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蘇る畑


 夜の暗がりの中、ランプの明かりを頼りに畑まで五人はやってきた。

 エイリアに比べると、町に灯りが少なく、シーウーは夜が際立つ。


 畑の中央に、ブランカは立っていた。


「それで、どうやるのですか?」

「特殊なポーションか、魔法薬か、いずれかはわからぬが、いずれにせよ我は力が戻った。完全ではないが、それを喰らう力が」


 セバルトは手を打つ。


「あの時の! リボンのマナを奪った!」

「うむ。あの時は、自覚的ではなく、力を失いしなびていた我の体が、海綿スポンジが水を吸収するように、自然とマナを吸収した」

「スポンジ狐……」

「変な呼び名をつけるでない。遺跡で少し記憶が戻るとともに、その力の使いかたを思い出したのだ。今は自分の意思で出来る」


 ザーラが今度はポンと手を叩いた。


「つまり、この畑にかけられた魔力的な効果を、打ち消せるということですね」

「そうだ。刮目するがいい!」


 ぶるんと体を一つ震わせると、ブランカは地面に鼻をつける。

 大地の匂いを嗅ぐようにしていたかと思うと、畑がぼんやりと輝き始めた。


 青白い光が畑の土から浮き上がり、風に舞う綿毛のようにブランカの元へと運ばれていく。

 集まった光はブランカの体の中に入っていき、吸収されていく。


 セバルト達は、言葉もなくその光景を見つめていた。

 幻想的な光景は二、三分ほど続き、あとには元のように暗がりと裸の畑が残った。


(神獣――と呼ばれるわけがわかった気がする)


 神秘的な光景は、ただの獣ではなく神性を帯びた存在だと思わせるだけのものがあった。

 しばらくの静寂の後、メブノーレ家の妻が、口を開いた。


「これで、解決したのでしょうか?」

「おそらくは……見た目には変化ありませんけれど」


 各人が目を凝らす中、ブランカが戻ってくる。

 

「終わったぞ。これで草木が育つはずだ」

「普通に、いつも通りやればいいのでしょうか」


 メブノーレ家の夫が問うと、ブランカは頷く。


「生育を阻害する魔術的要素は取り除いた。だが、それを取り除いたということは、芋以外の全ての植物が育てるということだ」

「雑草なども、ということですね」

「そうだ。しばらく経てば、結果はわかるはず。うまくいっていることがわかったら――無論うまくいっているが、甘芋作りに精を出すのだぞ。そして我に甘芋羊羹を献上するのだ」


 ブランカは気分のよさそうな声を

 うまくいっていれば、何かしら少しでも草が生えてくるまではそう時間がかからないだろう。

 雑草など、すぐにどこからでも伸びてくる。


「すごいですね、ブランカさんって。マナを食べたんですよね」

「ええ。そういうことだと思います。うまくいったかはわかりませんけれど」


 メブノーレ夫妻から礼を言われているブランカを見ながら、ザーラとセバルトは言葉を交わす。


「きっとうまくいっていますよ。あんなに幻想的で綺麗だったのですから」

「ロマンティストなんですね、ザーラさんって」

「ロマンがなければ魔法使いなんてやっていられませんからねっ」


 腰に手を当て自信満々に言うザーラ。

 たしかにそうだな、遺跡探索なんてロマンの塊だ、と思いつつ、セバルトは暗い森へと視線を投じた。




 翌日、早速メブノーレ夫妻は甘芋を植えるなど、農作業を始めた。待ちきれないという様子で。


 セバルト達は、遺跡を再び探索に出かけた。

 昨日の続きに、洞窟のような地下部分を歩いて行く。


 途中には地底を流れる川や、木の根が硬い岩壁を突き破って天井から伸びる様子など、珍しい光景を見ることができたが、しかし、その遺跡が何のために作られたかや、そこに眠るマジックアイテムや古文書や、そしてブランカの記憶に関連するものを見つけることはできなかった。


 ブランカの記憶は、昨日のことで一部取り戻せたが、まだ完全には戻っていない。他にも記憶を呼び覚ますものがないかと思っていたのだが、それは見つからず。

 そして、遺跡探索も行き詰まってしまった。

 先に進む道がないのだ。


 そもそも先があるかどうかもわからない。

 ブランカが封じられていた球が置かれていたらしい台座があったのだから、それがこの遺跡の存在意義ということだったのかもしれない。

 だとしたら、あれが全容で遺跡は全て見尽くしたことになる。


 神獣が封じられていた球というのは、少なくとも遺跡に祀るものとしては十分あり得るものだろう。


 さらにもう半日見落としがないか探索したが、やはりそれ以上のものは見つからず、遺跡探索はそこまでとした。


(まあ、ブランカの記憶が少し戻り、力の使いかたを思い出したのだから成果はあった。そうそう悪くない成果が)


 そういった顛末で遺跡探索を終えたセバルトは、今、シーウーの町外れの開けた場所で、固めた泥を積んでいた。


「ザーラさん、やっちゃってください」

「おまかせください。『フレイム・ピラァ』」


 局所的な火柱が燃え上がり、四角く切り出された土を熱していく。

 絶妙な火加減の炎は泥を固め、石のブロックを作り出す。


「……はずなんですが、難しいですね」

「火加減でしょうか。それとも泥のコネ方? もうちょっとやりこむ必要がありそうです」


 炎を消したとき、多くのブロックは固まりつつもひび割れてしまっていた。これでは心許ないと、再びセバルトが土をこね、ザーラが焼いて固める作業をやり直す。


 ……黙々と作業を行う二人だが、そもそもこれはなんのためにやっているのか、というと。


「今日中にお風呂に入れるでしょうか」

「微妙なところですね……というか、無理ですね」


 セバルト達は、風呂を製作中だった。


 エイリアには浴場など多くあったが、シーウーには少なく規模も小さい。

 体は水や濡らした布で清潔にはしているが、やはり風呂につかりたい! ということで、自分達で作ってしまえば入りたい放題ではないかと思い至ったのだ。


(遺跡に行ったり、森を歩いたり、やっぱり体を使ったあとは風呂にかぎる。それに、ここで作り方を習得すれば、公衆浴場にいかなくてもいつでも風呂に入れるようにもなる。やるしかないでしょう!)


 作り方は、甘芋農家の夫妻から聞いたことと、セバルトとザーラの知っている情報を総合的にあわせて方法を考えた。

 そのために、まずは火をおこすかまどのようなものを作っている。


 構想はこうだ。

 かまどを作り、薪を燃やす。

 そのかまどの上に、大きな容器を置いて、水を入れ、熱する。

 これで簡単簡素な風呂の完成。


「今日中にかまどは作ってしまいたいですね」

「ええ。そうすれば目処も立ちますし。お風呂にも入れます。はぁ~いい気持ち」


 気分はすでに入浴中という感じで、ザーラはほんわかした表情になっている。しかし魔法はきっちりと続けていて、


「あっ、今回はよさそうですよ」

「本当です。ひび割れてない」


 できあがったブロックは、ひび割れもなく、均質な大きさだ。

 軽く叩いてみると、小気味いい音を反響させる。硬さも十分。


(これは、のほほんとした気分がちょうどいい火の具合を生んだのか。なんという偶然の幸運)


「もうコツはつかみましたよ、セバルトさん。今の感じで作っていけばいいんですよね」

「あれでコツが掴めたんですか」

「ええ。一度やってしまえばなんのその、です。さあ、どしどし作っちゃいましょう。明日までには、完成させたいです」


 ザーラが腕まくりをして、気合いを入れる。

 セバルトも、土細工の形を整えて気合いに答える。


「ですね。それじゃあ、一気にやっちゃいますか」


 セバルトも風呂に入って作業の汗を流す時を夢見ながら、精を出す。

 炎が横顔を照らす中、二人は黙々と作業を続けていった。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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