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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第二章 進展
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31

「亮介行くわよ」姉貴にそう言われながら、引きずられるようにして俺は家に帰った。

「亮介、大丈夫?」

「俺は人なんか殺してなんていない……」

「そんなこと分かってるって、当たり前でしょう。あんなのどこにも怒りをぶつける所がないから亮介にそんな酷いことを言ってるのよ」

「……」

 俺の心はさすがに傷ついたのか、ポロポロと涙が零れ落ちる。

 男が泣くもんじゃない。誰かが幼いころに俺に言った言葉。しかし、俺のプライドはズタズタに傷つけられててしまった。

  その後、俺たち家族は更に、あまりにも理不尽な事をされてしまうのであった。


「今日もポストの中にこんな物が入っていたのよ」

 オカンに手渡された広告を広げる。スーパの広告が入っていて、大問題だ。

 広告が問題なのではない。問題なのはその広告の裏に書いてある言葉だった。 赤く大きな文字で「人殺し」と書いてある。 

 始めのうちはオカンも俺に見られないように隠してくれていたのだが、余りにも続くため隠すのも馬鹿らしくなってしまったらしい。


 しかし、それはストレス以外に他になかった。どうも、多田さんは奥さんを亡くされてからというもの、人が変わったようになってしまったらしく、真夜中でも大音量で音楽をかけるようになっていった。

 それは近所迷惑以外に他ならず、この団地外の人からも苦情が来ているらしかった。

 怖いのは、俺がバイトから帰ってくるときとかに、外に出て懐中電灯を照らしながら、望遠鏡で覗いている事だった。

 一度、海外から慌てて帰宅したオトンが、高級菓子折りを持参し、多田さんの所にお邪魔したのだが、多田さんは応じるどころか、


 「人殺し親子め、退散しろ」と大きな声で、それもスピーカーを通して言ってきて、オトンは余りの失礼さに「相手にすることない」とかなり憤っていた。


 その時にICレコードや監視カメラなどあらゆる物を用意してくれたのだが、それを知っているのか知らないかは定かではないが、多田さんはそんなことで臆することはなく、これと言って、そのお蔭で態度が改まった、という様な事は一切なかった。


 ただ、念のためその時がきたらしっかりと証拠として提出するために、数々の奇行を確実に保存してはいた。


 そして、自分の所に届いていたハンカチは二つ隣の家、神戸さんの家に入れておいた。


 巷ではすっかりクリスマスムードで賑わっている。今年は、俺も、家族とではなく川嶋さんと過ごすんだと、その思いが俺を強くさせた。


 12月24日クリスマスイヴの日。

 バイトが終わると、すぐに家に帰り新しく買った服に全身着替えて一時間も早く待ち合わせの場所に向かった。

 まずはモール内でご飯食って、それから映画を観ることになっている。きっと多いだろうが、そんなことはちっとも嫌ではなかった。


 もともと、人混みは嫌いな方ではあるのだが、例えば美味しいラーメン屋が一時間以上の行列だったとしても川嶋さんとなら楽しく並べるような気がしてならない。

 川嶋さんが来ないうちに俺はATMでお金を下ろしに向かう。今日、いくら使うのか分からないが、手持ちが足りないというような、そんな情けない事だけは避けたかったのだ。


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