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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第三章 終業
75/149

9

 一人で部屋にいると色々と考えてしまう。

 川嶋さんが俺を避けるのは、俺を嫌いになってしまったのだろうか。

 もしかしたら、川嶋さんの一言でニヤついたりしたのが、気持ち悪いと思われてしまったのかもしれない。

 いや、それだけじゃなくて、もしかしたら自分でも気が付かないうちに川嶋さんの気持ちを傷つけてしまったのかもしれない。

 

 どうして、川嶋さんの事になるともっと冷静に、もっと前向きに考えることができなくなるのだろうか。

 考え始めたら終わりがないどころか、自信まで喪失してしまう。

 いつも強気でいられればいいのだが。

 

 無理やりプラス思考に持っていこうと気合を入れてみるも、そういうもんではないらしい。きっと川嶋さんはわざと俺の気を引く為にやっているんだ、そう思うようにしてみる程に、心が暗くそして寒い風が吹くようだった。

 

 俺はしばらく考えた。

 考えてしまいすぎるほどに。

 

 そうは思いたくなかった。

 そうやって思い始めると、どちらも苦しくなるから。

 でもそのこと以外に他に理由は見当たらなかった。俺の態度が原因じゃなかった時の理由があるとすれば。


 そう、川嶋さんは知ってしまったのだ。川嶋さんの親戚が犯人だと言うことに。ここ最近、気が付いてしまったことがあった。

 ポスト近くの小さな、小さな丸いものに。

 それは、超小型カメラで、よく見ないと、それがカメラであることには気が付けない。初めてそれに気が付いた時には、ネットで同じタイプの物がないか探した程だ。5円玉よりも小さいタイプのカメラだった。

 しかし、それを見つけても気が付いていないフリをした。

 他の家にもあるかどうか調べてみたのだが、やはり同様に超小型カメラだと思われるものが設置されてあった。ネジの様なタイプのカメラなど、一種類だけではなかった。

 数種類ある方が、カメラだと気が付かないと思ったのだろう。


 そのカメラが設置されていない家も、あった。

 それが川嶋さんの家と、古川さんの家、西津さんの家で、この三軒にはカメラが見当たらなかったのだ。

 この家の人たちは、共犯者なのではないだろうかと俺は考えた。もちろん証拠なんて掴めていないしあくまでもそう思っただけなのだが。


 そのことに気が付いてしまった川嶋さんは、俺に合わせる顔がないのかもしれない。もう、そういう風にしか考えることが出来なかった。


 学校でも相変わらず、目を合わすことすらしないでいる川嶋さん。

もし、彼女の親戚が共犯者の一人だとしても、俺は川嶋さんを責めることは出来ない。

 なんで教えてくれないんだ、などと言う事は決して言わない。


 そして、俺は決めた。

 川嶋さんの事は諦めることにした。

 いや、諦めるも何も始まってもいなかったんだから。

 川嶋さんと出会う前だって、ずっと一人で生きてきたんじゃないか。川嶋さんと出会う前の俺に戻りさえすればいい。簡単な事さ。


 しかし、その考えは、実に甘かった。

 いつまでも川嶋さんのうしろ姿を目でじーっと追っている自分がいる。それも、息を吸うように、ごくごく自然に。

 それに気が付いた時には慌てて首を左右に振り、もう終わったんだと言い聞かせる。


 今日もポストにはハンカチが数枚入っている。

 そのハンカチをどこにも入れずに持っておいて夜が来るのを待った。


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