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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第二章 進展
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17

 マジで、うまかったよなあー。

 もしもさー、もしも、川嶋さんが俺の奥さんとかになっちゃったりしたらさ川嶋さんの手料理毎日食えるんだよな~?いや~そんなのって、幸せだなぁ俺。

 

  幸せに浸りながら寝落ちしたことに気が付いたのは、真夜中の2時過ぎであった。どうやら無造作にベットの上に置いていた携帯電話を眠っている間に足でけり落としたらしくその音で目が覚めたのだ。

 また電気点けっぱなしで寝ていたのかよ。


 まだこんな時間、もう少し眠れるな、よしっ。携帯を無造作に置いていては駄目だな、部屋の電気を消し、もう一度眠りにつく。


しかし、なんだか、あれだな。変な時間に目が覚めたらさ、眠れないんだな。布団に包まり、どうにか眠ろうとしても、なかなか寝付けることが出来ない。


 ガタン――ッ。


 外から何か大きな物でも落としたような衝撃音が聞こえてくる。

 なんだ?なにか落としたのか?気になってベッドから起き上がりカーテンを開けて窓から外を見る。


 

 外には男の人が一生懸命カラーボックスの様な物を運んでいる。

 こんな時間になにしているのだろうか。しばらく立ったままその様子を窺う。

 う~ん、あれはどう見ても引っ越しをしている、いや引っ越しというか、あれだ、まるで夜逃げだ。


 なぜ、こんな夜中にそんな物を運ぶ必要があるのだろうか。まぁ俺だって、引っ越しを経験した身だから分からんでもないが。

 引っ越しするなら、当日までには軽いものは少しでも運んでおいた方が後が楽だからな。

 それにしたって、カラーボックスまで運ぶなんて業者に頼んだ方がいいような気がするのだが。


 なんか奇妙な感じと言うか。部屋の電気を点けて、引き出しを開け、自作した地図を取り出す。えーと、あそこの家の人はと……。

 物を運び出している家はと、えーと、この道の曲がり角の所の真正面の右隣の……あぁ、関井さんか。


 え、あそこの家まだ結構新しいぞ?しかも、結構大きな家なのに何の不満があるというのだ?脳裏に赤いハンカチの事が浮かぶ。


 やはり、そういうことなのか?

 真相は分からないが、大きな原因の一つとして、ハンカチが回ってくることに対する恐怖と気味悪さと疲れを感じて嫌になったのではないだろうか。


 実際、俺はそんな風に感じているのだ。

 せっかく新しく建ったばかりの新築戸建てに引っ越してきて、それも念願のマイルームを手に入れることが出来たというのに、心底安心して暮らす、ことが出来ない。平凡に暮らしたいだけなのに。


 ハンカチという存在が妙に煩わしく、いつ、何が起きるのか分からない状況でハンカチが自分の家のポストに入っていた時の、あの恐怖感と怒り、焦燥感。


 引っ越す前に誰がこんな事を想像出来たというのだろうか。

 次々と物を運び出す関井さん一家を見て、逃げる事が出来てズルいという気持ちと応援したい気持ち、相反するこの気持ち。


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