛛が落ちて来ました」


「「くもー!?」」


 楽しげに驚く声を上げて、カラァとジプソフィが、きゅっと身を寄せて来ます。

 これは昔の物語、お伽噺みたいな本当の話。

 カラァとジプソフィが大好きな人の――



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