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18話:ゴブリン

 長い時間荷台に揺られてようやく目的地のアレムド草原に到着した。


 俺たちが荷台から降りると、馬車は街へは戻らずそのまま進んでいった。


「……帰りは?」


 帰りはアースゴーレムで戻るという手段があるので、別に馬車がいなくなってしまっても困ることはなかったけど、どういう風に帰るのかが気になったので一時的にパーティーを組んでいる二人に聞いてみた。


「定期的に馬車がここを通りますので、それに乗せてもらって帰ります」


 答えてくれたのは見習い格闘家のシロンだ。


 もう一人の見習い剣士のライネスは周囲を見渡していた。


 同じように周囲を見渡して地形を確認する。


 短く生え並んだ草が地面を圧倒していて、その広大さに俺自身も圧倒された。


 見渡す限り草原といった感じで、ちょこちょこ木が生えていたり、突出している崖のようになっている岩場もちらほら見かける。


「ゴブリンたちはいないようだな……」


 周囲を見渡してライネスが安心したように息をついた。


 ここでアス子のアースゴーレムを出すか悩んだが、今はキーコのウッドマンで様子を見ていこう。


「キーコ、ウッドマンをお願い」


「ん」


 キーコが四つん這いになり、ウッドマンの生成を始める。


「何してるんですか?」


 それが気になったシロンが不思議そうにキーコを見ていた。


「メイク、ウッドマン」


「そうだね、ゴーレムを作ってもらってるところかな」


「ゴーレム?」


 地面から蔓が生え、成長して大きくなり、やがて木へ変化して人間の姿になり、五体のウッドマンが生成された。


「えっ、すっごーい!」


「ドールがゴーレムを生成することもできるのか……」


 シロンとライネスはウッドマンの生成の過程を見て驚嘆していた。


「戦闘はこのウッドマンたちに任せるから、俺は後ろで見学させてもらうよ」


「……ケイトは戦わないのか?」


 ライネスが不思議そうに俺を見ている。


 確かにこれだけの力を持っている人間が戦わないというのも不思議に思うだろう。


「残念ながら俺には戦闘能力がないからね、その分みんなが戦ってくれるから、安心して欲しい」


「赤髪の方はあの大きな男の人を簡単に倒していましたもんね……」


 シロンは火子とブルックのやり取りを思い出しているのだろう。


「それじゃ薬草のある場所まで案内してくれるかな?」


「ああ」


 ライネスたちに案内をお願いしたけど、実際キーコのウッドマンたちに探索させればすぐ見つかりそうではある。


 だけど今はパーティーとして二人ときているので、二人のことを尊重しつつクエストをこなしていきたい。


 ライネスを先頭にして進んだ場所は切り立った岩場の近くだった。


「この辺りで薬草が採れるだんが……」


 ライネスの雰囲気が変わった。


 岩場のほうを見ると数匹のゴブリンたちがこっちを見ていた。


 緑色の肌に尖った鼻と耳、小さい体にボロの腰巻をつけ、片手には木のこん棒のような武器。


 ファンタジーゲームでよく見るゴブリンそのものだった。


「あいつらが邪魔して採れないんです……!」


 数は十匹くらいだろうか。


 シロンも構え、ゴブリンたちに備えていた。


「いくら倒しても次から次へと湧いてくる厄介な奴らだ」


「……あのゴブリンって、倒してしまっても構わないんだよね?」


「あ、ああ……」


 俺の問いにライネスが困惑しながら答えてくれた。


 ゴブリンを倒すことは簡単だと思うけど、本当に倒してしまっていいのか不安になり、念のため聞いておいた。


 あとで本当は倒してはいけない存在だったなんてことになったら困る。


 一説ではゴブリンは精霊や妖精という説もあるので、そんな存在を殺してしまうと色々とマズそうだからだ。


「分かった。それじゃ──」


「茨の枷」


「フレイムアロー」


「ウォ~タ~レ~ザ~」


「ロックシュート!」


 キーコ、火子、スイ子さん、アス子が魔法を使い、ゴブリンを瞬殺した。


「やりました!」


 アス子たちが得意げに俺を見ている。


 それを見ていたシロンとライネスが驚愕の表情でゴブリンのいた場所を見て固まっていた。


「うっそ……」


「ありえない……」


 二人の反応を見て俺も共感する。


 正直十匹近いゴブリンたちをここまで簡単に瞬殺するとは思っていなかった。


 というか生成したウッドマンたちの意味は。


「と、とりあえず今のうちに薬草を採取しに行ったほうがいいんじゃないかな?」


 話しかけたことで二人の硬直が解けたように動きだす。


「そ、そうですね!」


「……まだ出てくる思う。油断するな」


「じゃあウッドマンたちを先導させるよ」


 薬草のある場所にウッドマンたちを先行させると、その内の一体が頭を矢で射抜かれた。


「え?」


「なっ!?」


 俺がマヌケな反応をしているのに対し、ライネスが怯えたように切り立った崖上を見ていた。


 そこには弓を持ったゴブリンたちがさっきの倍以上いたのだ。


「茨の枷」


「フレイムアロー」


「ウォ~タ~レ~ザ~」


「ロックシュート!」


 さっきと同じ光景が繰り返された。


「いくら数が増えても結局同じ」


 キーコは興味なさそうに話し、ウッドマンに刺さった矢をウッドマンに抜かせていた。


「マイマスター、いくら数が増えようと敵ではありません」


「楽しい的当てですね~」


「どんとこいゴブリンたちです!」


 冒険者ギルドからここまでの鬱憤を晴らすかのように魔法を使い、ゴブリンたちを瞬殺していくアス子たちを見て乾いた笑いが出た。


(いくらゴブリンでもここまで瞬殺するなんてなぁ……)


 ちらりとシロンとライネスを見ると魂が抜けたように呆けていた。


「ふ、二人とも! 急いで薬草集めよう!!」


 

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