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蜘蛛の意吐 ~あなたの為ならドラゴンも食い殺すの~  作者: NOMAR
~あなたの為に何ができるの?~
123/200

五の二十


 アルケニー監視部隊の中でもラミアのアシェンドネイルは警戒されている。それは当然か。

 フェディエアのこともあるし、部隊の中には知り合いや親戚に灰龍被害にあった者もいる。

 それでももとから動じない者が多いアルケニー監視部隊。屋敷から持ってきた女物の服を、母上と女性隊員がアシェンドネイルに、どれが似合うかと着せ替えている。

 アシェンドネイルの方が押され気味で、戸惑っているのがおもしろい。

 エクアドも倉庫の中に入り、アシェンドネイルの監視を誰に頼むか話をする。


「服を着るのが嫌なら、はじめはこれから、かしら?」


 母上の声で見てみればアシェンドネイルが着ているのは、白いエプロンだった。またか。隣を見るとついでに着替えたゼラがいる。こっちも裸にエプロンだ。


「ウン、アシェ、お揃い」

「これなら我慢してもいいわ。こういうのが赤毛の英雄の好みなのね」


 だから裸エプロンは俺の趣味では無いと、何度も重ねて。ゼラの方は褐色の双丘がエプロンから溢れそうになっている。

 アシェンドネイルはその心配の無いささやかさなのだが、その代わりというか、黒革の目隠しに黒革の首輪と、呪布が拘束具のようになっている。

 エクアドがアシェンドネイルのその姿を見て、


「……マニアック過ぎて何処を攻めているのか、解らんな」

「また、これが俺の趣味とか言われるのか? 俺が着せた訳じゃないのに」

「あら? 服を着ろって言ったのは赤毛の英雄でしょ? 私は脱いでもいいのよ?」

「脱ぐな、頼むから着てくれ。丸見えよりはマシだ」


 明日、ハウルルの治療をして、そのあとアシェンドネイルがハウルルを調べることにする。

 ハウルルの身体はサソリの尾を再生すれば完治する。

 アシェンドネイルとの話し合いから、身体検査にサンプル採取、そこから着せ替えと、既に日は暮れている。

 とりあえず夕食だ。


「アシェンドネイルは食事はどうする? ゼラと同じものでいいのか?」

「ゼラはいつも何を食べてるのかしら?」

「ンー? 生のお肉」


 ゼラの返事にアシェンドネイルが一瞬固まる。む? どうした?


「私もゼラと同じでいいけれど……」

「そうか、では一緒に食事にしようか」

「一緒に、なの?」

「ゼラとはいつも一緒に食べているが?」


 倉庫の中に夕飯を運んでもらう。ゼラには猪の生肉、昼に絞めたもののようで新鮮だ。ゼラは内臓も好みのようで心臓が好き。

 俺達の方には猪肉のステーキだが、こっちは三日ほど熟成させてから焼いたものだ。

 今日さばいて血抜きした肉は、明日のゼラの朝ごはんになる。人が食べない腐りやすい部位でもゼラは食べられる。ゼラとしては新鮮なものが好きなのだが、保存の為に血抜きしたものでもゼラは美味しそうに食べる。朝市で生きた鳥を買ってきて、庭で絞めることもある。


 いつものようにゼラの首にナプキンをかけて、護衛メイドのサレンがグラスにワインを注ぐ。

 母上は屋敷の中でハウルルと。入れ代わりにサレンがアシェンドネイルを見るついでに、食事の用意をする。


「ゼラちゃんはリンゴのジュースでいいですか?」

「ウン、サレンも一緒に食べる?」

「はい、そのつもりです」


 テキパキと皿を並べて、俺とエクアド、護衛メイドのサレンが椅子に座る。同じテーブルの上に猪の生肉を乗せた皿が二つ。ゼラとアシェンドネイルの分も並べて、ゼラがテーブルの前にペタンと座る。

 焼いた猪のステーキ、温かなカボチャのシチューといい匂いがする。


「アシェンドネイルはジュースとワイン、どっちがいい?」

「……え? あ、ワインで」


 倉庫の中でいつものように食事をする。ゼラは両手で猪の生肉を取り、かぶりつく。笑顔で美味しそうにもぎゅもぎゅと。サレンも湯気の立つ猪肉のステーキをナイフで切り、一口食べる。


玉ねぎの(シャンピニオン)ソースがちょっと甘過ぎますか?」

「そうだな、塩を取ってくれ」

「む? アシェンドネイル、食べないのか?」


 呆然としているアシェンドネイルに声をかける。アシェンドネイルはゼラを見て、テーブルを囲む俺達を順に見る。テーブルの上、皿に乗る猪の生肉を見下ろす。目隠しで分かりにくいが驚いているのか? 何故か声を絞り出すようにして、


「あなたたち、頭おかしいんじゃないの?」

「いきなり失礼なことを。何かおかしいところがあるのか?」

「おかしいでしょ? 何故、貴族が屋敷の中じゃなくて、倉庫の中でディナーなの? しかも血の匂いがするところで、同じテーブルには生肉を食べる魔獣がいるのよ? なに、平気な顔をしてるのよ?」

「今さらそんなことを言われても、ここではこれが当たり前なんだが」


 俺が応えるのにエクアドがワインを飲んで頷く。


「戦場であれば場合によっては煮炊きもできないし、血錆びの匂いの中で食事をすることもある。カビ臭い遺跡迷宮の中でも、食えるときに食わねば身体が持たない」


 護衛メイドのサレンもパンを指で千切りながら、


「慣れるのに少し時間がかかりましたが、ゼラちゃんが食べるのも私が食べるのも、同じお肉じゃないですか。ただ、火を通してあるか、通してないかの違いだけ」


 俺も血の匂いのする食卓にはとっくに慣れている。最初は怖かったが、ゼラが美味しそうに生肉を食べてるところは魅力的だ。見てると野性味というか、生きる者とは生命を食べて生きるのだと、それが自然なのだと、そういうことを改めて感じられる。ちゃんと食べて生命を力とする、生命力とはこのことか、と。


 ゼラは口の中の肉をもぐもぐごくんとして、


「人はゼラが生肉食べるとこ見ると、怖いっていうのは知ってるよ。だから、倉庫の中とか、テントの中で、なるべく見せないようにしてるよ」

「今、人に見せながら食べてるじゃない」

「えっとね。カダールと、部隊の人と、お屋敷の人は特別なの」

「……なんなのよ、ここは」


 呆れたように呟くアシェンドネイルに言っておく。


「食べるなら皆でこうして一緒に食事を取る方が、美味しく食べられるだろう」

「そんなことを本気で言うなんて、信じられないわね」

「何を疑っているのか解らんが、食べ物の好みが違うくらい、たいしたことでは無い。見慣れてしまえばどうということも無い。アシェンドネイル、食べないのか?」

「食べるわよ。まったくもう。ナイフとフォーク、貸してくれない?」

「手掴みでも構わんぞ?」

「私はあんまり噛まないのよ。蛇だから丸飲みしちゃうの」


 文句をつけながらアシェンドネイルはナイフで肉を切る。一口サイズに切って口に放り込むように。ほとんど噛まずにゴクンと飲み込んでいく。なるほど、蛇っぽい。


「その食べ方だと、食べ終わるのは早そうだ」

「ジロジロ見ないでよ」

「もともと肉食の習性があると、進化しても生肉が好みらしい。ゼラはチーズも甘いものも好きで食べられるが、アシェンドネイルはどうなんだ?」

「食べてお腹を壊すことは無いわね。でも、私は甘いものはあんまり好きじゃ無いわね」


 ゼラが、えー? と声を上げる。


「チーズもクッキーもケーキも美味しいよ?」

「甘ったるいのは苦手なのよ」

「じゃあ、アシェはデザートはどうするの?」

「デザート? 何があるの?」


 アシェンドネイルが言うのに護衛メイドのサレンが応える。


「今日のデザートはベイクドチーズケーキです」

「チーズケーキ!」

「ゼラ、デザートはご飯が終わってからだ」

「ウン! チーズのケーキ♪」

 

 アシェンドネイルがはしゃぐゼラを見て苦笑する。


「ゼラはずいぶんと甘やかされてるわね」


 ナイフに刺した肉を口に入れて、ほとんど噛まずに飲み込むアシェンドネイル。目隠しのせいで表情が解りにくいが、アシェンドネイルがゼラを見るときは優しげだ。

 ゼラは気がついていないのか、サレンとお喋りしながら食事を続ける。


 食事のあとは倉庫に来たフクロウのクチバ、エクアドと今後の話をして、ゼラは屋敷のハウルルの様子を見に。アシェンドネイルは明日までこの倉庫から出ないように。

 クチバから聞いたところ、ローグシーの街に異変も異常も無し。

 明日にはアシェンドネイルがハウルルを調べて、何か新しく解るかもしれん。それにそろそろ父上が魔獣深森から戻ってくる。手がかりが見つかっていれば良いが。

 倉庫にゼラが戻って来た。


「ンー、ちゅ」


 明かりを少し落とした倉庫の中。とはいえ、監視の為に覗き窓から倉庫の中は見えるように明るくはしてある。

 寝床を覆うカーテンは開いて、横たわる俺と覆い被さるゼラは、監視の隊員とアシェンドネイルに丸見えだ。

 寝る前に服を脱いで裸になったゼラ。俺の胸か腹を枕にしてうつ伏せに寝るのがいつもの体勢。そして寝る前にキスをするのもいつものこと。

 口の中に入ってくるゼラの舌を舐めると、少し甘い。


「むふん」


 鼻から抜けるように息を吐き、唇を押しつけてくる。触れるところから甘く溶けていきそうな、このまま理性が溶けていきそうな快楽。

 ゼラはすっかりキスが好きになってしまった。これはルブセィラ女史の教育のせいでもある。

 唇と唇は恋人同士が、それ以外の箇所には親愛の証。間違ってはいないのだろうが、これを信じたゼラは、ゼラの言う優しい人には皆にキスをする。父上、母上含め、屋敷の者もアルケニー監視部隊の隊員も、全員がゼラにほっぺにちゅーされている。中には回数を記録して、競う隊員がいたりする。ゼラから、ありがとうのちゅー、を目当てにお菓子やチーズを与えようとしたりする。

 羞恥心の無いゼラに説明するのも難しく、ほどほどにというニュアンスがゼラには解りにくいのか。

 母上やアステ、女性隊員がゼラと仲良くして、頬に額にキスをするのが挨拶代わりのようになったきたのは、これでいいのだろうか。父上がゼラから頬にキスされて、へにゃりとだらしない顔をするのは、どうなのか。父上、しっかりしてください、と俺が言うと、周りの隊員が一斉に『え?』とざわめいた。俺の顔がどうしたというのか。


「はむん」


 ゼラがその赤い唇で俺の下唇を挟む。弄ぶようにあむあむと。盛り上がり過ぎて、ムニャムニャしたくなってしまう。そしてゼラの唾液に危険なものが分泌されて、それを舐めると俺が元気になってしまう。それでもやめられない。ムニャムニャはしないが、これくらいは寝る前の挨拶のようなものだろう。

 ゼラが、ちゅ、ちゅ、と音を立てて口を吸う


「……あなた達、いつまでやってるのよ」


 呟く声はアシェンドネイル。べつに見てなくてもいいし、先に寝ていてもいいのだが。なぜか俺達を見ている。

 アシェンドネイルは黒い蛇体でとぐろを巻いて、その中心に人間体を埋めるようにしている。頭の無い蛇のとぐろの中から、白い髪の女の頭が出ているようだ。黒い蛇体を枕にするようにして、その頭は傾いている。


「おっぱいいっぱい男なのは知ってたけど、溶けてくっついてるみたいね、あなた達」

「むふん、カダールと一緒、幸せなの」

「受け入れているのは噂で知ってるけど、実際目にすると驚くわ」


 アシェンドネイルは倉庫の中を見る覗き窓の方を向く。監視小屋からは中の様子を窺っているだろう。アシェンドネイルは覗き窓の向こうの隊員に、あなたもご苦労様、と労いの言葉をかける。

 見せつけるつもりも無いし、見られるのも恥ずかしいのだが、仕方が無い。ムニャムニャはカーテンで隠して見られないようにしている。

 今夜はアシェンドネイルが倉庫にいるので、カーテンを開けて見えるようにしている。

 寝る前のキスはしてもムニャムニャはしない。しないからな。


「この倉庫に母神の瞳を仕込んでもいいかしら?」

「覗きの仕掛けをつけるのはやめろ。そんなに俺とゼラの暮らしを覗きたいのか?」

「赤毛の英雄は自分がどんなに特別な存在か、自覚が無いようね」

「過去には俺のような者はいなかったのか? まるで皆無とは思えないのだが?」

「いないわよ。当人どころか、その家族も友人も受け入れているどころか応援するようなのは」


 アシェンドネイルが、ふう、と息を吐く。ゼラが胸をぎゅっと俺に押しつける。


「カダール、とくべつ。優しくて暖かくて、側にいると幸せなの」

「それは良かったわね」

「アシェ、人は優しいよ? ハハウエもチチウエもエクアドも、皆、いい人だよ?」

「そんな人ばかりじゃ無いのよ。ゼラは恵まれているわね。それとも、これがウィラーインだからなのかしら」

「難しいことはわかんない。だけど、好きな人が幸せになると嬉しい。優しくしてくれる人は、幸せになって欲しい」

「その単純さを保てないのが人なのよ」

「そうなの?」

「賢いふりをしただけの中身は獣、やがては複雑で解りにくいものこそを有り難いものと崇めていく。そのくせ空腹という理由で同胞や家族を殺す。優しさ嬉しさも、やがては金で買える価値へと堕落して、自ら意味を無くしていく」

「ムー、アシェの言うこと難しい。優しいは優しいで、幸せは幸せ、じゃ無いの?」

「赤毛の英雄がゼラの力を利用して、いいように使ってきたというのに、ゼラはお人好しね」

「ゼラが頑張ってカダールが喜んでくれたら嬉しいし、カダールはゼラが人と仲良くできるように考えてくれてるもん。カダールのこと信じてる」

「フフフ、赤毛の英雄、絶大なるゼラの力を手にして、その信頼を裏切ることなく、人と魔獣の狭間に立ち続けることができるの? ゼラの力を使えば世界の王にもなれるわよ? その誘惑に抗い続けることはできるかしら? それができたら本当の英雄ね」


 アシェンドネイルの言うことは解る。理想、希望、野望を持つ者にとって、ゼラの力は恐ろしい誘惑にもなる。お伽噺の傾国の魔獣アルケニー。

 大陸統一、世界の王も夢では無い。しかし、そんなものは俺にはどうでもいい。


「アシェンドネイル、抗うも何も、俺はとっくにゼラの誘惑に負けた男なんだが? ゼラの幸せが俺の幸せだ」


 狭間に立ち続けるも何も、ゼラの唾液のおかげで朝まで立ちっぱなしだ。


「ゼラの信頼に応えてゼラを守れる男になりたいが、力不足で人に頼ってばかりの情けない男だ。世界の王など器では無い」

「カダールはゼラが守るの」

「俺もゼラを守りたい、それがずっと守られてばっかりだ」


 昔からずっと、返せないほどの恩がある。それなら俺の命はゼラの幸せのために。ゼラがズリズリと這い上がり褐色の双丘で俺の顔をポフンと埋める。ゼラの甘い匂いがする。


「ゼラはカダールの側にいれば、幸せ」

「俺もだよ、ゼラ」

「ンー、でもカダール、ハウルルのこと睨んじゃダメ」

「いや、俺は睨んだりは」

「ハウルルも男の子でおっぱい好きなの。でもゼラのおっぱいはカダールのだから、安心して」


 うぬぬ、まさかゼラに注意されてしまうとは。手を伸ばしてゼラの胸に触れる。その柔らかさと暖かさに、頭の芯が溶けていくような。やはりゼラのおっぱいは最高だ。


「ン、カダールぅ」

「ゼラ……」

「……つきあってられないわ。監視もたいへんね」


 アシェンドネイルは床の上、巻いた蛇体のとぐろの中に潜っていく。そういう寝方をするのか、布団はいらないのか。人間体部分が黒蛇のとぐろの中にスッポリと隠れて見えなくなる。おかげで全裸でも見えなくていい。

 すぐ側にゼラの姉がいるところで、イチャイチャするのもどうかと思いつつ、いつものようにゼラのおっぱいを堪能して、ゼラが満足するまでキスをして眠る。

 いつの間にかこれが日常になってしまった。口づけがこれほど胸を柔らかな熱で埋めるものとは知らなかった。恋人とはそういうものなんだろう。うん。

 黒蛇のとぐろの隙間から見られていた気がするが、気づかない振りをする。




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