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「ありがとさん。とりあえず町内一周は走ったよ」
「いいなー、マジで羨ましいわ」
国神さんがフォルツァに乗って爽快感を感じながらバイクを走らせる姿が思い浮かんでくる。
「関谷君もそろそろな感じ?」
「うんもうすぐ卒検」
「おー頑張ってんじゃーん」
「頑張りますよ。国神さんの事聞いて気合入ったわ」
国神さんはかなり嬉しそうな顔をしていて、幸せオーラと言う物が漂っている。俺もあともう少しだ頑張ろう。
自動車学校から帰りお風呂を入っている時に、それを思い出した。そういえば黄色いハンカチを渡していないじゃないか、と。
慌ててお風呂から出て、「ハンカチどこ?」と聞く。
「玄関になかった?」呑気そうにオカンが言う。
「は?玄関?俺が行ってから朝から今まで、玄関に置きっぱなしだったのかよ?不用心だな」そう言いながら玄関に取に行くが、どこにも見当たらない。
なぜだ?
どこにある?「オカ~ン」と言いながら下駄箱を調べる。
ない。ここにはない。下駄箱にも見当たらない。
「あったでしょう?」そういいながらオカンも一緒になって探し始める。
「おかしいわね~」その声に俺の不安が募っていく。
「オカン、どこにやったんだよ?」黄色いハンカチが見当たらず、ついには姉貴のブーツの中まで覗き込んでいる。
「オカン、そんなところに入れたのかよ」絶句する俺。
「ないわね~千絵~千絵ちゃんちょっと下りてきて」オカンは階段下から階上に向かって叫んだ。
「おかん、だから近所迷惑だってそれ」
「はーいなに?」姉貴は気怠そうにしながら、俺とオカンを見下ろすような形で、上からそう言った。
「いいから下りてきてちょうだい」オカンがそういうと姉貴は、仕方ないな~と言う風にも~と言いながら下りてきた。
「なに?」
「千絵ここに置いてあった黄色いハンカチ知らない?」オカンがそういうと姉貴は少し間を置いた後に「知らない」と答えた。
俺の顔はみるみるうちに、真っ青になって行く。
あの時、オカンに置いといてくれなんて言うんじゃなかった、遅刻してでもC町へ届けるべきだった。
そう思いながら、大変な事になってしまったと思い始めた。
怒り、焦り、憤り、反省、憎しみ、色々な感情、それらがすべて一塊になり一度にゴツゴツとこちらに向かって転がり落ちてきて、逃げられなければ死が俺を待ち受けているかのようだ。




