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紫の金属の精霊『ワルヤアムル』


 金属製の女の等身大人形。

 それが、ワルヤアムルを一目見たときのイメージだ。


 セバルトは、知っている。

 かつてセバルトが愛用していた聖剣『スノードロップ』の場所を教えたのが、他ならぬワルヤアムルだったから、印象に強く残っている。


 サクッ、サクッ、と独特の足音を立てながら、ワルヤアムルはセバルトの方へと歩いてくる。


「お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだなあ。だいぶたったんじゃないか? さすが英雄とか言われてただけあって、セバルト、お前長生きじゃあないか!」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど」


 これは秘密ですが、と前置きして事情をセバルトは話した。

 精霊であるワルヤアムルですら、驚いた様子だった。

 やはり類を見ない事例らしい。


 彼女は、ほとんど人間と区別のつかない赤き火の精霊ウォフタートとは異なり、明確に人間離れした見た目をしている。

 精霊も色々なのだ。


「ところで、ここはワルヤアムル様の寺院なんでしょうか。どうしてここで顕現を?」

「ふむ。……ここは、なるほど。名もなき寺院だな。お前が石碑を作動させたんだな? 精霊信仰がはっきりとまとまって統一した形になる前、それぞれの民がそれぞれのやりかたで精霊を信仰してた時代に作られた、私の寺院だ」


 マナフ歴が始まる以前ということになる。

 600年以上昔ということは、なかなかの古さだ。


「だいぶ久しぶりにこっちには顔を出した。せっかくだからしばらく観光でもしていくことにするか」

「はあ」


 マイペースだなと思いつつ、セバルトは返事をした。


「それじゃあ、案内してくれ」

「え。僕がですか?」

「お前以外に誰がここにいる? こんなところをほっつき歩いてるってことは、近くに町でもあるんだろう。私にもわかるさ、それくらい」

「町に行くつもりですか?」

「悪いか?」

「いや、悪くはないですけど……目立つんじゃないかと……」

「目立って何が悪い。目立てば、精霊と知った者から貢ぎ物でももらえていいこと尽くめじゃあないか。あっはっは!」


 セバルトは頭を抱えたくなる気分だった。

 面倒な相手に捕まってしまった。

 とはいえ、呼び出したのは他ならぬセバルトである。それなのに知らぬ存ぜぬで放置するのもよろしくない。


 結局、セバルトはワルヤアムルを町に案内することにした。

 来た道を引き返していく。


「ところでワルヤアムル様、ゴーレムの機敏さを上げる方法ってありませんか?」


 だが、せっかくだから、セバルトも何も得ないで終えるなどということはしない。むしろこれは好都合。相手はゴーレムや武具など、まさに得意分野なのだ。

 ワルヤアムルがセバルトに頼みをするなら、セバルトの方も、頼む。

 精霊と人でもギブアンドテイクだ。


「あるぞ」

「早いですね」

「私は人形には詳しいんだ。ミスリルを使え。ミスリルゴーレムだ。ミスリルはいいぞ」


 非常にミスリルの良さを力説するワルヤアムル。

 たしかに、ミスリルといえば丈夫で魔力も豊富な金属として名高い。

 ミスリルゴーレムも強力なゴーレムだ。 

 だが、素早いイメージは特にない。


「ふっ、甘ちゃんだな。ミスリルは魔力を豊富に含むし、魔力を込めやすい。つまり、カスタマイズできるんだよ。わかるか?」

「なるほど。ゴーレムといったらパワー重視という固定観念があるだけで、そうじゃなくもできると」

「ああ、そういうことだ。ミスリルを見つけたら試してみりゃいい。家の留守番でもさせるには少し過激だと思うけどな」

「いやそこまでは……してましたけど」

「してたのかよ! さすが英雄だな。防衛大好きマンかお前!」

「好きでやってるわけじゃありません」


 たらたらと話しながら、長い通路を引き返し、エイリアの町へとセバルトとワルヤアムルは戻った。


 ワルヤアムルが町をふらふらと歩いていると、さすがに不思議な目で見られるが、とはいえそこまで突っ込まれることもない。

 喋る白狐ブランカによって、町の人は少しくらい変わったものでは動じないくらいに鍛えられているということらしい。


 ワルヤアムルは金物屋に真っ先に向かった。

 包丁やノコギリを手に持ち、触り、眺め、満足げに微笑む姿は、かなり危ない奴だったので、セバルトは離れていたが、店主とは熱心に話していた。


 次に向かったのは、武器や防具を取り扱っている店で、そこでも同じように不敵に楽しげに笑っていた。

 

「いやはや、人間の町には金属がたくさんあっていいなあ、そう思わないかセバルトよ」

「僕は金属の精霊じゃありませんし。特には」

「そうか? もっと金属を愛せ? 金属がなかったら人類は困るぞ?」

「たしかに困るけど何かが違う……ん?」


 その時、セバルトは自分の家の前まで来ていたのだが、そこに見知った顔が待っているのを発見した。

 背が高く、帽子をかぶって角を隠した男。竜人レカテイアだ。




「ええ!? センセイの隣にいるこの人も精霊なのか!? いや精霊だから人じゃないか!?」


 用があるということなので、三人まとめてセバルトの家に入ったのだが、ワルヤアムルを紹介するなり、レカテイアは度肝を抜かれてのけぞった。


「精霊に二人も会うなんて、驚きってか驚きだよ」

「二度驚いてますよ、まあそれくらい驚くのもわかりますが」

「センセイって、顔が広いんだなあ」


 こういうのは顔が広いというのだろうか?

 疑問に思うセバルトだが、他になんといえばいいのかわからないので、とりあえず納得しておくことにした。

 それより気になるのは。


「何か用があるんだろう? どうしたんだ?」


 なぜかセバルトより一歩早くワルヤアムルが尋ねる。

 レカテイアは、思い出したように頭を抱えた。


「それが、長老が見に来るって言うんだよ!」

「長老って、竜人族のですか?」

「ああ。そうさ。俺がきっちりマナの問題を解決できたかどうかとか、他にも精霊とも会ったという話だから、そのことも聞いたりするために、来るって言うんだ。だから準備をしておけって。……もちろん、珍しく人間の領域に行くんだから満足できるようにもてなすように……ってさ」


 レカテイアはうんざりしたように目を細める。


(偉い人をもてなす準備。ああ、大変そうだなそれは)


「しかも、精霊がもう一人増えたしな。説明も余計ややこしくなるんじゃないかぁ?」


 ワルヤアムルが楽しそうに笑う。

 その笑い声に、レカテイアは困った目でセバルト達二人を忙しく交互に見るのだった。


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新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。 ダンジョンにあるものを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、とてつもないアイテムを手に入れモンスターを仲間にし、歩んでいく物語です。 自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので、是非一度読んでみてください!
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