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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第三章 終業
69/149

3

「え?なに病気?」

「そうじゃなくて、精神的にまいってしまって、切ったのよ」そう言ってオカンは左手を伸ばし右手で左手首を切る真似をして見せた。


 結構ショッキングな出来事を聞いて、部屋で色々と思い出す。ハンカチに馴染めなかったんだろうな、とか、サイレンの音で目が覚めたりしていたことがあったけど、あれは田中さんが乗っていたのだろうかとか。


 それにしても、青木さんは、何故そんなに詳しいのだろうか。

 今日も家のインターホンが鳴り響いてオカンが表に出ている。30分も同じ格好でまだ、話し込んでいる二人を覗いてそんな風に思うのであった。


 オカンは俺がおもっている以上に、疲れているようで、青木さんが帰った後にはグッタリとソファーに横になっている。そこまでして、疲れる人と無理して付き合う必要なんてないというのに、女と男の感覚が違うから俺はそう思うのだろうか。


 「付き合いをやめるように言うと、そんな事言っても……」とその後もイヤイヤ付き合いをしていたのだが、ある時、オカンはとうとう限界がきたらしく、結局、付き合いをやめたのだ。

 勿論、大人なので、あなたとは付き合いをやめますと宣言するようなことはしていないだろうが。

 どうも愚痴だけじゃ飽き足らず、オカンにわざと嫌がる様なことをしはじめたらしい。それも、他人には分からない方法でかなり陰険らしく、それに怒ったオカンは、徹底的に離れる事に決めたらしい。


 女の世界は、内出血の様だと聞くことがあるが、その意味が分かったような気がした。


 多田さんの様に逆恨みを心配したが、そんな心配をしなくても青木さんはオカンに代わるターゲットを見つけたらしい。オカンは良かったと言っていた。

 オカンの代わりの人が、どこのどんな人かまでは興味もないので聞いてはいないのだが。

 

 風の強い日。

 洗濯竿にかけてあるハンガーに掛けられた洋服が数枚地面に落ちている。

 それを拾い上げ、オカンにバサッと無造作に放り投げるようにして渡す。


 

 玄関を出てポストを開く。

 これは……?

 そこには、何故か赤いハンカチが、3枚も入っているのであった。

 一緒にたまたまポストを除いていた姉貴は、悲鳴に近い声を上げなあげながら部屋に入ってきた。

 

 俺は、床に3枚のハンカチを投げるようにしてばら撒いた。

 一体どういうことなのだろうか……。

 ハンカチを見比べてみるが、色にムラがあるような気がするが、どれが本物なのか全く見分けがつかない。

 

 もしかして、赤いハンカチが3枚になった、ということなのか?

 つまりルールが変わった?


 とりあえず、そのハンカチはお隣の古川さんの家に入れておくことにした。

 

 明日にでもなれば、ルール変更について、何かお知らせ的な手紙が来るだろうと思っていたのだが、翌日になっても、3日後になっても、」そんな手紙は一枚も入ることはなかった。


 「ねぇ?青木さんが犯人なんじゃないかな?」姉貴が、俺の部屋に入るなり、そう話す。

 

 証拠もないし、青木さんだという確証もないし、よく分からないので何も答えずに黙ってテレビゲームを続ける。


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