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30話:ユリ・キサラギの刀

「ああ、これは丁寧にどうも、俺は……」


 彼女はユリ・キサラギと名乗った。


 となれば、俺もケイト・クリエダと名乗るべきか。


「俺はケイト・クリエダです」


 名乗りながら緑色の冒険者カードを見せる。


「……おお! クリエダ殿もマスタークラスでしたか!」


 凄く人当たりの良さそうな少女だが、キーコのウッドマンを軽々と斬り捨てた人物だ。


 倒したことに対するネガティブな気持ちがないが、その実力には警戒してしまう。


「しかしドールマスターとは初めて聞くクラスですね」


 キサラギは親指と人差し指を伸ばして右手を顎にあて、考えるように上を見ている。


「向こうでもよく言われます」


 愛想笑いで返しておこう。


「そうでしたか!」


 キサラギは快活的な笑顔で流してくれた。


 この先のことを考えると、キーコのウッドマンについては説明しておくべきだろう。


 もし話していなければまた同じように斬り倒されてしまうかもしれないし。


「あー、実はなんですが」


「なんでしょう?」


「さっきの木の人形、この子が生成した護衛用のゴーレムなんですよ」


 キサラギの目と口が大きく開かれる。


 見事なほどのやってしまったという顔だ。


「そ、そ、それは大変申し訳ないことを!!!!」


 そして流れるように土下座姿勢をとった。


「あ、いや、別にこっちにそんな被害はなかったので、あまり気にしないでください。な?」


「……マスターがそう言うなら問題ない」


 キーコは相変わらず無表情だが、どこか気に入らなさそうな雰囲気だ。


 ウッドマンを簡単に斬られてしまったことが気に食わないのかもしれない。


「ううう……このままでは申し訳がたちません、何か私にできることがあれば何でも言ってください……」


「えっ、なんでも?」


「あっ、いや、えっと……」


 キサラギは顔を赤らめている。


 これ以上からかうのはやめておこう。


「それじゃあ、あの町の案内とか、お米売ってるところとか教えてくれませんか?」


 とにかく今の俺たちは情報が圧倒的に足りない。


 そこへ転がり込んだこのチャンスを逃す手はない。


 ありがたく有効利用させてもらおう。


「……そんなことでいいんですか?」


「俺たちこの島へは初めてきたばかりで、右も左も分からないので」


 苦笑いしながら返しておく。


 あまり変なことをさせて恨みを買いたくもないし、これでいいくらいだ。


「……わかりました。町の案内を全力で務めさせていただきます!」


 キサラギは起き上がって拳を胸に当て、責任感を持ってやってくれることを誓ってくれた。


 これで迷うことなくスムーズに米までたどり着けるだろう。


 でもいきなり斬りかかってきた人だし、大丈夫だろうかという不安もある。


 何もないよりはマシだと言い聞かせて、キサラギについていった。




 誰も何も喋らないので無言が続く。


 キサラギは真剣に案内をしてくれて、ドールたちは無駄な会話はしないように徹底しているように見える。


 このままでは俺が息苦しいから、何か話題でも振ってみよう。


「そういえばキサラギさん、こっちではロード種はでたんですか?」


 コボルトかオーガ、どちらかが出ていると俺は考えている。


「はい、こちらではオーガロードがでましたが、私の一刀のもと、成敗いたしました!」


 歩きながらこっちへ振り返り、笑顔で説明してくれた。


「えっと、一人で倒したんですか?」


「ええ、ですが私が戦えたのは、この愛刀大嶽丸のおかげです」


 腰に携えている紫の刀に触れている。


「強力な妖の力が封じられているとされているこの刀のおかげで、私はどんな相手にも負けたことはありません!」


 なんとなくだが、それはもしかして妖刀の類では?


 紫色は妖刀と相場は決まっている。


 一気に怪しくなってきたな。


「……へー、おおたけまるって何かの名前なんですか?」


「大嶽丸とは鬼神魔王の名で、過去にこの島を死の恐怖に陥れた悪鬼でした。しかしそれを私のご先祖様が封じることに成功して、この様にその力の一部を刀として活用しているのです!」


 これは暴走するやつだな、間違いない。俺は詳しいんだ。


「……一部ということは、まだ他にもその力があるんですか?」


「……私もこれ以上は知らされていませんので、わかりかねます」


 最後の言葉はなんだか平坦なように聞こえた気がした。


 もしかしたら何か隠しているのか、俺には話せないことなのかもしれない。


 大事な話をホイホイ話してしまうほど愚かではなさそうだ。


 鬼神魔王大嶽丸の力が宿った刀か。


 キーコのウッドマンもスパスパ斬ってたし、本当にヤバそうな刀だなぁ。


 彼女とは敵対しないように気をつけよう。


「あ、町の入り口が見えてきましたよ!」


 緩やかな坂を登り切ったところで大きな町が見えた。


「おおー……」


「ここが私たちの国、大和国です!」

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