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蜘蛛の意吐 ~あなたの為ならドラゴンも食い殺すの~  作者: NOMAR
~あなたとわたしの未来のために~
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六の八


「ハハウエ! できた!」

「ゼラは糸を扱わせると天才ね、可愛いわ」

「むふん」


 ハンカチには絵本の蜘蛛の姫と赤毛の王子が花に囲まれて手を繋いでいる。母上がゼラに刺繍を教え、ゼラがハンカチに刺繍の練習。

 ゼラの作る布、プリンセスオゥガンジーが裁断できるようになった。それで母上と医療メイドのアステがゼラに裁縫を教えて、一緒に結婚衣装を作りましょう、という話に。


「ちょっと教えるだけで、ゼラは簡単にできてしまうわね」

「ンー、でも針を使うのはまだ難しい」

「ゼラの場合、直接糸を操作した方が良さそうね」


 庭で盛り上がるゼラと母上とアステ。護衛メイドのサレンが側で果実水を用意する。

 ハウルルの件で落ち込み、熱を出して寝込んでいたサレンも、少しずつもとの調子に戻ってきた。

 暖かな日差しの庭で、日除けの布のあずまやの中、楽しそうに笑うゼラ。それを見ながらエルアーリュ王子の隠密、ハガクが口を開く。


「古代妄想狂の一件では、間に合わなくてすまなかった」

「いや、王都から駆けつけてくれたのは有り難い。ウィラーイン領が王都から遠いのだから、仕方無い。その後の調査は?」

「レグジートという古代文明研究家、その一味の四人。いずれも中央出身だ。魔獣深森の焼失した遺跡を調べてみたが、灰と瓦礫しか無い。あれでは死体も見つからん。そこで焼け死んだか、それとも逃げて何処かに潜伏しているか、不明だ」

「その後の足取りが解らんというのは厄介だ」

「アシェンドネイルというラミアが始末してくれていたなら、それまでだが。それも解らん」


 隠密ハガクがゼラを見て、ふう、と息を吐く。


「アルケニーのゼラの魔法が金龍のブレスの如く。そして、ラミアのアシェンドネイルがあの遺跡を焼いたというなら、クチバの見た天を衝くような炎の竜巻は黒龍のブレスの如く、だ。金属が溶けて歪んでいた。あれはその気になれば国ひとつ滅ぼせる力だ」

「アシェンドネイルは人の敵とはならないだろう。目的は人を滅ぼすことでは無いのだから」


 だが、人を滅ぼさぬように数を減らそうとはするか。ウィラーイン領に手は出さない、となったようだが、変わりに別の土地で何かするのかもしれん。ハガクに言っておく。


「深都の思惑は解らない。人という種を守る為に、ときに人の間引きを企む、ということらしい」

「良からぬことはしでかすが、敵に回すことだけは避けなくては。深都、か……」

「何処にあるかも判らぬ都で、調査するのも止めた方がいい」

「迂闊に踏み込めば、踏むのは虎の尾では無く祖龍の尾となれば、王国が滅ぶ」

「アシェンドネイルがお姉様と呼ぶような、オーバードドラゴンがぞろぞろと住むところだと」

「人が相対する域を越える。寒気しか感じない」


 ゼラの持つ真っ白なプリンセスオゥガンジーに日が当たると、七色の陽炎が浮かぶ。母上がゼラと頬をくっつけるようにして、ゼラに刺繍を教えている。プリンセスオゥガンジーに糸を通す二人は親子のようにも、姉妹のようにも見える。


「ゼラ姫が刺繍の練習か」

「プリンセスオゥガンジーはどんな塗料にも染まらず、白しか無いから刺繍で色味を出そうかと」

「見てるのは布じゃ無い」


 目を細めて隠密ハガクはゼラを見る。母上とアステがゼラに教えると、ゼラはコクコクと頷いている。


「ゼラ姫に慣れたウィラーイン家だからこそ、恐るべきラミアに未知の半人半獣、カーラヴィンカとも上手くやれたか。(いたずら)に怖がるだけの者であれば対応することもできなかっただろう。ひとつ間違えればどんな事態となっていたか」

「アルケニー監視部隊には肝の太い者が揃っている」

「あの部隊を蜘蛛の姫を見守り隊にしたのは、カダールとエクアド隊長だろうに」

「そんなつもりは無かったのだが」

「組織の長の見せる姿勢が組織の色になる。ウィラーイン出身が多いというのもあるが、それも無双伯爵の民だから、だろう」


 隠密ハガクが顔を寄せて声を潜める。東方人らしい灰色の髪で目付きの鋭いハガク。男前な話し方をするが、近づくと女らしさにドキッとしてしまう。


「間に合わなかった言い訳ついでだが、中央がおかしな動きを見せている」

「中央が? 何かあったのか?」

「至蒼聖王国が南西の街に物資を送っている。そちらを調べていたために、ローグシーに来るのが遅れた」

「む? 何の為に?」

「物資の種類から見て、門街キルロンに砦か城でも作る様子」

「位置的には、スピルードル王国かジャスパル王国への警戒を強めると?」

「エルアーリュ王子とパリアクス商会長が言うには、門街キルロンの拡大。スピルードル王家には至蒼聖王国より使者が来ている。スピルードル王国との関係を密にし、貿易含め、通りをよくするために道の建設をしたいと」


 中央から見て南西。スピルードル王国とも南のジャスパル王国とも近い。至蒼聖王国に入る為の門の街、門街キルロン。他にも至蒼聖王国に行く方法はあるが、光の神教会総聖堂への巡礼者の為に、門街キルロンからは道が整備されている。

 中央では魔の森、魔の海から遠いところほど神の恵みがあるとされている。至蒼聖王国から遠く離れるほどに野蛮な地と言われる。


 かつて光の神々が一角獣を聖王に遣わした。一角獣の言葉を聞きこの地を治めよ、と。以来、蒼い髪を持つ聖王家が一角獣を守り、大陸を治めている。

 昔から中央で伝わる昔話だ。

 至蒼聖王国が大陸全てを支配している訳では無い。様々な国があり王がいる。王がいない国もある。だが、いずれの国も至蒼聖王国よりその地を治めることを任された、ということになっている。なので支配というよりは宗教的、精神的な支柱というのが至蒼聖王国となる。

 大陸の国々はもとは聖王家に仕える家臣の国。中央の国々では聖王家の者を嫁に迎えたりなど、その血筋に聖王の血が入る程に高貴となる。

 スピルードル王国はもとは蛮人の地と呼ばれ、中央の罪人が追放される地、という歴史がある。今ではスピルードル王家は聖王家よりこの地を任された王国となっている。


 中央では光の神信仰と至蒼聖王国が重要なもの。しかし、辺境ともなれば話は違う。盾の三国、北のメイモント王国は死霊術師を抱え、祖霊信仰が根強い。今では中央とは仲が悪い。光の神信仰では死霊術師は人の霊を弄ぶものとしているから、対立が起こる。

 南のジャスパル王国では精霊信仰が根強いが、教会は精霊も光の神の祝福を受けたものとしている。ジャスパルでも光の神々は数多ある精霊の中のひとつで、人が都合で呼び名を変えているだけ、と受け入れている。

 スピルードル王国では光の神信仰が一般的だが、北ではメイモントの祖霊信仰があり、南ではジャスパルの精霊信仰があり、いろいろとある。スピルードル王国はその辺り寛容だ。


「もともと蛮人の国スピルードルでは、力信仰以外はいろいろとある」

「ハガク、力信仰とはなんだ?」

「戦って生き残る力こそ讃えるもの、というのが東方から来た俺から見る、スピルードル王国だ。それ以外は大雑把で、魔獣という敵相手に団結して戦えれば、主義主張なぞ後回し。これが何でも来いと受け入れるお人好しに見えるのだろう」

「教義の違いなどと小さなことでケンカして、それで魔獣に殺されたくは無いだろう?」

「魔獣深森に近いウィラーイン領はそれが強い。味方になるなら魔獣でも歓迎、というのは、中央では考えられんのだろう」

「それはうちだけじゃ無いぞ。隣のハイラスマート領では、守護獣緑羽を讃えて木彫りのグリフォンとか売ってるし。最近じゃグリフォンの卵というお菓子も人気だと」

「堅苦しい中央からこの地に来る者がいるのも解る。俺もそのクチだし。話が逸れたが、至蒼聖王国から使者がスピルードル王国とジャスパル王国に行くなど、これは滅多に無いことだ」

「中央で何が起きている?」

「それを調査中だ」

「もうひとつ、スピルードル王国の人口だが」

「ウィラーイン領兵団が魔獣深森を抑えてくれるから、少しずつ増えている」


 人が増えれば魔獣も増え、強い変異種の誕生も増えるという。ウィラーイン領では魔獣に対抗できるようになり、昔よりは安全となってきた。

 だが、この先はどうなるのか? アシェンドネイルは魔獣の増加を防ぐ為に、人の数を人同士で争わせて減らそうとしていた。もし、俺達で手に負えない魔獣が現れたときはどうする? それこそ灰龍クラスが来たときには、避難するしかできることが無い。もしくはゼラに頼むしか、情けないことだが。

 隠密ハガクが俺の肩をポンと叩く。


「黒蜘蛛の騎士一人を悩ませはせん。ウィラーイン領の真似をして訓練場は各地に増えている。これからますます領主はその力を試されるだろう。民に武器と力を与え、その上で反乱を起こされぬように信を得なければならない。それができれば、魔獣被害を減らして栄えると、ウィラーイン領が手本を見せてくれたおかげだ」

「代々のウィラーイン家とそれを支えてくれた領民のおかげだ」

「それを誇りと共に口にできる者こそ、俺達の主に相応しい」


 隠密ハガク、東方の特殊部隊シノービの出身と聞いている。ろくでもない主に仕えるのは誇りが許さないと、この西の辺境まで流れて来たという。

 俺の肩を掴むハガクの手に力が入る。


「クチバを頼む」

「同じ東方出身だからか?」

「クチバは同じ里の同胞だ。だから親戚のようなものだ」


 あまり感情を顔に出さない隠密ハガクが、真摯に口にする。


「俺達の力は、おもしろい主のもとでこそ発揮できる」

「クチバにはいつも助けられている。見限られぬように努める」

「ムー、カダール何を話してるの?」


 ゼラがこっちに来た。少しむくれている。唇を突き出すように、ムー、とするゼラも可愛い。


「なんでハガクとくっついてるの? 浮気?」

「違う違う。ちょっと内緒の話をしてたんだ」

「ナイショ? 難しい話?」

「そんなところ。ゼラ、刺繍はどうだ?」

「できたの。これ、カダールに」


 ゼラがハンカチを広げる。プリンセスオゥガンジーのハンカチにはデフォルメされた蜘蛛の姫と赤毛の王子。二人は頬と頬をくっつけて仲良くにっこりと微笑んでいる。


「カダール、どう?」

「可愛らしい。丁寧にできてて、これは見てるだけで優しい気分になれる。これを俺に?」

「ウン、使って」

「これで汚れを拭いたりとか、勿体なくてできない……」


 隠密ハガクが横から覗き込む。


「これはエルアーリュ王子が手にしたら、国宝扱いしそうだ」

「ンー、ハガク、さっきからカダールに近いけど、カダールのこと好きなの?」

「安心しろゼラ姫、俺は男より女が好きだ」

「ン? ハガクって女じゃないの?」

「そういう女もいる」

「ウン、ハガクも女の人が好きな女、わかった」


 ゼラの視線が近くにいるアルケニー監視部隊の隊員の女騎士をチラッと見る。女騎士はゼラの視線を受けて、ついっと顔を逸らす。おい、お前ゼラに何を教えた?

 隠密ハガクが、ククッと笑う。


「スピルードル王国では同性愛にも寛容なところがいい」


 中央では煩く言うらしい。しかし、魔獣相手に戦うのに異性愛者も同性愛者も関係無いだろうに。

 だが、


「それで俺とエクアドの仲を捏造されるのは、どうかと思うのだが」

「それも有名税か?『剣雷と槍風と』の最新巻では、剣雷に横恋慕し槍風に嫉妬する邪王子が、ついに剣雷を誘拐して、監禁して、緊縛して、自分の言いなりにしようと薄暗い地下室でいやらしい責めを、」

「やめてくれ、詳しく説明するな。なんだ邪王子って? モデルは誰だ?」


 ゼラが拳を握って隠密ハガクに顔を近づける。


「いやらしい責め? どんなの?」

「ゼラが興味を持つのは、まだ早いんじゃないか?」

「これは人の学習にならないの?」

「人には、その、いろいろな性格とか、様々な面がある、というか」

「ウン、だから、ゼラ、いろいろ覚えるの。いろいろ識ってカダールが満足できる妻になるの」


 ゼラ、俺の為に、なんて愛しい。


「それでハガク、いやらしい責めって? 邪王子って?」

「邪王子とは、『剣雷と槍風と』に登場した人物で、独占欲が強い上に加虐趣味のある同性愛者だ。拐った剣雷を椅子に縛り上げてから、エッチな気分が昂る薬を無理矢理飲ませて、」

「やめろハガク、説明するな! ゼラに妙なことを教えるな!」



 

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