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蜘蛛の意吐 ~あなたの為ならドラゴンも食い殺すの~  作者: NOMAR
~あなたとわたしの未来のために~
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六の四十一


「我々は総聖堂聖剣士団」


 そう言って兜の面防を上げて顔を見せる聖剣士。その顔を見て驚いてしまうが、驚きを顔に出さないように気をつける。


「スピルードル王国ウィラーイン伯爵に話がある」

「話をしに来るには、随分とものものしいことではないか?」


 落ち着いて言葉を返す。兜の面防を上げて顔を出した聖剣士は、厳めしい壮年の男。俺が誘拐されたときにロジマス男爵の別荘で見た、聖剣士団団長クシュトフ。

 使者を出さずに総大将自ら来るとは、豪胆なのか、常に先頭に立つ俺の父上のような種類の武人なのか。思い返せばロジマス男爵の別荘でも突入して来ていたか。どう見ても怪しい怪傑蜘蛛仮面の前で、凛と名乗る姿と気迫から、なかなかの人物だと覚えている。


「光の神教会、それも中央の総聖堂聖剣士の一団が、この辺境の地に何の用が?」

「それはウィラーイン伯爵に直接話したい。ウィラーイン伯爵に取り次いで頂きたい」

「それは用件次第だ。蜘蛛の姫、アルケニーのゼラに関わる事であれば、ウィラーイン伯爵と話しても無駄だ」

「それはどういうことか?」

「スピルードル王国国王が、蜘蛛の姫の事はこの黒蜘蛛の騎士に一任する、と仰せになった」

「それは、真か?」

「疑うならば王都に行き、国王に尋ねられてはどうか?」


 聖剣士団団長クシュトフは、むう、と唸る。これで王都に行ってくれると有り難いが、ここまで来て手ぶらで戻るとは思えない。

 白づくめの聖剣士達の列の前、俺と聖剣士クシュトフが話をしている間に、向こうの陣から騎馬が一騎駆けて来た。二人乗りで後ろに乗る男が慌てて馬から下りようとして落ちる。腰を押さえながら立ち上がるのは神官服の男。こちらに小走りで来て、並ぶ聖剣士を押し退けるようにして前に出る。


「クシュトフ様、私を置いていかないでくださいと何度言えば」


 この神官にも見覚えがある。俺が誘拐されたときにロジマス男爵の別荘で、聖剣士クシュトフの隣にいた、狐のような顔をした神官。俺へと向き直り、笑みのまま固まったような顔を見せる。


「確か、ウィラーイン伯爵家のご子息、カダール=ウィラーイン様ですね。ここで何をしておられますか?」

「聖剣士団の来訪の目的を訊ねていたところだ」

「私達は総聖堂より使命を帯びて参りました。アルケニーをスピルードル国王から任されているという、ウィラーイン伯爵ハラード様に取り次いでいただきたいのですが」

「今、その話をしていたところだが」


 この部隊は聖剣士団団長クシュトフのもとに統一されて無いのか? もう一度神官にも同じことを言っておく。


「スピルードル国王から蜘蛛の姫を任されているのは俺だ。蜘蛛の姫に関わることなら俺が聞こう」

「本当ですか? いつの間にか事情が変わりましたか?」

「俺が教会を謀っているとでも?」

「それでは、改めて。私達は総聖堂より命を受けてこの地へと参りました。スピルードル王国の教会より、アルケニーのゼラは人語を解し人を癒す聖獣である、と申請がありまして。総聖堂はアルケニーの聖邪を見極める為に、総聖堂へとアルケニーのゼラをお招きせよ、と。私達はアルケニーのゼラをお迎えに来たのです」

「ほう」


 お迎えに来て、総聖堂にお招きと、平穏に事を進めるには良い言い方だ。


「蜘蛛の姫を中央の総聖堂へと」

「はい、アルケニーのゼラの噂は中央にも届いています。中には慈悲深き黒の聖女、癒しをもたらす魔獣の姫と讃える声もあります。アルケニーのゼラはただの魔獣とは思えず、しかしこの噂だけで聖獣と認めるのも早計。総聖堂はアルケニーのゼラを招き、直接会い直に話し、慎重に見極めることになりました」

「蜘蛛の姫ひとりを迎える旅のお供にしては、人数が多すぎるのではないか?」

「魔獣多き盾の国を移動するのに、中央の者は慎重になってしまうものです。さて、教会の用件はお伝えしましたので、アルケニーのゼラをここに連れて来て下さい」

「総聖堂の要請は理解した」


 俺が頷くと聖剣士団が並ぶ列から、ホッとしたような気配がある。彼らにしてみれば、魔獣深森に近いウィラーイン領からさっさと帰りたいのだろう。


「だが、断る」


 俺の言葉に狐のような顔の神官が目を見開く。


「今、何と言われました?」

「総聖堂の要請はお聞きした、だが、蜘蛛の姫は総聖堂には行かぬ」

「総聖堂に、光の神教会に逆らうおつもりか?」

「蜘蛛の姫が総聖堂に行かぬ、というのが何故、光の神々に抗うことになる? 蜘蛛の姫はこの地で穏やかに暮らすことを望んでいる。中央が落ち着いたなら聖都巡礼に観光旅行も悪くは無いが、今はその時でも無い」

「それではウィラーイン伯爵家は、教会に逆らう背教の徒になりますか。そのような者に、聖獣かもしれないアルケニーのゼラは任せられませんね」


 そう返してくるのか。どうしてもゼラが欲しいのか。うむ、ゼラは何処でも人気者だから。


「カダール様、光の神々の敵はこの地に生きる人の敵、違うと言うのであれば、アルケニーのゼラをここへお連れして下さい」

「教会の要請に逆らうことは、光の神々に逆らうことか?」

「当然でしょう? 何を言ってるんですか?」

「光の神教会では、どちらが神々の意に沿う者か、それを量ることを昔からしているだろう。名乗りが遅れたが、」


 俺は右手で腰の長剣を抜き、狐のような顔の神官に突きつける。神官は、ひっ、と息を飲み、周囲の聖剣士達が武器を構える。俺の意図が読めたのか、団長クシュトフだけが厳しい顔を一際険しくして、静かに俺を見る。

 俺は声を張り、奥に見える陣まで届けと声を上げる。ここが決めどころだ。


「俺は黒蜘蛛の騎士カダール! 蜘蛛の姫の主! 蜘蛛の姫を守るが使命!」


 右手の長剣で天を突く。神官が尻餅をつき、聖剣士達が武器を構えたまま、緊迫する中で告げる。


「この黒蜘蛛の騎士と聖剣士団、どちらが光の神々の意に沿うか! 光の神々に伺う!」


 そのまま聖剣士団団長クシュトフを睨む。


「この場にて総聖堂聖剣士団に神前決闘を挑む!」


 高らかに声を張れば、背後のローグシーの街壁の上から、わぁ、と歓声が聞こえる。いいぞ屋根の上の拐われ婿、とか、頑張れぼっちゃん、とか。見世物は覚悟していたが、街壁に今どれだけ人が昇っているのか。

 聖剣士達が固まる中で、団長クシュトフが前に出る。


「黒蜘蛛の騎士カダールよ、神前決闘にて光の神々の意を問う為に、命を落とす覚悟はあるか?」

「当然。俺は蜘蛛の姫の意図が光の神々に逆らうものとは思わん。この黒蜘蛛の騎士、ゼラに身命を賭けることも厭わぬ」

「ならば受けよう。私は総聖堂聖剣士団、団長クシュトフ=エニテンティバ。神前決闘の相手をする」


『神前決闘、どちらが正しいか、どちらが光の神々の意に沿うか、それを神々の前で斬り会いで決めるという、結局は暴力で殴り会いで決めるという教会の野蛮な物ですね。交渉することを諦めたとか、縺れ過ぎて判断が難しいものを強引に決着させるとか。ですが、負けた方が納得すれば被害者は代表一名で済むところだけは、平和的解決法ですか。抗争になるよりはマシになるという。これに頼らねば問題が解決しないというのは、人の英知を諦めてるようにも感じますが』


 以上、ルブセィラ女史の神前決闘への意見。

 光の神の意に沿い、神々の加護のある者が勝つ、という分かりやすく単純なものだ。もちろんルブセィラ女史の言うように、神前決闘にならぬように人が裁くのだが、ときにこれに頼らねばならないこともある。

 そしてアプラース王子が言ったこと。


『聖剣士団団長クシュトフは信仰篤く、神前決闘では無敗の聖剣士。人望も厚く、故に煙たがられる。どうやら遷都反対派の策謀で聖剣士団はスピルードル王国に来たらしい』


 団長クシュトフは遷都反対派に使われているようだが、信仰に篤いとなれば一角獣の御言葉に従う信徒、ではないのか?

 神前決闘で無敗という実力でもって聖剣士団団長という武人。神前決闘に引き摺り出す為の交渉で苦労するかと思ったが、向こうも早くゼラを引っ張り出したいところだろう。スピルードル王国の横槍が入る前に、ゼラに自ら総聖堂に行くと言質を取っておきたい筈だ。


 聖剣士団とローグシーの街の者が見守る中で、俺と聖剣士が神前決闘で決着をつける。

 聖剣士団は撤退する理由ができ、勝者が光の神々の意に沿うとなれば、誰も教会と敵対はしない。聖剣士クシュトフが神前決闘を受けたことで舞台は整った。

 あとは俺が勝つだけだ。


 聖剣士クシュトフが左手にカイトシールドを握り、右手で面防を下ろし顔が白い兜に隠される。右手で腰の長剣を抜く。

 気を取り直した狐のような顔の神官が咳払いして言う。


「神前決闘は敗北を宣言するか、どちらかが戦闘不能、又は両者、戦闘不能で決着となります。ご存知ですよね?」

「知っているとも」


 俺が言うと並ぶ聖剣士達は哀れむような雰囲気に。団長の勝利を信じ、負けることを疑ってもいない様子。白い兜で顔を隠しているので解りにくいが。神官は笑みのまま固まったような顔を崩さない。


「クシュトフ様は神前決闘において未だ無敗の聖剣士。勝てるとでも?」

「神前決闘は正しき者が勝つのだろう?」

「では、クシュトフ様が勝てばアルケニーのゼラを引き渡すということですね」

「俺が勝てば聖剣士団は蜘蛛の姫を諦めて、中央に帰ってもらおう」

「そちらは、立ち会い人は?」


 俺は親指で背後のローグシーの街壁を指す。


「あの街壁の上にローグシーの街の神官が来ている。加えて彼ら全員が立ち会い人だ」


 領兵団以外にも物見高い住人が集まり、俺を応援してくれるのはいいが、騒がしい。旗を振り回しているのもいれば、笛やラッパを吹くのもいる。ローグシーらしいとも言えるが、屋根の上の拐われ婿とか、蜘蛛の姫の旦那とか、リアル剣雷様とか言うのはやめろ。せめて黒騎士か黒蜘蛛の騎士に統一してくれ。

 反対側の聖剣士達は規律が厳しいのか、静かに整列している。


 俺は肩の留め金を外して黒のマントを捨てる。腰の剣を抜き、鞘も地面に落とす。目前に立つは聖剣士クシュトフ。かなりの剣士と見れば解る。鞘もマントも外して軽くしておく。


「双方名乗りを」


 神官の声に聖剣士クシュトフが改めて名乗る。


「我は聖剣士クシュトフ=エニテンティバ。我が信仰に神の加護を」

「俺は黒蜘蛛の騎士カダール。蜘蛛の姫に誉れあれ」


 俺は家名を名乗らない。あくまで黒蜘蛛の騎士個人として。これでウィラーイン家が教会に抗ったことにはならない、というのは強引だが。これで俺が負けてもウィラーイン家は負けてない。そして神前決闘で約束したのは俺でウィラーイン家じゃない。

 俺が敗北したとしても、父上とエクアドにあとは任せられる、というのは気楽に挑める。

 もっとも欠片も負ける気は無いが。


 聖剣士クシュトフが前に長剣を伸ばす。その切っ先に俺の右手の長剣を合わせる。


「神の意に沿わぬ者が地に伏し、神の加護あるものが地に立つだろう」


 神官の文言を聞きながら剣先を合わせたまま、ゆっくりと下ろす。


「己が信念こそ真と信ずるならば、神の前にて己を見せよ」


 剣先が離れたところで聖剣士クシュトフと俺は小さく三歩下がる。聖剣士クシュトフからは静かな気迫、激しくは無いがこちらを押さえつけるような、落ち着いた戦意。

 神官が神前決闘の開始を告げる。


「か、神々よ照覧あれ!」


 俺と聖剣士クシュトフに気圧されたのか、神官が開始の宣言を噛む。ローグシーの街壁から吠えるような声が響く。

 さぁ、決闘を始めよう。



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