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家庭教師はスローライフをいつまでも

暗躍していた黒ローブの男との直接対決も終わり、今回が最終回です!

これまで読んでくださりありがとうございました。

一年以上に渡って書き続け最終回を迎えることができたのは読んでくれた皆さんがいたからです。

本当にありがとうございました、また何か書くこともあると思いますので(すでに書きたいネタは色々あったりします。むしろネタだけなら常にたくさん)、その時は是非またよろしくお願いします!

 ギィィィィ――!


 甲高い鳴き声が上がった。

 灰色の飛龍が羽ばたき、何処かへと飛び去って行く。


「主が倒れて制御を失ったか。野生に……いや、あっちは!」


 空を高速で進んで行く飛龍の向かう先に心当たりを思い浮かべ、セバルトは急いで後を追った。


「ロムス君達の方です!」


 セバルトが先を行くロムス達を視界に捉えたのとほぼ同時に、飛龍はロムス達に追いついた。

 ロムス達は即座に戦闘態勢に入る。


 飛龍が魔法を行使すると、ブランカがマナを喰いそれを無効化した。

 攻撃が無効化された飛龍は直接攻撃に移るが、尻尾の強力な一撃を、メリエが膂力を増強して受け止める。

 そこに、スピカの扱うミニゴーレム達が集団で攻撃し、飛龍は鳴き声とともに倒れた。


 セバルトは見事な連携を見て、目を丸くし、息を一つ吐き出した。


「なんだ、焦る必要なんてまったくありませんでしたね」


 六人の英雄があそこに揃っている――武術メリエ魔法力ロムス、伝説の装備スピカ、魔に関する知識ブランカ、精霊の加護レカテイア製作技術ワルヤアムル


 それだけいれば、まず間違いなく、脅威が迫ってきても撃退できるだろう。

 先ほどの天翔る船の上でも、彼らは見事に魔物を倒していた。

 これから先に色々あるとしても、大丈夫なはずだ。

 そうセバルトは自信を持つ。


(三百年の時を超えて、見知らぬ時代に来たときにはどうなるかと思ったけど……暢気に暮らすため諦めずにやってきてよかった。


 と、セバルトが追いついたことに、ワルヤアムルが気がついた。


「よう、終わったのか?」

「はい、お待たせしました。皆さんも無事でよかったです。十分鍛えられてるみたいでした」

「家庭教師の生徒がいるんだっけか。三百年も時を超えても腐らずやってた成果だな。まあ、暢気なだけかもしれないけどな」


 ははは、とワルヤアムルは笑った。


(たしかに、ある意味不屈の心かもしれない。最後の一人は、俺自身? いやいや、それじゃ楽できないし。でも七分の一の負担なら余裕か?)


「先生~! 何やってたのよ、早く行きましょう!」


 と、メリエがセバルトを呼んだ。

 まあ、とにかく行こうか、と考えるのを中断してセバルトは走って行く。英雄の生徒の元へと。




 敵を排除したセバルト達は、【神の食卓】の上を悠々と探索していった。

 地上ではほとんど見つからないオリハルコンやミスリルなどのレアな鉱物、竜血樹のようなレアな植物、そして短距離の瞬間移動を可能にする【後扉】というマジックアイテムなど、珍しいものが色々と見つかっていった。

 さらに魔術書まであって、ロムスが「これはエンシャントスペル!」とはしゃいでいた。好きだねーと思うセバルトであった。


 そんなこんなで、探索を続け、大部分を見てまわった時だった。


「あれは……!」


 スピカが駆け出した。

 その向かう先には、各面の色も材質も異なる正四面体が宙に浮かんでいた。

 スピカの後を追い、その何かに近づくと、四つの面がそれぞれ、風を吐き出したり、吸い込んだりしている。


「風の宝、やっぱりここにありましたわ!」


 高い声を上げるスピカに、セバルトが言う。


「使えそうですか?」

「やってみます――」


 両手のひらに乗せて、意識を集中すると、面の色が変化し、周囲の大気の流れが変化した。

 最初は上から下へと打ち下ろすような風が吹き、次には東から西へ、ゆっくりとした風が吹き、最後には上空にある雲が流れ、消え、形を変えて再び集まる。


「凄いな、こりゃ。近くだけじゃなくて天候まで変えられるのか!」


 レカテイアが驚いた声を上げる。

 風の宝という名は伊達ではないらしい。

 そして、やはりスピカはそれを扱うことができた。


「できましたわ!」

「さすがですね、スピカさん」

「セバルトさんが、難しい道具を使う練習をさせてくれたからです。それに、これを手に入れることもできた……本当に、セバルトさん、皆さん、ありがとうございます!」


 スピカが深く頭を下げる。


(【精霊の食卓】への遠征、うまくいったと考えていいな。それじゃあ)


「一番の目的も達成したし、せっかくだから空の上を観光していこうか。のんびりとね」

「はい!」




「うむ、うまい」


 エイリアの町、セバルトの家。

 湖でとれた魚を干物にしたものを食べたセバルトは、舌鼓を打った。

 ほどよい脂と凝縮されたうまみが口の中に広がり、魚っていいですね~という気分になれる。


 平和な一日の、平和な昼食。

 家庭教師の授業が午後からあるから、その前の少し早めの腹ごしらえタイムである。


(こういう平和な時間、いいよなやっぱり。色々あった懸案も片づいたし。皆強くなったし。俺もこうして心配なく平穏にスローに魚を釣ったり、釣った魚を干したりして過ごせる。安心の大切さが身にしみるね)


 しみじみしながら、食事を終え、食後のお茶をゆっくりと啜っていると。


 コン、コン。


 扉を叩く音がした。

 迎え入れると、そこにいたのは。


「こんにちは、セバルトさん」


 スピカだった。

 スピカはにこりと笑うと、上品に礼をする。


「帰ってきていたんですか。ということは、」

「ええ。うまく行きましたわ。故郷を襲っていた竜巻は消えました」


 セバルトはふうっと息を吐き出した。

 【精霊の食卓】から帰ってきてから、スピカは故郷の村へと急ぎ行った。

 どうなるかと気を揉んでいたのだが、ちゃんとあの道具は働き、スピカの故郷は救われたらしい。


「それはよかった。僕もほっとしました。それではこれからどうするのです? もう宝探しの必要はなくなりましたが」

「ふふ、必要はなくとも、一度やってみるとなかなかやみつきになりますわ。まだまだ続けます。それに、変なものが見つかっても、セバルトさんに教えていただけますしね」

「あ、覚えてたんですね」

「当然です。嘘だったんですか?」

「いえ、もちろん本心です。いつでも、どうぞ」

「ええ。よろしくお願いいたします。それでは、早いけど失礼します。他のお世話になった方にも、お礼をしなければなりませんので」


 そう言って、スピカは去って行った。

 うまくいってよかったとセバルトも思う。空飛ぶ船まで作って行ったほどなのだから。


 魔神の欠片を作ってばらまいていた男は、全ての欠片を剥奪した後、ネウシシトーの兵士に引き渡した。

 セバルトが知るところを伝えた他、また他にもわかっている余罪が結構あり、裁判の結果はまだだが、かなり厳しくお灸が据えられるだろう。


「これで全部解決、万々歳か……ふぅ」


 セバルトは天井を見上げる。

 あの男に関することは解決した。

 とはいえ全ての問題が未来永劫なくなるわけではない。


「でも、大丈夫だ。きっと。俺も、俺以外も平和にのんびりしていられる」


 セバルトが見出した生徒達が、英雄達がいるのだから。

 スローライフをいつまでも送れるに違いない。


「……と、時間だ。行くとするか」


 セバルトは荷物を持つと、家を出た。

 いつも通り家庭教師の授業をしに行くために。

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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
― 新着の感想 ―
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