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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第三章 終業
76/149

10

真夜中、二時過ぎ。


 玄関を静かに開け、まず団地外に出る。

 そしてそこでマスクを被った。目と鼻と口の部分だけ丸く開いているタイプのマスクで、それを被ってすぐに団地内へと戻り、一軒ずつ順番にカメラにマスキングテープを貼って回る。

 真夜中で見えづらかったが、早くしないと捕まってしまう恐れがあるため急いだ。

 そして、持っていたハンカチ数枚を、現在空き家になっている多田さんの家に入れる。


 翌日、ポストが見えるようにカメラを設置し、そしてポストを見張った。

 見つけた。思っていた通り、犯人はそれを剥がしにきた。

 しかし、それは俺の心を谷底へと落としていった。

 ――マスキングテープを剥がす人――それは、川嶋さんの姿だった。

 

 なぜ、カワシマサンが……?


 その夜、俺は一睡も出来なかった。


 水曜日。

 学校帰りに俺は川嶋さんの後静かに尾行する。気が付かれないように。いつもの自転車ではなく歩いて帰っていた。

 絶対に気付かれないようにかなり距離を開ける。


 雑木林周辺に差し掛かかった場所で、川嶋さんの背後から男の姿が見える。次の瞬間、川嶋さんの口元を押さえるようにして抱きかかえるようにして車の中に乗せた。慌てて走って追いかける。

 しかし、徒歩の自分が車の速度においつくはずもなく、その車を見失ってしまった。

 川嶋さんが殺される……まるで自分の命が削られるかのような思いで走る。

 コンテナの外にさっきのワゴン車が停めてあるのを見つけて、無我夢中でコンテナの扉を足で思い切り蹴り中に入る。

 男が川嶋さんの上に馬乗りになっていて、川嶋さんの制服は半分上にずり上がっている。

 掴みかかかりその顔に殴りかかる。


「お、お前は……」


西津さんだった。驚いていると、その隙に西津さんは、俺の顔や体をボコボコに殴った。「邪魔なんてするからこういう事になるんだよ」そう言って殴る手を休めない。口の中が鉄の味がする。

「川嶋さん逃げて」そう言うのが精いっぱいだった。

 顔や鼻、腹や背中、足。とにかく全身に鋭い痛みが走る。起き上がろうにも、体育教師の西津さんの力には敵わない。

 こんなことなら、空手でも習っておけば良かった。

 そう思った次の瞬間、ゴーンと鈍い音が大きく鳴り響いた。

 西津さんは俺の胸の上に倒れ込むと、そのままピクリとも動かなくなった。一瞬の隙を見て川嶋さんが鉄のパイプで西津さんの頭を殴ったのだ。

「関谷君早く」そう言って、川嶋さんは俺の手を引っ張る。

 右足を引きずるようにして、外に出る。

 口の中にたまった、血を吐き出す。


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