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「遊びに来てたんだ?」
なるべく聞かれても困らない無難な会話を心がける。
「おばさんが桜餅作ったっていうから食べに来たの。会えたらいいなって思ってたけど、本当に会えるなんて。思えば叶う、だね」
ねぇ、聞いた?聞いた?聞いた?川嶋さん会えたらいいなっていったよな?
俺に会えたらいいってことだよね?
うわー季節だけじゃなく、俺の心と人生にも春が来たぞー。
わーい、わーい。
頭の中は嬉しくて分身である俺が太鼓を叩いて踊っている。カニやウスなども一緒に応援してくれている感じだ。サルカニ合戦のようにしてな。
「学校の外で少しだけでも会えただけで良しとしますかー。それじゃあ私まだやらないといけないことがあるから、また学校でねバイバーイ」そう言って川嶋さんは親戚の家の中へと戻って行った。
俺も手を振る。
いや~嬉しい。マジで幸せだ。俺の沈みかけた心を明るく照らしてくれた。
そして俺はスキップをしながらC町へと向かった。単純だよな。
C町に入ってすぐをずーっと左に進み下から数えて三番目の家の平屋「芝居さん」のお宅にポンと黄色いハンカチを入れてダッシュで家に帰り鍵を締める。
その夜、川嶋さんからのメールで、あの子が彼氏かっておばさんに聞かれたと書いてあった。川嶋さんなんて答えたんだろう?そうでーす、彼氏でーすとか?うわっ、っていう事は、川嶋さんは彼女って事だよな?ぐふふふ。
翌日なぜだか5時に目が覚めて、ポストを見に行く。
あった。白い紙が四つ折りにされて中に入っていた。
家に入り、靴も脱がずにその場で中を読む。
『黄色いハンカチを返されたのでマイナスポイント一点です。さぁがんばりましょう』
やっぱりな。届くと思っていたよ。くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に入れる。
そして翌日も手紙が入っていたらしくオカンが怒鳴るようにして「亮介―」と二階に上がってきた。重たい瞼をこすり「なんだよ」とかすれた声で言う。
「誰か亡くなったみたいよ」
なに?誰かが死んだ?飛び跳ねるようにして起き上がり、手渡された紙を目を細めて読む。




