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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第一章 始業
21/149

21

「ちげーよ。煙草なんか吸わねーよ」

「じゃあ何に使うのか言ってみな?」姉貴が腕組みしながら言う。


 く、くっそ~完全に馬鹿にされてる……。


「お香だよ」

「は~、お香?なんで?買ったの?」姉貴はいかにも意外そうな顔をして言う。

「いや。もらったんだよ」

「誰に?」

「川嶋……って姉ちゃんに言っても仕方ねーじゃん」


「まぁね、それはそうね、興味もないわ、ふふふー」

「姉ちゃんこそなんでライターなんか持ってんだよ」

「ビューラーをライターで温めるとまつ毛が上がるのよ」

「ビューラー?じゃあ悪いけどさライター貸して」ビューラーと言えば女性版のペンチの様なアレの事かと、その映像が浮かぶ。


「貸してくれじゃなくて貸してくださいでしょう?」

「はい、貸してください……」

「もう、しかたないわねぇハイ」

「ありがとうございます」

 なんかさ俺って本当に弱いよな。自分でも思う。俺は姉貴に借りたライターと適当に選んだ皿を持って自分の部屋へと上がる。


 机の上に皿を置き、川嶋さんからもらったお香を選ぶ。う~んチャンダンっていうのにしてみるか。

「亮介~も~亮介~」オカンが俺を呼ぶ声がする。

「なんだよ~」

「亮介~これ~」オカンは何か言っているが、何を言っているのか分からないので、面倒くさいながらにも一階までわざわざ下りた。

「なんか呼んだ~?」

「亮介、このめんつゆ二倍濃縮じゃないじゃない」

「え?めんつゆ買ってきただろ?」


「亮介が買ってきたのは、ストレートのめんつゆじゃない」

「……」

「しかも、こんな大きい白菜丸々買って、重かっかたでしょうに」

「なんだよ~せっかく買って来てやったのに文句言うのかよ」俺はムッとなって二階に上がった。

「亮介~ありがとうね。お母さん助かるわ」オカンは俺が二階に行く後ろ姿に向かって叫んだ。

 階段の埃が電気に照らされて目につく。

 めんつゆのストレートとかなんだよ~そんなの分かるかって。それなら最初から紙に書いていてくれれば良かっただろ。あーめんどくせ。


 俺は、チャンダンに火を点けて炎を手で仰いで消した後、クリップにお香を挟み皿の上に立たせる。


 う~ん甘い匂いそういえば、あいつ……川嶋さんこんな匂いがしてたよな。俺はお香から煙が上がるのをじーっと見つめた。

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