21
「ちげーよ。煙草なんか吸わねーよ」
「じゃあ何に使うのか言ってみな?」姉貴が腕組みしながら言う。
く、くっそ~完全に馬鹿にされてる……。
「お香だよ」
「は~、お香?なんで?買ったの?」姉貴はいかにも意外そうな顔をして言う。
「いや。もらったんだよ」
「誰に?」
「川嶋……って姉ちゃんに言っても仕方ねーじゃん」
「まぁね、それはそうね、興味もないわ、ふふふー」
「姉ちゃんこそなんでライターなんか持ってんだよ」
「ビューラーをライターで温めるとまつ毛が上がるのよ」
「ビューラー?じゃあ悪いけどさライター貸して」ビューラーと言えば女性版のペンチの様なアレの事かと、その映像が浮かぶ。
「貸してくれじゃなくて貸してくださいでしょう?」
「はい、貸してください……」
「もう、しかたないわねぇハイ」
「ありがとうございます」
なんかさ俺って本当に弱いよな。自分でも思う。俺は姉貴に借りたライターと適当に選んだ皿を持って自分の部屋へと上がる。
机の上に皿を置き、川嶋さんからもらったお香を選ぶ。う~んチャンダンっていうのにしてみるか。
「亮介~も~亮介~」オカンが俺を呼ぶ声がする。
「なんだよ~」
「亮介~これ~」オカンは何か言っているが、何を言っているのか分からないので、面倒くさいながらにも一階までわざわざ下りた。
「なんか呼んだ~?」
「亮介、このめんつゆ二倍濃縮じゃないじゃない」
「え?めんつゆ買ってきただろ?」
「亮介が買ってきたのは、ストレートのめんつゆじゃない」
「……」
「しかも、こんな大きい白菜丸々買って、重かっかたでしょうに」
「なんだよ~せっかく買って来てやったのに文句言うのかよ」俺はムッとなって二階に上がった。
「亮介~ありがとうね。お母さん助かるわ」オカンは俺が二階に行く後ろ姿に向かって叫んだ。
階段の埃が電気に照らされて目につく。
めんつゆのストレートとかなんだよ~そんなの分かるかって。それなら最初から紙に書いていてくれれば良かっただろ。あーめんどくせ。
俺は、チャンダンに火を点けて炎を手で仰いで消した後、クリップにお香を挟み皿の上に立たせる。
う~ん甘い匂いそういえば、あいつ……川嶋さんこんな匂いがしてたよな。俺はお香から煙が上がるのをじーっと見つめた。




