34
それを知らされていなかった俺は、すっかり困り果ててしまった。
無論、川嶋さんにはその映画を観たくないなんて事はこれっぽちも伝えていない。
それどころか、平気な顔をして館内へと入って行った。
こんなことならヘッドフォンでも持って来ればよかったと思った。
本当の気持ちを正直に言うと、ホラーは苦手だ。いや、それも日本人の白い肌に黒髪系は本当に苦手だ。
夢の中に出てきそうだし、シャワーするときとか目を開けられなくなるじゃん?お化けには俺だって負けるよ。
当たり前だろう?お化けって死んでんだぞ?そんな奴に勝てるわけない。
どうする?理由付けてここから出ることにする?ハァ~。重いため息を落とす。
「どうしたの関谷君?お腹でも痛いの?」青白くなっているであろう俺の顔色とは正反対に川嶋さんは、ものすごくノリノリな感じで、楽しみで仕方ないという感じだ。
しかもこんな映画な時に限って一番後ろの席って言うな。
一番後ろと言う事は、振り返ると壁で・・・…もしかしたらこんなホラー映画なんかみたせいでお化けがコンクリの中から出てきて、俺の肩の後ろにいるかもしれないじゃーないか。
こんな事なら首が痛くなってもいいから一番前の方がまだマシだったかも。いや、一番前もやっぱないな。
真ん中あたりがちょうどいいよな。前に人がいて安心するし後ろにも人がいて安心するしな。
「大丈夫、ちょっとお腹が痛いだけ。肉食ったからだろう。途中やばくなったらトイレいくかもしんない」
「え?大丈夫?お腹痛いの?」
「あ、大丈夫大丈夫。生まれつき。腹弱いのなんて本当にいつものことだから。別に身体が弱いっていうわけではないから」
そして、数分後恐ろしい映画は始まってしまいストーリーが展開されていく。
井戸から白い着物を来た女が這い出てくる……観客はその瞬間に叫んでいて、怖すぎて完全に固まってしまった俺は叫ぶことすら出来なくて、石造の様になっていいた。
しかし、その横の川嶋さんは、叫び声はあげず面白そうにしてスクリーンを見つめていた。
怖くないのだろうか……。
映画が終わってから、暫く幽霊の残像が消えずに、夜一人で寝ることに不安を覚えた。
「もう、あそこで幽霊でてくるとか想像通りって感じじゃなかった?怖がらせてやろう感が丸わかりって感じじゃない?」
……だから川嶋さんは井戸から女が這い出てきたときに、あんな顔をして観ていたのか。
女はキャーって言ってしがみついてくるもんだと思ったが、俺は何度か川嶋さんにしがみつきそうになったのを必死に我慢したんだぞ……我慢できてよかったよ。
時計を見るとすっかり夕方になっていた。
「これからどうする?そろそろ帰ろうか?」




