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最後の遺跡へ

「やって来ましたシーウーへ。この前来たばっかりだけどね」

「何度来ても落ち着く場所ですよね」


 森に囲まれた町、シーウーで話をしているのは、セバルトとメリエだった。町の入り口で話しながら、宿へと向かっていく。


 遺跡に眠る真相を知ったセバルトは、ブランカも飛び出してしまったし、自分も遺跡に向かうことにした。

 急がなくても安全だとは考えてはいるが、かといって放置するのもなんだし、遺跡にさらなる奥があると見抜けなかったのが少しばかり悔しかったというのもある。


 そういったわけで出発しようとしていたところ、メリエと会った。これからシーウーに向かうと言い、理由を明かすと、メリエも行くと言ったので、そのままシーウーに二人で来ている。


「宿に荷物を置いたら、早速行きましょう」

「うん、先生。私まだ遺跡行ってないし、どういう所か楽しみ」


 メリエはのんきに体をうずうずとさせている。

 だが、その動きが不意に止まった。

 固定された視線をセバルトが追うと、その先にはメブノーレ夫妻の畑と、呆然と立ち尽くす夫妻の姿がある。


「なにやらただならぬ雰囲気ですね」

「うん、先生。どうしたんだろう。おーい!」


 呼びかけながら夫妻の元へ向かって行くセバルトとメリエは、夫妻の側まで行くと、何を二人が見ていたのか、そしてなぜ呆然としていたのかを知った。


 二人が見ていたのは、荒らされきった蔵の中だった。

 農作業の道具をはじめとして、家の内外で使う様々な道具が壊されている。木枠が砕け、金具がねじれ、保管してあったらしい骨董品のような人形は首がねじ切られている。色々な物が乱雑に散らばり、ひどい有様だ。


「ひどい……」


 メリエが唖然とした顔で呟いた。


「やつらが……やつらがやったんです」

「やつら?」

「あの商人達です。私たちがもう必要ないと言ったからその腹いせに違いありませんよ! この蔵に入るところは見えませんでしたけど、うちの前の道をそそくさと走り去っていくところを見たんです」

「あいつらね! なんてことを、いくらムカつくからってぇ~」


 怒り心頭の様子のメリエだが、セバルトは疑問を感じていた。

 はたして、商売に失敗して頭にきたくらいであのスタンスという男がこんなことをやるだろうか。彼はもっと打算的な人間のようにセバルトには思える。

 鬱憤晴らしのためだけにリスクだけを冒すとは思えない。やるとしたら、何かのついでとか、あるいは誤魔化すためにやっているのではないか。


 セバルトは蔵の中に入り、じっくりと見渡す。

 散らばっている物の中には、かなり年季の入ったものも見て取れた。


「メブノーレさん。この蔵の中にあるものって、結構古い物もあるんですか?」

「え? ええ。先々代が収集癖もあったそうなので、必要な農具などと一緒にそういうものも収めていました」

「たとえば……書物や石板のようなものとかも、あったりします?」

「ああ、ありましたね。僕は興味ないので中身までは知りませんけど」


(まさか……)


「スタンス達が向かって行った方角は?」

「北の森の方へ行ったみたいでした。なんの用かはわかりませんけど」


 セバルトは蔵の中から出て、メリエに言った。


「行きましょう、メリエさん」

「へ? 行くってどこに?」

「遺跡です。おそらくですが、彼らもそこへ行っています。僕らと同じ目的でね」




「うわあ、こんなところなんだね」


 先日訪れた遺跡にやってきたセバルトとメリエ。

 セバルトにとっては再びだが、この遺跡はメリエにとっては初めてのことで、非常にテンションが上がっている。


「メリエさんはあまりこういうところには来たことないのですか」

「そりゃあね。遺跡によく来る人なんてそうそういないよ。前来たところはほとんど洞窟だったから、新鮮」


 もっともであるとセバルトは頷いた。

 よほどのことがないと遺跡に入りはしないだろう。そもそも滅多にないだろう。

 それでは、遺跡は一つ一つ満喫しながら進んでいかなければならない。


 予想外にブエノ商会の者達が入り込んでいるが、セバルトは脅威には感じていなかった。ブランカの力なら、なんの問題もないし、もちろんセバルト達が出会っても特に困ることはない。


 それに、こういった未知の遺跡の中でもっとも危険なことは焦ることだ。トラップなどに引っかかる可能性が格段に高くなる。

 だから、速く進みたいときこそ、じっくりと歩を進めなければならない。急がば回れとはよく言ったもので、結局それが一番速くなる。


 そういうわけなので、セバルトとメリエは、確実に歩を進めていく。以前通った複雑な回廊を歩き、洞窟のようなエリアへと向かう通路の直前で足を止める。

 この前の遺跡探検では、この洞窟のような場所で台座を見つけ、そしてそこから先に至る道は見つからなかった。

 だが、今回は違う。


「この壁ねえ。こりゃわからないよ」

「ええ。さすがに、本がなければ気付きませんでしたね」


 回廊の壁の模様を調べ、その模様の一部を指でなぞると、カチリと何かがはまる音がした。

 そして、また別の通路に行き、同じようにして何度か壁や床の模様をなぞると、カチリ、カチリ、と音がして、最後に、一際大きな石が地面をこするような音が響いた。


 セバルトとメリエは頷きあい、音のした方へと向かう。

 回廊の一部の壁がずれて外れ、新たなる道ができていた。ちょうど、地下洞窟への道ができていたように。


「二つの宝を二つの隠し通路の先にそれぞれ安置したってことね」

「ええ。しかし、もう片方に比べて隠し方が入念な気がしますけど」

「もう片方は先生が気付いたんだっけ? こっちは、あの昔の資料がなかったらわからなかったもんね。でも、片方だけ簡単ってことも変だけど」


 たしかに、メリエの言うとおりだとセバルトも思う。そうだとしたら、当時の人達にとっては、この回廊の模様は何か注意深く見れば示唆する物があるのだろう。その意味が失われた現代人にとってはなんのヒントもないように見えるが。時の流れが、非対称性を産んだ。


「それじゃあ、奥へ行きますよ」

「うんっ……」


 セバルトとメリエは、緩い下り坂になっている、新たに現れた通路を進んで行く。


 しばらく下っていくと、急に辺りが開けた。

 そして、やはり大きな洞窟のような場所に繋がっていた。


「おお~洞窟だね」

「ええ。もう一つの隠し通路とそっくりです」

「てことは、やっぱり対になるお宝、ブランカのもう一つの宝珠がある可能性は高いね」


 メリエは嬉しそうに笑いながら周囲の天井や壁に首を巡らせると、進み始めた。

 セバルトも並んで歩を進めると。


「うわっ、とと」


 メリエが躓いて転びそうになる。素早くセバルトはその腕を取って支える。

 すると、勢いがついた体は腕を視点にぐるりと回転し、セバルトの胸にすとんと収まった。


「あ、ありがと、先生」


 メリエが顔を赤くしながら、俯いた。


(突然転びそうになって恥ずかしいのか。わかる、わかる)


「結構歩きにくい地形です。気をつけてください」


 地面が小さなタケノコのような岩が多く飛び出ていて、躓きやすいのだ。天井からも鍾乳石のようなものが垂れ落ちているし、無数のでこぼこが洞窟を彩っている。


 言われて気付いたメリエは、頭を低くして地面を見た。


「うっわ~、本当だ。これ転んだらすっごく痛そう。気をつけよ」

「ええ。それじゃあ、行きましょう。ブランカも、そして、なんらかの資料を手にしたとと思われるスタンス達も、この洞窟のどこかにいるはずです」


「うん。気合い入れていこ」


 そしてセバルトとメリエは、暗い奥へと進んで行った。


 ***


「かなり広いのだな」


 ブランカが呟いた言葉は、石壁に反響して響いた。

 ブランカは一人で飛び出し、見た資料の内容の記憶を利用して、シーウーの遺跡の奥までやってきていた。だがまだ、もう一つの宝珠は見つかっていない。


「まったく、セバルトがいれば探す目が増えて便利なものを。どうして待たなかったのだ」


 ……自分に言ってみるが、言ったところで仕方がない。ブランカにも、よくわからないが、足が勝手に動いたのだ。


(我が未来へと封印されることを選んだ理由、それはわかっている。……時の流れとともに薄れていく信仰と関心に嫌気が差したからだ。このままでは神獣に居場所はなくなると、そう思ったからだ)


 だから、新天地を求めた。別の場所という形ではないが、別の時間で、別の在り方を見つけるために。


 記憶が戻れば、その頃の面白くない記憶もより克明に蘇る。

 だが、そこに何かおぞましいものがある。それに目を伏せて逃げるようにしている状態にあるというのが、ブランカのプライドが許さない。

 だから、すぐに取り戻さなければと体が動いたのかもしれない。


「なに、この程度我一人で十分だ。何も問題はない。一人でやっていくつもりで、未来に来たのだから」


 声を反響させ、密やかな足音とともに、ブランカは遺跡を進む――。


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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