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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第二章 進展
65/149

32

午後1時半。

「関谷君」大きな声で俺の名前を呼びながらピンク色のワンピース姿の川嶋さんが笑顔で手を振りながらこっちにやってくる。

 キタキタキター。

 この感じ、このドキドキ感。思わず顔がほころぶ。


「ごめん、待った?」少し申し訳なさそうにしながらも顔は笑っている。

「いや、俺も今さっききたところ」大嘘だけどな笑

「先にご飯食べちゃわない?私すっごいお腹が空いちゃってさ」そう言って右手でお腹をさすっている。

「うん、パスタ、予約してくれてるんだっけ?」


 食べ物なんて、なんだって良かった。川嶋さんが食いたいものなら俺は川嶋さんに合わせるから。ぐふふふ

「そうそう、すっごく美味しいんだから~予約出来て本当に良かったよ、行こう」

 川嶋さんの第一希望の要望通り、洋食屋さん「ポエム」に入り、俺はオムライスセット、川嶋さんは5分は悩んでから、明太子のクリームパスタを頼む。


「今日もバイトだったんでしょう?お疲れ様」そう労いの言葉を掛けられて、水が入ったグラスをまるでビールでも入ったかのようにして乾杯をする。

 ビールに見立てた水をゴクリと喉を鳴らしてクーッと一気に飲み干す。

「昼までだけどね」そう言って空になったグラスを机の上に置く。


「働き者だよね、関谷君って。私そういう真面目な男の人って好きだな」そう言って口角を上げてニッコリと笑う。

 好きだな、好きだな……?ぐふふふ。俺の顔はきっと今、タコ入道の様に真っ赤に染まっていることだろう。

 返事に困ってしまい何も言えない。

 俺の事が好きだと告白されたのではなくて、あくまでも真面目な人が好きだと川嶋さんは言っただけなのに、何故だか分からんが俺のハートは妙にくすぐったかった。


 空っぽになったグラスに、川嶋さんが水を注いでくれる。なんて、優しくて気が利くんだろう。

 ここのオムライスは、半熟のトロトロ卵の上にかかっているケチャップを見て、口の周りに付けないようにしようと思いだし、そう思うとやや食べる速度が減少した。

 川嶋さんはその事には特に気が付かない様子だったので、俺は安心した。

 食事を終えてすぐに映画館へと向かう。予想以上にすごい人混みの上、今から見ようとしている映画はものすごい行列をなしていた。

 腹はいっぱいだったが、俺のデートの理想通り、ポップコーンとコーラを購入して二人並んで座る。

 映画のワンシーンに自分が出ているような気分になる。


「もう、海斗が最後に告白したのが良かったよね」そんな感想を言いながら川嶋さんは満足そうにしている。かわええ。

 恋愛物の映画は、実の所、正直、苦手で途中で何度も眠気に誘われた。あまり興味のない分野で眠くなる上に、周囲は、静かで真っ暗という……。

 そりゃー眠くもなるだろう?


 まぁ、堂々と眠りはしなかったものの、あやうくヨダレが垂れそうだったぜ。

うんうん、そうだねという感じで俺は川嶋さんが言う感想を聞きながらただ、こっくりと頷く。

 大して自分は真剣に見ていなかったが為に何も言えねーっていうな。



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